28話 蝉原の弟子『超苺』視点(4)


 28話 蝉原の弟子『超苺』視点(4)



 ――奥にある『超VIPルーム』に案内された師匠と俺とボウ。

 デビナとクロートは、裏カジノの出入り口を固めて、誰一人、逃げられないように見張っている。


 俺たち三人を出迎えたのは、

 師匠ほどではないが『なかなかの邪悪さ』がにじみ出ている『顔面タトゥーのヤバそうなオッサン』だった。


「……うちの店で、よくもハデに暴れてくれたな。覚悟はできているのか?」


 巻(ま)き舌(じた)で、怒りをにじませながら、そんなことを言ってきた。


 そんな『顔面タトゥー』に対し、

 師匠は、


「落ち着けよ、オッサン。おれは、ケンカしにきたんじゃない。交渉にきたんだ」


「いきなり暴れておいてよく言う」


「ウチのところの『若い衆(しゅう)』は血の気が多いんだ。ナメた態度をとられると、簡単にキレてしまう。それをふまえた上で、おれたちに対応してもらいたいね」


「……ここまで……ナメられたのは……はじめてだ……」


 怒りに震えている顔面タトゥーに対し、

 師匠は、にこやかな笑顔で、たんたんと、


「とりあえず、おれの配下になることを許してやるから、両手をついて、クツをなめろ」


「……」


「どうした? 言っておくが、交渉チャンスは一度だけだ。チャンスの女神は前髪だけ。というわけで、はやくしろ。おれは気が短いんだ」


「……ナメんな、くそがきぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


 怒声(どせい)を上げて、

 『顔面タトゥー』は、師匠に殴りかかった。


 血走った目で、オーラを暴走させ、

 全力の一撃を、師匠に叩き込む。


 この顔面タトゥー、かなりの力量だった。

 存在値360。

 いわゆる『魔王級』の実力者。


 『邪神教』と呼ばれている、この世界最大の『裏組織』の幹部(かんぶ)らしい。

 邪神教は、『魔王に匹敵する実力者』が何名も在籍(ざいせき)しているヤバい組織。

 どうやら、『究極の邪神』を召喚して、この世界を支配することが目的らしい。


 そんな、ヤベェ組織の、やべぇ幹部の、強大な一撃。


 けれど、


「ウワサ通り、まあまあ強いな。『邪神教』とやらには、お前みたいな実力者が、他にも、けっこういるんだろ? いい仕上がりだ。邪神教は、なかなか使えそうじゃないか」


「っ……ぐっ……」


 顔面タトゥーは、一度、師匠から距離をとった。

 一発で、『師匠のヤバさ』を理解したらしい。


 そこそこ修羅場(しゅらば)をくぐっているっぽい。


 顔面タトゥーは、

 背後にいた部下に、


「カミーレンを呼んでこい!」


 そう命じると、


「――すでに呼んであります」


 と、返事をしたと同時、


 背後から、一人のバニーガールが突撃してきた。


 上のカジノでディーラーをしていた足の長いバニーガール。


 彼女は、『装備しているレイピア』の『切っ先』を、師匠の首めがけてつきさした。




「思ったとおり、お前も、それなりの実力者だな。まあ、どうあがいても、俺には勝てないが」




 バニーガールのレイピアは、師匠の首にあたると同時にヘシ折れてしまった。

 その事実を目(ま)のあたりにして、目を丸くするバニーガール。


「さてと……」


 師匠は、そう言いながら、ゆっくりと立ち上がる。

 威圧(いあつ)するように、指の関節をゴキゴキっと鳴らして、

 一度、俺に視線を向けて、


「超苺(こいちご)、その女は、お前に任せる」


 と、命令してきた。


 俺は、心の底から『はい!』と返事をしたかったが、

 あまり喜んでいる姿を見られるのも恥ずかしいので、

 いつもどおり、黙ってうなずいておく。


 ちなみに、クロートが、また、『くやしそうな顔』で俺をみてくる。

 たぶん『自分(クロート)ではなく、俺の方が信頼されているのが悔しい』とか思っているんだろうな。

 絶対に違うんだがなぁ……


 あいつ、イケメンのくせに、メンヘラなところがあるよなぁ。

 ……ま、どうでもいいけど。



 俺は、クロートのことを意識からはずして、まっすぐにバニーガールと向き合う。

 こうなったら、もうこっちのもん。

 彼女の姿を、どれだけ見つめても問題は皆無。

 だって、戦闘中だもん。

 目を離したらいけないもん。

 むしろ、目線を切ったら怒られちゃうもん。


 大義名分(たいぎめいぶん)を得た俺が、

 つい、じっくりと、見つめてしまったせいで、


「ぐっ……う……な、なに、この異常なほどの殺気……と、とんでもない化け物……か、勝てる気がしない……」


 どうやら、俺の『なめるような目線』を『殺気』ととらえられてしまったらしい。

 こういうことがよくある。

 どうやら、俺の目は、マジで、ちょっと怖いらしい。

 『ただ、じっくりと見ているだけ』なのに、

 怖いと言われることがままある。


 まあ、別にいいけどね。

 俺は、嫌われても別にいい。


 すかれることを目的とはしていない。

 カワイイ女の子をながめることが出来れば、それで俺は満足なのさ。



 ビビっている彼女に対し、

 顔面タトゥーが、


「なにを怯(ひる)んでいる! カミーレン! 引いたら、殺すぞ! 自分に『グラムド様の呪い』がかかっているということを忘れるなぁ!」


「……わ、わかっています……っ」


 そう言って、

 カミーレンは、恐怖を飲み込むように、奥歯をかみしめて、

 俺の方に突撃してきた。


 ……『呪い』ねぇ。

 確かに、かかっている。


 これは、『命令にそむいたら死ぬ系の呪い』かな。

 師匠にもかかっているタイプのアレだ。

 師匠は、セン様に逆らうと死んでしまう。


 カミーレンにかけられている呪いは、

 師匠にかけられているものと比べたらゴミみたいなものだが、

 存在値500以下の者では解(と)くことが出来ない、そこそこの呪い。


 カミーレンは、どうにかして、俺を殺そうと、

 アイテムボックスから取り出した剣を振り下ろしてきた。


 その表情は、哀(かな)しさで満ちていた。

 ……そんな顔をしている女の子は美しくない。



 俺は、その剣をサラっと弾(はじ)き飛ばしてから、


「………………解呪(かいじゅ)ランク23」


 カミーレンにかけられている呪いを解除しておく。


「ぇ……ぇえ……っ?」


 俺は、一応、存在値が700以上ある。

 俺からすれば、この程度の呪いは一撃必殺。


「き、消えて……いく……そんな……こ、これほどの強大な『グラムドの呪い』を……そ、そんな……」


 自分に起こったことが信じられないという顔をしているカミーレン。

 カミーレンは、俺のことをジっと見つめて、


「……あ、あの……私の呪いを……解いてくださったのですか……な、なぜ……敵である私を……どうして……」


 しゃべるのはタルいから嫌なのだが、

 ここで黙っているのもアレなので、俺は、


「………………自由に生きろ。もう、誰もお前を縛(しば)らない」


 俺が『わずかに聞こえるぐらいの声量』でそう言うと、

 カミーレンは、顔をパっと輝かせた。

 希望を見ている目。


 それでいい。

 その顔こそが美しい。



「……あ……ありがとう……ありがとう……ございます」



 涙ぐんだ声。

 涙も美しい。


 かなしい涙は美しくないが、

 喜びの涙はアクセサリーだ。



「………………感謝はいらない。俺は俺のためにしか動かない」



 それだけ言ってから、俺は、

 彼女から視線を外す。

 泣いている女の子を見るのはマナー違反だ。


 ――と、そんな俺たちの一連の様子を見ていた顔面タトゥーが、


「はぁあああああああ?! 『グラムド様の呪い』を解いたぁああああ?! ばかなぁああああああ! グラムド様は、六大魔王級の使い手なんぞ! なのに、なのにぃ……なんでぇええ! と、というか、ランク23の魔法だとぉおおお?! なんだ、それはぁああああ! 六大魔王でも、ランク20以上の魔法などめったに使えないんだぞぉおお!」


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