21話 デビナ視点(3)


 21話 デビナ視点(3)


 ロードライト・ハデス・ワイズマンは、実際、まあまあ強いモンスターだ。

 知性がバリ高くて、能力もクソ高い。

 ちなみに、ここでいう知性ってのは『戦闘AI』のこと。

 『魔人に進化』しねぇと、『本物の知性』は得られねぇ。



「――『死王連斬(しおうれんざん)ランク20』!!」



 『即死(そくし)の効果』が込められた『鎌(かま)の斬撃』が飛んできた。

 前衛職のあたしに、こんな『中距離系の魔法』が通じるわけねぇだろ。

 遅すぎて、アクビが出るぜ、ボケが。


 あたしは、ヒョヒョイっと、飛んできた斬撃をさばいてから、


「そこそこの魔法を使うじゃねぇか! つまんねぇもんを見せてくれたおかえしに、あたしの『グリムアーツ』を見せてやるよ」


 グリムアーツは、格ゲーのコマンド技みたいなもの。

 『魔力を使う魔法』ではなく、

 『肉体を使う必殺技』の総称(そうしょう)。


 アポロの『龍撃(りゅうげき)/反譜(はんぷ)』とか、

 師匠の『殺神覇龍拳』(さつじんはりゅうけん)とか、

 あの辺、全部、グリムアーツだ。


 『名前』をつけて、『熟練度を上げる』ことで、

 ただのパンチやキックを正式に『必殺技』へと昇華(しょうか)させるシステム。

 魔法と違い、MPが必要ねぇし、極(きわ)めれば、魔法以上の火力も出せる。


 ま、その分、練習をサボったら、すぐに威力が落ちるけどな。


「刮目(かつもく)しろよ、クソモンスタァア! 激烈(げきれつ)な一撃を見せてやるからよぉ! 間違いなく一撃で死ぬから、まばたき厳禁(げんきん)だぜぇええ!!」


 そういいながら、あたしは、拳にバフをかける。


「獄炎術(ごくえんじゅつ)ランク23!!」


 これは魔法。

 MPを消費して、拳に獄炎をエンチャントする。


 ――そんで、これが、



「ブレイズアッパァアアアッッ!!」



 あたしが頻繁(ひんぱん)に使うグリムアーツ。

 ようは、ただのアッパー。

 けど、ちゃんと『必殺技』として昇華されている。

 その証拠と言っちゃあなんだが、


「――がぁあああああああああああああああっっ!!」


 ごらんのとおり、

 超王級のすさまじいモンスターもワンパンよ。


 『龍の女神アポロ』には、ほとんどきかなかったが、あれは、相手が悪すぎた。

 ああいう『例外中の例外』をのぞけば、『あたしの拳(こぶし)』は世界を獲(と)れる。


 『闇にとけていくロードライト』の『最後』をみとったフード野郎は、

 口をパクパクとさせて、


「ま、まさか……そんなバカな……六大魔王と同等の力を持つ死神だぞ……そ、それを一撃など……」


「不思議だよなぁ?! で、つまり、現状は、どういうことだぁ?! その足りねぇ頭でよーく考えてみろ?! お前には、あたしがどう見える?! 言ってみなぁ!」


 語気を強めて、そう言ってやると、

 フード野郎は、ブルブルと震(ふる)え出した。


 さっきまでは、『状況』に対する『驚愕(きょうがく)』が勝(まさ)っていたようだが、今は、あたしに対する『恐怖』が上回ったらしい。


 その目、いいぜぇ。

 ゾクゾクする。


 あたしに『畏(おそ)れ』を抱(いだ)いている目。

 そうだ。

 その目であたしを見ろ。


 あたしという恐怖に溺(おぼ)れろ。


 あたしは、ファイアゲート・デビナ・バーサキュリア。


 悪の化身。

 魔の権化(ごんげ)。



 世界を闇に叩き落す、

 最高位の悪魔――



 ……っと、

 やべぇ、やべぇ、

 つい、自分の『黒さ』にトリップしちまった。


 世界を闇に叩き落したりしたら、

 セン様に怒られちまう。

 それはダメだ。


 できれば、世界中を恐怖と絶望のどん底に沈(しず)めてやりたいが、

 そんな『自分のチャチな欲望(よくぼう)』よりも、

 『セン様に嫌われる怖さ』の方がはるかに上。


 セン様がいてくれてよかったな、世界!

 おかげで、てめぇは地獄を見なくてすんだ!

 セン様の尊(とうと)さに感謝しな!


「ど、どういう存在なんだ、貴様……女神教は……六大魔王以上の強者を隠し持っていたというのか……っ……」


 フード野郎は、頭を抱えて、

 よだれを垂らしながら、


「ぁ、ありえないだろぉおお! 超王級を一撃で殺すなど、そんなことが出来るのは『龍の女神』ぐらい――はっ……まさか、貴様、『龍の女神の擬態(ぎたい)』か! そうか! そうだ!」


 なんか、あたしを置き去りにして、勝手に納得(なっとく)しているが、

 『最初から全部、間違っている』と教えてやった方がいいのかね?


「卑怯(ひきょう)だぞ! 龍の女神! 貴様は、『下界に干渉(かんしょう)しない』というルールだったはずだろう! 『すべての魔王を統(す)べた大魔王』に『大いなる力を授(さず)ける』……それだけのボーナス的な存在のくせに、いったい、どういうつもりだ! 魔王同士の争いに、しゃしゃり出てくるな! 天の城で、おとなしく、引きこもっていろぉお!」


 と、そこまで、黙って趨勢(すうせい)を見守っていたアズライルが、


「魔王同士の闘い、ねぇ……あんたらは、邪神教っていう宗教団体やなかったっけ? もしかして、『宗教の形式』は表向きの話で、裏では、どっかの『魔王の手先』やったりするんかなぁ?」


「手先ぃ?! ふざけるなぁあ! 『軸(じく)』は我々邪神教だ! 我々の傀儡(にんぎょう)となる魔王を、何体か囲っているが、魔王に支配されているわけではなく、こちらが魔王を支配しているのだ! 邪神教をナメるなよ、女神教!! 我々こそが、もっとも『大いなる力』に近い場所にいるんだ!!」


 そう叫ぶと、

 フード野郎は、奥歯をかみしめて、


「そうだ! 邪神教こそが最強の組織! 邪神教こそが、この世で唯一(ゆいいつ)、『神の領域』にたどり着くことができる究極の概念(がいねん)!」 




「あー、あー、うるせぇ、うるせぇ!! どうでもいいことを、ゴチャゴチャわめくな、カスがぁあ! ピエロの事情なんか知ったことぁ! てめぇは、無様に悲鳴だけあげてりゃいいんだよぉお! 『情報』は、『こっちが質問した時』だけ口にしやがれぇ、クソぼけぇええええ!」




 あたしは、『抱(いだ)いた感情』そのままに、

 フード野郎の顔面をグーパンでドツいてやった。


「ぶへぁあああああああああっっ!」


 当然、ワンパンで気絶。

 殺さないよう、めちゃくちゃ調整して殴ってやった。


 あたし、有能ぉ!!

 あたしこそが、セン様が誇る一番の配下ぁ!


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