22話 デビナ視点(4)。


 22話 デビナ視点(4)。


 あたしにグーパンを入れられて気絶したフード野郎。


 あたしは、こういう、小うるせぇカスが大嫌いだ。

 ビビっているだけならともかく、

 調子に乗られるとすげぇ腹立つ。


 ――セン様を見習えよ。

 あの御方は、どんな時でも、クールで、カッケェぜぇ?

 とことん美しく光り輝いていてよぉ。


 『ヤベェ状況の時』はもちろん、

 『成果を上げた時』だって関係なく、

 セン様は、いつだって、その美しい瞳で、静かに世界を見つめていている。


 『王』ってのは、ああいう存在を言うんだよなぁ……

 ほんと、超かっけぇ……

 好きだわぁ……



「ちょっ、デビナ! まさか、殺したんとちゃうやろな?!」



「殺すわけねぇだろ! こいつからは色々と聞けそうなんだからよぉ! めちゃくちゃ力加減を調整して殴ったっつーのぉ!」


 アズライルの野郎、どうやら、あたしのことを、

 『マジのバカ』だと思っているふしがあるな。


 ガチで、一回はシメてやらねぇと……


 まあ、アズライルの処理は、あとで考えることにして……



「おーい、起きろ、ごらぁ! 寝んなぁ!」



 『さっきのグーパン』で気絶した『フード野郎』に蹴(け)りをいれて、

 ムリヤリたたき起こす。


「う……うぅ……」


 気絶から目覚めたのを確認してから、

 あたしは、


「結局(けっきょく)のところ、詳細(しょうさい)はよくわかんねぇが……ザックリ話をまとめると、てめぇは、あそこのガキを誘拐(ゆうかい)して、よくわからん儀式(ぎしき)の生贄(いけにえ)にしようとした、なかなか『高度な犯罪者』ってことだよなぁ?! ってことはアレだ! 善人じゃねぇ! 一般人でもねぇ! てことは……」


 ニィっと、あたしは限界まで口角を上げる。


 つまり、こいつは『セン様の庇護下(ひごか)にない存在』ってことだ。


 『アズライルに確保されている親子』は、

 『セン様の尊き慈愛(じあい)』という加護に守られているが、


 ……このフード野郎に、その加護はねぇ。


 つまり……


「あたしは、お前に、何をしてもいいんだよ! わかるかぁ?! ……悪人に『人権』はねぇ! 犯罪者に希望はねぇ! 『慈悲(じひ)』も、『許(ゆる)し』もねぇ! さあ、数えな……自分の罪を……過(あやま)ちを……その全部が、今から、てめぇの体に降(ふ)りそそぐぅう!!」


 あたしは、『丁寧に手加減した拳』で、

 フード野郎の体に『痛み』を叩き込んでいく。


「があああぁあああ!!! ああああぁあああああああっ!!!」


 悲鳴が心地いい。

 どんなに『出来のいいクラシック』よりも、

 この叫びの方が、はるかに上質だ。


「かははははははっ! 泣けよ! もっと叫べ! 痛いか?! 苦しいか?! 助けほしいか?! でも、ざんねーん! 誰も助けてくれませーん! なぜなら、てめぇは悪人だからぁああ! かはははははははっ!」


 とにかく、ひたすら、ボコボコにしてやると、

 その途中で、フード野郎は、みっともなく泣きながら、



「ご、ごふっ……べほっ……も、もう、ゆるし……おねが……」



 ダッセェなぁ。

 信念のないやつは、これだからいただけねぇ。


 今、お前が受けたダメージなんざ、

 セン様がアポロと戦った時のダメージの『10000分の1』ぐらいだぜ。


 あの時、セン様は、ズタボロになりながら、

 あたしらを守ってくれた。


 奇跡的に、死なずにすんでくれたが、

 あの時、セン様は、

 自分の命を捨てて、誰よりもボロボロになって、

 必死に、あたしらを守ってくれた。


 ――セン様という光を知っているから思う。

 こういうクズのどうしようもなさ。


「――『悪を成(な)そうとする気概(きがい)』に対して文句をいうつもりはねぇ! あたしも、そっち側だからなぁ! 生き方なんざ、好きに選べばいい! だがよぉ! 安全圏(あんぜんけん)から『初心者狩り』だけして偉そうな顔をしているヤツが、あたしは大嫌いなんだよぉお!」


 誤解されたくねぇから言っておくが、

 あたしは、『自分よりも圧倒的上位者であるアポロ』にも、

 果敢(かかん)に立ち向かったぜ。


 あたしは、『こういうザコを狩る』のが『好きな方』だが、

 『アポロみたいな強者と殺し合う』のも『嫌いじゃない』んだ。


 根っからの戦闘狂。

 それが、あたし、ファイアゲート・デビナ・バーサキュリア。

 よろしくぅ!


「今、ここで、てめぇが、自分の悪を、どうしても成(な)そうとしたら、あたしを殺す必要がある! この状況で、覚醒(かくせい)の一つもできず、あまつさえ、命乞(いのちご)いしてくるような、ただのカスが、ファッション感覚で悪に手をそめるんじゃねぇ! せめて、最後まで、死ぬ気で悪をつらぬけや、この、ハンパ野郎ぉおお!」


 あたしは、叫びながら、

 フード野郎の腹部に『オーラを込めた拳』を叩き込んだ。

 普通に風穴が空いて、フード野郎は、また気絶した。


「……あ、やべ」


 無駄にテンションが上がっちまって、

 つい、『致命(ちめい)の一撃』を入れてしまった。


 そーっと、後ろを見てみると、

 アズライルが『バカを見る目』であたしを見ていた。


「……ほんまにアホやな自分。嫌いやわぁ」


 そう言いながら、フード野郎に回復魔法をかけるアズライル。


「……う、うっせぇ、ボケ!」


 『前衛(ぜんえい)戦闘』特化(とっか)のあたしと違い、

 アズライルは、バフもデバフも回復もそれなりにこなせる。

 メインは『デバフ担当』だが、『前衛戦闘』以外のだいたいが出来る。


 ま、ようするに、『戦闘力が低い器用貧乏(きようびんぼう)』ってこと。


 脆(もろ)いアズライルなんざ、あたしがその気になれば、瞬殺できる。

 そのことを忘れんなよ、カスが。


「…ぅ……ぅっ……」


 フード野郎は、『アズライルの回復魔法』でどうにか一命をとりとめたが、

 さすがに傷を負いすぎて、完全に気絶した。


 あたしは、このフード野郎を肩に担(かつ)ぎ、


「さてと……それじゃあ、帰るとするかぁ! なかなかいい収穫(しゅうかく)だったぜぇ! かはは!」


 セン様が待つ『天の居城(きょじょう)』へと帰った。

 ほんとうに、なかなかの収穫だった。


 セン様、褒めてくれるかな。


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