15話 ハズレスキルが開眼するセンエース。


 15話 ハズレスキルが開眼するセンエース。


 結果だけを言うと、ボコボコにされた。

 まあ、勝てるワケないよね。

 俺、存在値2だからね。


「ぜぇ……はぁ……うえっ……」


 俺の体は、見るも無残なほどボロボロになっていた。

 ヘブンズキャノンは、信じられないほど強く、

 一撃一撃がオーバーキル。

 普通だったら、たぶん、この段階で、すでに、10万回ぐらい死んでいると思う。


 けど、俺は死なない。

 なぜなら、心が折れていないから。


 致死量(ちしりょう)のダメージを受けるたび、

 俺の頭は、『車酔いの100倍』のメンタルダメージで一杯になるが、

 このしんどさにも、だんだん慣れてきた。

 この調子なら、あと1000億回分殺されたとしても、俺の心が折れることはないと思う。




「へいへい……どうした、ヘブンズキャノンさんよぉ……攻撃の手が止まっているぜ……」




 『いくら殺しても死なない俺』を見て、

 ヘブンズキャノンが、だんだん、ビビりはじめてきた。


「俺が怖いか? だろうなぁ。俺も、俺に引いてるぜ。お前の攻撃は、全部、死ぬほど痛くて、泣きそうなのに……なぜだか、心がグツグツと燃えている……」


 全然、折れる気がしない。

 むしろ、大きなダメージを受けるたびに力が湧(わ)いてくる。

 精神も、体も、すでにボロボロだが、

 俺の心は未来への希望で満ちている。



「昔から、『根性』にはそこそこ自信があった。一日20時間勉強するとかも、その気になれば余裕で出来た」



 去年の夏休みに一か月だけやって、

 普通に頭おかしくなりそうだったから、

 それ以降は一度もやってねぇけど。


 勉強って、なんで、あんなにつまんねぇかね。

 英単語とか、年号とか、クソ以下だぜ。


「まあ、勉強は、マジで好きじゃなかったから、途中でやる気をなくしたが……『ファンタジー世界で強さを求める』というのは大好きなことだから、絶対に途中で投げ出したりしない。まあ、カンストしちまったら、飽(あ)きる可能性はあるけどな」


 勉強なんか、やりたいと思ったことは一度もない。

 誰だってそうだろ?


「絶対に、お前をねじふせて、俺の力にしてやる。そうすれば、あいつらもゴチャゴチャ言わないだろう。護衛なんかいらねぇ。俺は孤高。――自由にこの世界を旅して、レベルを上げて……そして、いつか、本当に『最強の化け物』になってやる」


 覚悟を宣言して以降も、

 俺はボコボコにされつづけた。


 勝てる見込みはなかった。

 いくら攻撃しても、

 ヘブンズキャノンはビクともしない。

 そりゃそうだ。

 だって、俺、存在値2だもん。



「……不死身をフル活用して、絶(た)えまなく殴り続けたら、いつか倒せるかなぁ……と思っていたんだが……ヘブンズキャノンの野郎、もしかして、『HP自動回復』とかしてる?」



 俺が、疑問を口にすると、

 俺の中にいるアポロが、


「高位のモンスターは、たいてい、優(すぐ)れた再生力をもっております。今の主上様の拳では、無限に殴り続けても、ヘブンズキャノンのHPを削り切ることはできません。というわけで、引き返しましょう。それ以上、その『尊い玉体(ぎょくたい)』に『無駄な傷』をつけるべきではありません」


「無駄な傷? 何言ってんだ。これが、『男の勲章(くんしょう)』だろうが。いや、男とか女とか関係ねぇな。最強を目指す者に必須(ひっす)の勲章(くんしょう)だ」


 俺はそう言いながら、

 あらためて、ヘブンズキャノンと向き合う。




 ★




 ――アホほど攻撃を受けまくったことで、

 少しだけ、ヘブンズキャノンの動きが見えてきた。



「ぜぇ……はぁ……どうした……動きを止めんなよ……もうちょっとで、何かが、どうにかなりそうなんだ……」



 その言葉は『ヘブンズキャノンに言った言葉』でもあるし、

 『俺自身に言った言葉』でもある。


 視界が血でにじむ。

 頭がズキズキする。


 けど、なんでだろうな。

 『心が折れる気配』が、みじんもしない。


 つぅか……ああ……

 まただ。

 また、俺は、俺の中の可能性を見つけた。


 俺の中に……まだ眠っていた力。

 どうやら、俺は、俺が思っていた以上に、多くをもっていたらしい。


 天を仰(あお)いで、

 俺は叫ぶ。




「プラチナァアアアアア!! スペシャルゥウウウウ!!」




 ノドがちぎれるほど叫んだ結果、

 また、俺に、スペシャルが追加された。


 ――プラチナスペシャル『不屈(ふくつ)の魂魄(こんぱく)』、開眼――

 ――効果:諦(あきら)め方を奪い取る。諦めない。とにかく、諦めない――


 ……ん?

 なんだ、これ……

 あきらめない?


 え、なにそれ。

 こちとら、最初から、一ミリも諦める気はねぇんだよ。

 バカか?


 ……てか、え、マジでそれだけ?


 ふ、ふざけんなよ、ヌカ喜びさせやがって!

 完全に、ハズレスキルじゃねぇか。


 このタイミングで、ハズレスキルに目覚めるとか、どんだけ空気が読めねぇんだよ!

 『ハズレスキルを引いて落ち込むシーン』が許されるのは『冒頭だけ』っていう、ファンタジーものの裏ルールを知らんのかぁああ!!



 ――などと、ブチギレていると、

 なぜか、ヘブンズキャノンがピタっと動きを止めた。


 そして、その『無数にある頭』のすべてを、うやうやしく地面につける。


 何をやっているんだろうか、

 と思ってみていると、

 無数にある頭の中でも、一番『凛々(りり)しい顔』をしたヤツが口を開いた。



「あなた様の輝き、しかと拝見(はいけん)させていただきました。私ごときでは、永遠を積んでも、あなた様は殺せない。尊きあなた様の時間を、これ以上ムダに奪うことはできません。『理(ことわり)からは外れること』になりますが、どうか、私を……受け取っていただきたい。他の誰でもなく、私は、あなた様と共(とも)にありたい」


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