13話 この上なく尊い王、センエース。


 13話 この上なく尊い王、センエース。



「俺は王じゃねぇよ。絶死を積んでいた時は、そこそこ動けたが……解除された今の俺は、ただの『どうしようもないザコ陰キャ』だ」


「あなた様は誰よりも尊い! それに、決して弱者などではない! ここにいる全員があなた様の手足! あなた様こそが、真の最強! 『アホの酒神』は、あなた様に対して『最強になれ』などと不敬なことを言っておりましたが、あなた様はすでに最強なのです!」


「……俺、存在値2しかないんだけど?」


「そんな数字、あなた様の『真なる輝き』の前ではゴミに等しい!!」


「絶対的評価の前でも、存在値2はゴミなんだよ。というわけで、俺は、死ぬ気で冒険者をしながら、レベルを上げていく。お前らが世界征服を完遂(かんすい)するまでには、せめて、存在値50ぐらいにはなっておくさ」


 そう言いながら、アルブムの横を抜けようとすると、

 アルブムが、俺の腕をガっと掴んで、


「……お願いします……セン様……どうか……」


 涙ぐんだ目でそう言われて、

 俺はひるんでしまう。


 そんなガチの目を向けられたら、

 さすがに、ワガママを通すのが難しい。


 ちなみに、『アルブムの手を振り払う』というのは、物理的な意味で出来ない。

 しっかりと握(にぎ)られており、全然、はずれないのだ。


 アルブムはヒーラーで、筋力は低い方だが、

 彼女と俺の間には、存在値の開きが350倍ぐらいあるので、

 いくら、彼女が、腕力的には貧弱な職業とはいっても、

 力でどうこうするのは不可能である。


「……ちょ、蝉原、命令。こいつら、説得して」


「了解だ。――みんな、センくんには、一人で冒険者になってもらおー。たぶん、そっこうで死ぬだろうけど、それがセンくんの望みなんだから仕方がなーい。受け入れよー」


 と、クソみたいな『棒読(ぼうよ)み』でそう言った。

 すると、弟子たちは、


「寝言は寝て言え」


 と、蝉原の言葉をガン無視している。



「センくん、申し訳ない。君の命令通り、必死になって弟子たちを説得したんだが、どうやら、弟子たちは、俺の言葉を、あまり重要視していないようでね。くっ、無念だ」


「あの棒読みが、お前にとっての『必死』か……笑わせてくれるじゃないか」


 『命令権』だけあったって、人生は思い通りにはいかない。

 ほんとうに、人生というのは難儀(なんぎ)なものだ。


「センくん。君が『どうしても冒険者をやりたい』というのであれば、もう、反対する気はない。けど、頼むから、護衛(ごえい)だけはつけさせてくれ。ここにいる全員が、君には死んでほしくないと本気で思っている。そんなみんなの想いを、王として、どうか受け止めてほしい」


「……『俺は王じゃない』と言うとるだろうが。俺はただの『一般人』なんだよ。もっといえば、『一般人より下』なんだよ。才能ゼロで、友達がいない、性悪の社会不適合者。それが俺だ。……なんか、あらためて自分と向き合って気づいたけど、俺、マジで一般人を名乗ったらダメだな。ガチで『だいぶしんどいゴミ』だったわ。一般人のみんな、ごめんね。俺みたいなのが分不相応(ぶんふそうおう)にも、一般人を名乗ったりして。俺、みんなみたいに気高くなかったわ」


 みたいな感じで、俺が得意とする『ファントムトーク(中身のないトーク術)』で説得してみたのだが、こいつらはまったく折れてくれなかった。


 こいつらが、『力づく』でどうにかなる相手だったら、

 『知らん、知らん、知らぁああん!』と叫んで暴れて、

 逃げ出すこともできただろうが、

 今の俺は、あまりに無力だった……


 こいつらの過保護から逃げ出して、

 自由に『孤高(ここう)』を謳歌(おうか)するためにも、

 やっぱり、最強になる必要がある。


 俺の中で『最強』に対する需要が(じゅよう)、どんどん上がっていく。



「ああ、もう、わかった……じゃあ、護衛してくれてもいいよ。……ただ、ゾロゾロと連れ立って歩くとか、発狂(はっきょう)しそうになるくらいキツいから、護衛を大量につけるというのは勘弁してくれ。せめて、1人か……多くても2人……最悪でも3人までにしてくれ」


「OK。じゃあ、3人だ。誰がいい? 好きに決めてくれ」


「いや、誰がいいって……」


 ここで、『特定の誰か』を選ぶとか、

 なんか、すげぇ恥ずかしいんだが……


 こいつらが、全員、モブみたいな感じだったら、テキトーに、

 『じゃあ、そいつと、そいつと、そいつ!』

 みたいな感じで選んで問題なかったんだが、

 どいつもこいつも美男美女だから……

 なんか、誰かを選んだ瞬間、

 『あ、センって、そういう趣味なんだぁ。へー』

 みたいなことを思われそうで、なんかしんどい。


 ――というわけで、完全にヒヨった俺は、蝉原に、


「……誰でもいいから、勝手に決めてくれ」


 そう言うと、蝉原は、うなずいて、


「了解した。それでは、これから、センくんの護衛を誰にするか、『話し合いの場』をもうけようとおもう」


「……ああ、もう、好きにしてくれ」


 ダルそうに、そう言ってから、


「……あ、その間、俺、この城の中を探索(たんさく)してくるから。――実は、はじめて『この城』を目にした時から、ずっと、ワクワクしてたんだよ」


「ちょ、ちょっと待って、センくん。この城に、どんなワナが仕込まれているかわからない。危険だから、護衛をつけないと! 『君の散歩』の『護衛を決めるための話し合いの場』をもうけるから――」


「いや、もう、いい加減にしろぉおおお!」


 『護衛を決めるための話し合い』が終わるのを待(ま)っている間の『暇つぶし中の護衛を決める話し合い』をはじめようとした蝉原を、俺は、全力でしかりつけた。


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