8話 『セイラ(没落サイド)』視点(1)
8話 『セイラ(没落サイド)』視点(1)
私の名前はセイラ。
親の借金のせいで、魔王に売られてしまいました。
「わかったわ、1001号……じゃあ、これより、死刑を執行(しっこう)する」
魔王にとことんいたぶられ、
まさに、殺されると思い、
『神様助けて』と強く願った、その時、
私の頭の中に、
『世界の声』が響きました。
――セイラ、もっと強く願え。覚悟をしめせ。そうすれば、望みの未来をくれてやる――
もっと?
もっと強く……
生きたい……
死にたくない……
死にたくないっ!!
生きられるのなら、
『なんでもする』から!!
神様、助けて!!!
――くくく、今、『なんでもする』、と確かに言ったな? OK。君の願い、聞き届けよう。耳をすましてごらん。聞こえるだろう? 覚醒(かくせい)の音が――
「……あ、あああ……世界の……声が……聞こえる……感謝します……」
私の中で、革命(かくめい)が起きていきます。
何がなんだか分からないけれど、
心が熱くなって、
沸き上がるような力を感じます。
「……プラチナ……スペシャル……」
ある日、突然、スペシャルが目覚める、
というのは、『物語の中だけの話』だと思っていました。
まさか、自分にも起こるなんて、思ってもいませんでした。
神様、本当に感謝します。
――プラチナスペシャル『破滅回避(はめつかいひ)』、開眼――
――効果『悪役令嬢の運命を奪い取る』――
一瞬、視界が真っ暗になって、
頭がグルングルンして、
けど、そのあとは、体の痛みがなくなりました。
体が軽い。
すごい力強さを感じます。
視界を取り戻すと、
私の目の前に、『私』がいました。
普通なら混乱するんでしょうけど、
私の頭の中には、
『目覚めた力』に関する情報がきざまれていたので、
パニックになることはありませんでした。
ただ、彼女の方は、そうではなかったようで、
「え、ええ?! なんで……え?!」
と、パニックになっています。
『彼女』が混乱している間、
私は、『彼女の記憶』を確認しました。
驚くべきことに、彼女は、『気が遠くなるほど過去の人間』でした。
現代とはまったく違う『とても変わった時代』を生きてきた古代人でした。
彼女が『タイムスリップして以降の記憶』は『確認できませんでした』が、
『それ以前の記憶のほとんど』を垣間(かいま)見ることができました。
『過去の世界の知識』を得られたことは、
とてもためになって、面白い勉強でしたが、
『過去で彼女がやってきた数々の悪行』を知って、
私は、吐き気をおぼえました。
彼女――ユズはひどすぎる。
ユズにいためつけられたのは私だけではありませんでした。
この女は、弱者を食い物にする本物のクズでした。
『健気(けなげ)に頑張って生きている車イスの少女』を、
仲間の男に襲(おそ)わせて、自殺に追い込んだりしています。
――この女は、本当に、ダメです。
あまりにひどすぎる。
こんな人を、野に放っていては、また犠牲者(ぎせいしゃ)が出るだけです。
「……あなたの罪を私は許さない」
私は、感情に任せて、つい、
そんなことを言ってしまいました。
彼女に対する『強い怒り』に支配されて、
感情をコントロールするのが難しい。
私は、続けて、
「……『1001号』……彼女を……『セイラ』を牢屋(ろうや)へ」
『自分の体』を牢屋へ送るというのは、イヤなものです。
しかし、そんなことを言っている場合ではありません。
ユズはひどすぎる。
『ここで死ぬだけ』など、そんなのは、あまりにも生ヌルすぎる。
そんな安い罰では、
『彼女に痛めつけられてきた数々の少女たち』の無念がはれません。
ちゃんと、罪をつぐなわせる必要があります。
自分が、何をしてきたのか、
ちゃんと自覚させて、
シッカリと反省させるまで、
死なせるわけにはいきません。
「……『師』よ。よいのですか? この娘は死罪のはずでは?」
1001号は、私のことを、ちゃんと『師』と呼んでくれます。
どうやら、『入れ替わったこと』はバレていない様子です。
私は、1001号に、ニコリと、
『できるだけ優しい笑顔』を見せて、
「あなたはそれを望んでいないでしょう? あなたは私の大事な弟子。自分の欲望よりも、あなたの気持ちを尊重します」
「……おお、『師』よ……感謝します」
1001号は、そう言うと、
うやうやしく頭を下げて、
「さあ、くるんだ。師の恩情(おんじょう)に感謝しろ」
そう言って、セイラを連れていきました。
1001号は、とても『強い存在』で、
かつ、心が優しいナイトです。
彼との関係は、出来るだけ良好にたもっておきたいですね。
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