9話 『ユズ(没落サイド)』視点(2)。


 9話 『ユズ(没落サイド)』視点(2)。


 体が入れ替わった……

 そう気づいたと同時、

 私は、すぐ、『1001号』に、

 『今の魔王は、私の体を奪ったニセモノで、私がお前の師だ』

 と、伝えようと思った。


 しかし、それを口にしようとしても、

 なぜだか、声がでなかった。


 しゃべることが出来なくなったのではなく、

 『入れ替わった』という事実を伝えることだけが出来なかった。


 結果、

 私は、1001号に連れられて、牢屋に入れられてしまった。


「……『師』は、気性(きしょう)のあらい御方(おかた)だ。今は、気まぐれで、お前を生かしているようだが、また、いつ、殺意に火がついて、お前を殺そうとするか分からない。『師』は……残虐(ざんぎゃく)すぎる。もし、次、殺意に火がついた時は……何をされるか分からないし、いつも、私が守ってやれるわけではない。こんなことをいうのは正しくないと分かっているが……いまのうちに自殺した方がいい。苦しまずに死ぬ方が――」


 と、1001号が、うだうだ言っている間、

 私はずっと、セイラを殺す方法を考えていた。


 絶対に許さない。

 あの女――セイラだけは、絶対に許さない。

 この私に、ここまでの屈辱(くつじょく)を与えた女……

 あの女を殺すまでは死ねない。


 そのためには、まず、ここから逃げる必要がある。

 セイラは、おそらく、私に復讐をするつもりだろう。


 散々痛めつけたからな。

 私に復讐しようと考えてもおかしくない。


 やられてたまるか。

 絶対に逃げのびて、

 必ず、逆襲(ぎゃくしゅう)してやる。



 ――隠し金庫の『アレ』さえ使えば、

 あいつを殺すことぐらいは楽勝なんだ。


 永遠人形のイベントでランキング上位になることで手に入れたパワードスーツ、 

 ――『エグゾギア』。



 着るだけで、誰でも存在値が1000になる、破格のマジックアイテム。


 一回使うと、ぶっ壊れて、二度と修理不可能という、

 『超希少な消耗品アイテム』だから、六大魔王と最終決戦するときのために、

 できれば取っておきたかったけど、もう、こうなったら、使ってやる。


 私をみくびるなよ。

 私は神様に愛されているんだ!

 あのイベントでも、異常なほど運がよかった!

 だから、エグゾギアを入手できた。


 私は、ずっと、天に愛されて生きてきた!

 ずっと、ずっと、そうだった!

 だから、私は絶対に、このままじゃ終わらない!


 ――まあ、エグゾギアを使うのは最終手段だけどね。

 とりあえず、まずは、『体を取り戻す方法』を探す。

 もし体を取り戻すのが不可能なら、

 エグゾギアで、あいつを八つ裂きにする。


 必ず殺してやる……


 覚悟を決めると、

 私は、1001号に向かって口を開く。



「あの、1001号……さん」




「ん? どうした?」


「あなた様の忠告(ちゅうこく)、聞き入れようと思います。ですので、その腰にたずさえているナイフを貸してくれませんか? よく切れるナイフで、この首をかききりたいと思います」


 1001号は、少しだけ考えてから、


「……いいだろう」


 そう言って、1001号は、

 『なんの効果もないナイフ』を渡そうとしてきた。


 それじゃダメだ。

 意味がない。


「あの、1001号さん」


「なんだ?」


「そちらの、綺麗な青いナイフを貸してくれませんか? どうせなら、綺麗なナイフで死にたいのです。私の最後の願い……どうか、聞き届けてください」


 そう言って、私は地面におでこをつける。

 この私が、1001号ごときに、土下座をする日がくるとは……

 心底、屈辱(くつじょく)的だった。

 歯ぎしりしそうになるのを抑えるのが大変。


 けど、我慢。

 ここだけは……

 ここさえ乗り切れれば……


「いや、これは……」


 1001号は悩んでいる。

 まあ、そりゃそうだろう。

 しかし、絶対に、承諾(しょうだく)させてやる。


「お願いします! 私の人生は悲惨(ひさん)でした! 私は、親の借金を返すのに必死で、生まれてから一度も、綺麗な服やアクセサリーを身に着けたことがありません! せめて! 死ぬ時くらい! 出来るだけ綺麗なナイフで……どうか……どうか!」



「……っ」



 1001号の心が揺れているのが手に取るようにわかる。

 こいつは、『無駄に人情家』というバカ丸出しの性格をしている。

 そこをつく。

 『情』なんか、生きる上では『足カセ』にしかならないと教えてやる。


「……分かった。いいだろう。お前の最後の願い……この1001号が聞き届けよう」


 そう言って、1001号は、

 私に、青いナイフを渡してきた。


 ――クソバカめ!!


「ありがとうございます」


 そう言いながら、

 私は、ナイフを受け取った。


 それと同時、私は、ナイフを天にかかげて、


「クソバカがぁああああ! こんなところで終わってたまるかぁああ!! 『転移ランク17』ぁあああああ!!」


「なっ?! ――なんでっ――」


 『このナイフを装備した者が転移の魔法が使えるようになる』ということを『なぜ知っているのか』と言いたげな顔をしている1001号を置き去りにして、私は、牢屋から瞬間移動の形式で脱出した。


 ランダム転移なのが厄介なところだが、

 まずは逃げのびること。

 それだけを考える。




 ★




 ――気が付いた時、

 私は、森にいた。


「くそ……森か……どこかの国に転移できればよかったんだけど……」


 国の外には、モンスターが大量にいる。


 今の『存在値30しかない私』だと、

 『中級モンスター』に出会った時点で詰(つ)み……


 などと思っていると、



「……っ」



 『ホブゴブリン』を見つけてしまった。

 こんぼうをもった中級のモンスター。

 存在値は50ぐらい。

 まずい。

 『本来の力』があれば、余裕でワンパンだけど、

 今の体だと、勝てない……


 どうにかバレないうちに逃げようと思ったが、

 しかし、後(あと)ずさりした時、

 バキっと、木の枝を折ってしまった。


 その音に反応して、こちらをにらみつけるホブゴブリン。

 つよい殺気を感じ取って、私の体が震えた。

 こ、こわい……やばい……


「ガアアアアア!!」


 と、おたけびをあげながら、

 ホブゴブリンは、こんぼうをふりあげて、

 私の方に走ってくる。


 『逃げないと』と思うのだが、

 恐怖で体が思うように動かない。

 そもそも、『肉体が貧弱(ひんじゃく)だから重たい』というのもある。


 ……前の体の時はよかった。

 俊敏(しゅんびん)で力強かった。

 でも、今の私は……


「きゃあああっ!!」


 ふりおろされた『こんぼう』が、

 私の肩に直撃した。


 信じられない激痛が走る……っ。

 腕が爆発したかと思った……っ。

 い、痛すぎるっ!

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