7話 『ユズ(没落サイド)』視点(1)


 7話 『ユズ(没落サイド)』視点(1)


 私は、ユズ。

 未来の地球で『魔王』をやっている者。


 あの日、『ナゾのゲート』に吸い込まれて、

 気づいた時、私は、この国にいた。


 目が覚めた時にもっていたのは『シャツの内ポケットに押し込まれていた二枚の説明書』だけ。

 けど、十分だった。


 私は、過去の地球で、『永遠人形』というゲームをプレイしていたから。

 この未来世界では、永遠人形のセーブデータが、そのまま自分の力になる。

 過去の地球で、それなりに永遠人形をプレイしていた私の存在値は500。

 その数字は『六大魔王』と呼ばれている『この世界における最高位の魔王』と同等の強さ。


 それだけの力を持つ私に、不可能なんてなかった。

 一瞬で『前の魔王』を殺して、

 私が、魔王になりかわってやった。


 それからは自由ざんまい。

 富も地位も、すべてを手に入れた。



 ――未来にタイムスリップする前から、私は勝ち組だった。

 『親が大企業の社長で金持ち』だったから、

 お金に困ったりとかは一切しなかった。


 けど、日本にいた時は『道徳(どうとく)』とかがウザすぎて、ほんとうに、窮屈(きゅうくつ)で仕方なかった。

 私を理解してくれるのは『蝉原(せみはら)勇吾(ゆうご)』ぐらいだった。



 でも、この世界でなら、なんだって、私の思い通り!

 未来にタイムスリップできてよかったぁ!

 あんな『つまんない過去』より、こっちの方がよっぽど楽しい!!

 私は、生まれながらの勝ち組!

 神様に選ばれた美少女!!



「……たす……けて……」



 今だって、こうして、他人の命で遊んでいる。

 私がこの世で一番嫌いな『健気(けなげ)な少女』という害悪を全力でいたぶっている。


 傷だらけで、ズタズタの姿。

 『助けて』と声をもらすだけのボロ雑巾(ぞうきん)。


 この女――『セイラ』は、借金のカタで売られた10歳ぐらいの少女。

 毒親(どくおや)がつくった膨大(ぼうだい)な借金を返すため、朝から晩まで働いていたが、返しきれるわけがなく、けっきょく、責任を押し付けられた上で売られてしまったという、素晴らしい人生を送っているバカガキ。


 こういう『頑張ってきた少女』をいたぶるのが一番好き。

 ああ、はやく、こいつを殺したい。

 けど、すぐに殺してはダメ。

 もっと、もっと、もっと、痛めつけてから……




「……『師』よ、どうか、そのへんで……それ以上は、みていられません……」




 楽しんでいたところを邪魔されて、

 私はギリっと奥歯をかみしめた。


 むちゃくちゃ腹立つ。

 自由をむさぼっている私の邪魔をする唯一の存在。


 私の邪魔をしたバカの名前は、『1001号』。

 私が、永遠人形というゲームで作成した弟子。

 ゲーム時代は単なるNPCだったが、

 『未来の地球』においては、現実化して、私の配下になっている。


 この『1001号』という名前の『鬱陶(うっとう)しい弟子』は、

 ことあるごとに、一々、私に歯向かってくる。

 配下のくせに、絶対服従(ぜったいふくじゅう)ではなく、

 ときおり、こうして、私をたしなめてくるのだ。


 『弟子に関する情報』は、説明書に書いてあったが、

 その情報が確かなら、弟子の『忠誠心』は絶対的なものではなく、

 『私の弟子に対する行動』によって増えたり、減ったりするものらしい。


 優しくすれば、忠誠心が上がり、

 ザツに扱えば、忠誠心が下がる。


 だから、私は、こいつのクソ鬱陶(うっとう)しい小言に対して、


「……『1001号』、これは、仕方がないことよ。『700万テス』以上の借金というのはとてつもない大罪。その大きな罪をおかした者が、どういう末路(まつろ)をたどるか、それを、見せつけないと、借金という罪そのものが軽んじられて、同じことをする者があとをたたず、結果、国が崩壊(ほうかい)してしまう。わかるわよね?」


 こうして、テキトーな言葉でケムにまくようにしている。

 言うまでもないが、罪とかどうでもいい。

 私は、このクソガキを痛めつけたいだけだ。


「わかりますが、もう十分です。どうか、そのへんで……どうか……」


 そう言って、頭を下げる1001号。


 鬱陶(うっとう)しいぃ!

 こいつさえいなければ、

 もっと、自由に、楽しく生きられるのにぃ!


 『1001号』のウザい性格が、私は、ほんとうに大嫌いだ。

 できれば、今すぐ殺してやりたい。


 ――けど、出来ない。


 『1001号』は、私が創った弟子の中で最高傑作(さいこうけっさく)。

 1001回にもおよぶトライ&エラーによって、ようやく完成した最強の弟子。

 外見はランダムで選んだので、ザコのモブキャラみたいだが、

 存在値は『617』で、実は私より強い。


 だから、こうして小言を言われても、私は必死に我慢している。


 それに、私の武力だけじゃ、周囲の魔王に攻められた時に防衛(ぼうえい)しきれない。

 私は、『最強格の魔王』だけれど、『ぶっちぎりの最強』ではない。

 『六大魔王』が相手だと、普通に殺される可能性がある。




 ――この世界には、『すべての魔王をたばねた真の大魔王』に『龍の女神』から『至高の報酬』が与えられるという伝承(でんしょう)がある。


 私は、そんなもん、どうでもいいが、その『報酬』を狙って、天下統一を狙っているバカ魔王が、この世には結構な割合で存在している。

 つまり、いつ、よその魔王から狙われてもおかしくない状況にあるということ。


 あと、最近、『放浪(ほうろう)の魔人』に『雷神の異名を持つ六大魔王の一人が殺された』というニュースも入ってきている。

 六大魔王の一人である『雷神』を殺したのは、『アダム』という名前の女の魔人。

 アダムは、むちゃくちゃ『戦闘力(同じ存在値どうしで闘った時、どっちが勝つかという指標)』が高く、戦闘力の高さを売りにしていた『雷神』を、一対一でボコボコにして、雷の力を奪い取ったとか。



 そういう『襲撃(しゅうげき)』とか『抗争(こうそう)』という状況に陥(おちい)った時のために、『強い配下』は残しておかなくちゃいけない。


 私は、1001号に対する怒りをグっとこらえて、


「わかったわ、1001号……じゃあ、これより、死刑を執行(しっこう)する」


 もっと楽しんでから殺したかった。

 目玉をくりぬいてやりたかった。

 腕をへし折ってやりたかった。

 『キモい男を集めて、精神が壊れるまで輪姦(まわ)させる』というのもやりたかった。



「たす……けて……」



 同じ言葉を繰り返すだけのバカガキ。

 誰が、お前みたいなカスの声になんか耳をかすか。


 ――と、思っていると、



「……あ、あああ……世界の……声が……聞こえる……感謝します……」



 セイラが、そんなことを言い出した。

 死の恐怖で精神が壊れたのか、と思ったが、どうやら違う。


 セイラの全身が、急に、『淡(あわ)い光』につつまれた。

 なに、これ……

 いったい、なにが……


 戸惑っていると、

 セイラが、



「……プラチナ……スペシャル……」



 そんなことを口にした。

 その瞬間、



「……え?」



 視界がブラックアウトした。

 意識は残っているが、目の前がまっくら。

 そして、とんでもない頭痛。


「い、痛いぃいい!」


 その後、頭だけではなく、全身に激痛(げきつう)が走った。


 痛い!

 なんだ、これ!

 死ぬほど痛い!


 なに、これぇええ!!




「え、ええ?! なんで……え?!」




 ――ブラックアウトがはれて、

 視界が戻った時、

 『私』の目の前には、

 『私』がいた。



 信じられないことに、

 私は……セイラと入れ替わっていた。



「え、え……ちょっと、待って……なに、これ……」



 新しい『私の体』は傷だらけでボロボロ。

 とんでもなく貧弱な体。

 存在値30程度しかない、ゴミみたいな肉体。


「え、なに、これ……夢?」


 パニックになっている私に、

 彼女が……

 『私(ユズ)の体』を手に入れた『セイラ』が言う。



「……あなたの罪を、私は許さない」


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