6++話 『本物』の『絶対的忠誠』を誓(ちか)われるセンエース。


 6++話 『本物』の『絶対的忠誠』を誓(ちか)われるセンエース。


 ――アポロの肉体が完全に消えて、

 世界が静かになった。


 ――と、そこで、

 蝉原が、背後から、


「センくん……」


 声をかけてきたので振り返ると、

 蝉原は、片膝(かたひざ)をついていて、



「最初から……おれは、君の奴隷(どれい)だが……今後は、より一層(いっそう)の忠義(ちゅうぎ)を君に捧(ささ)げる。命がけで、おれの命を救ってくれた君に……おれは、本当に感謝している。それだけじゃない。君のそばにいれば、おれはもっと強く輝ける。おれは、君を見誤(みあやま)っていた。きみは……すごい男だ」



 そんな、蝉原の殊勝(しゅしょう)な態度を見て、俺が思ったことは次の通り。


 ははっ。

 嘘つけ。


 ――お前はそんなヤツじゃねぇ。

 お前は、そんなに『つまんないヤツ』じゃない。

 今でも、絶対、腹の中では、

 俺の殺し方を考えているはずだ。


 『俺の命令に従(したが)って、善人をしなければいけない』と言うことに対して、

 歯ぎしりするほどイラついているはず。


 蝉原、

 てめぇは一生、苦しみながら、『善人』をやってろ。

 それが、俺の、お前に対する復讐だ。



「セン様……」



 蝉原の次に声をかけてきたのは、

 ヒーラーのアルブムだった。

 ピタピタのナース服が妙にエロいので目のやり場に困る。


 彼女は、目をキラキラとさせて、


「あなた様の高潔(こうけつ)な光……しかと拝見(はいけん)させていただきました。『師匠(せみはら)』と同じく、わたくしも、最初から、あなた様の下僕(げぼく)ですが……より一層の忠誠(ちゅうせい)を誓(ちか)わせていただきたく存(ぞん)じます」


 そう言って、おごそかに、片膝をついて、頭をさげる。

 『酒神(さかがみ)以外』の『弟子たち』も、それに続く。


 んー、こいつらは……『どっち』だろうなぁ……

 ガチで忠誠(ちゅうせい)を誓(ちか)ってんのか、

 それとも、腹の中で、別の事を考えてんのか……


 いやぁ、わっかんねぇなぁ……

 蝉原ほど分かりやすいヤツなんて、そうそういないもんなぁ。


 と、そこで、

 唯一、この中で、片膝をついていない酒神が、


「やっぱり、オイちゃんの目に狂(くる)いはありまちぇんでしたね。まあ、内包(ないほう)されている、その『凄(すさ)まじいポテンシャル』が、こんなにはやく開眼(かいがん)するとは思っていまちぇんでちたけど。『お兄(にぃ)』は、想定以上にハンパない男だったみたいでちゅ。――オイちゃん、こんなことは滅多(めった)に言わないんでちゅけど、命を救ってもらったことでちゅち、特別サービスとして、一つだけ、なんでも言うことを聞いてあげまちゅ」


「え、マジで? ……いま、『なんでも』って言った?」


「なんでもいいでちゅよ。さあ、このオイちゃんに、なんなりとお申(もう)し付けくだちゃい」


 別に、今回の件で、そんな大層なことをしたつもりはないが、

 しかし、せっかくの機会だから、ちょっとだけ冒険させてもらおう。




「……じゃあ、俺を、ちゃんと見てくれ」




 『絶対服従だから崇(あが)める』とか、そんなんじゃなくて、

 こいつには、ちゃんと、俺を見てほしいと思った。


 そんな俺のワガママをぶつけたところ、


「……」


 酒神は、2秒だけ間を置いてから、

 ニっと、イタズラな笑顔を浮かべて、


「世界最強の男になれたら、考えてあげまちゅよ」


 などと、そんなことを言ってきた。

 ちなみに、『絶対的主人公補正の影響』で、『絶死が解除されてしまった今の俺』の存在値は、もとの『2』に戻ってしまっている。

 つまり、ほぼ世界最弱である。


「……なんでも言う事聞くんじゃなかったのかよ。なんで、『重たい条件』をつけてんだ。話が違うじゃねぇか」


「何を言っているんでちゅか。ちゃんと『聞いてあげた』じゃないでちゅか」


「……古典的(こてんてき)な言葉遊びしやがって」


「言葉遊びじゃないでちゅよ。もし、お兄が、世界最強になれたら、その時は、オイちゃんの処女をあげまちゅ」


「……っ」


 あまりに、唐突(とうとつ)なセンシティブワードに、

 つい、俺の童貞がビクついてしまった。


 しかし、ここで動揺(どうよう)するのはあまりにカッコ悪い。

 クールにいけ。

 最後まで、虚勢(きょせい)を張り続けろ。



「――『俺なんかが世界最強になれるわけがない』と、タカをくくっての発言か? ずいぶんと、ナメ腐ってくれるじゃねぇか。いいだろう。なってやるよ。ほえヅラかかせてやる。――言っておくが、酒神。はいたツバはのめないぞ」


「発言を撤回(てっかい)する気はありまちぇんよ。ちなみに言っておきまちゅけど、オイちゃんが、こんな約束をするのは、この世で、お兄(にぃ)だけでちゅ。他の男には、間違っても、絶対に、こんな約束はしまちぇん。そこんところ、勘違いしないでくだちゃいね」




 ――もともと『最強の男』を目指すつもりだった。

 せっかく、レベルアップができるファンタジー世界に来られたのだから、『最強を望まない』というのは、もはや罪と言ってもいいレベル。



 ……男子はね、誰でも一生のうち一回は、地上最強ってのを夢見るのさ。



 まあ、あと、蝉原が『永遠に俺の奴隷であり続ける』という保証(ほしょう)はどこにもないしな。

 今後、蝉原の力が増して、俺の命令を無視できるようになる可能性はゼロじゃない。

 『もしもの時』のために『蝉原を止められる力』を得ておくのは必要不可欠だと思っていた。


 その『絶対に走り切ると決めたマラソン』の『ゴール』に、

 『とんでもないご褒美(ほうび)』が用意された。

 それだけの話。


 こうなったら、もう、俺は止められんぞ。

 死ぬ気でやってやる。

 最強になってやる!!






 ……てか、最強になったら、本当に、俺、童貞を捨てられるのかな……

 いや、あれは、酒神流のブラックジョークかな……

 うん、そうだな。

 そうだよな……


 ……

 ……



 ……冗談じゃなかったらいいなぁ、

 と期待しているが、


 それは誰にも内緒だ。

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