幕間 ヒロインと混浴するセンエース。


 幕間 ヒロインと混浴するセンエース。


 闘いのあとで、俺は、

 『女神の城』に設置されている大浴場(だいよくじょう)につかっていた。


 実は、俺の『中』にいるアポロとは、多少、コミュニケーションが取れる。

 色々と話を聞いたところ、この城は、色々な設備が整っているとのこと。

 アポロに聞きたいことは多々あったが、とりあえず、まずは風呂に入りたかった。


 ――アポロとの闘いは、死ぬほどしんどかったので、

 あたたかい湯が骨身にしみる。


 のんびりと、大浴場を楽しんでいると、


 背後から、


「おお、すごいでちゅねぇ。めちゃくちゃ豪華な浴場じゃないでちゅか」


 酒神の声が聞こえてきた……




 ……え、うそだろ?




 ぇ、俺、『一人で入る』って言ったよね。

 『邪魔するな』って、確かに言ったよね。


 ……え、マジか、あいつ……

 ラリってんのか、あのバカ……


 俺は、その場で固まってしまう。

 『嘘であってくれ』と願ったが、しかし、現実は無慈悲(むじひ)だった。


「いい湯でちゅねぇ」


 などと言いながら、

 酒神は、俺と同じ湯船に入ってきて、

 となりに腰かけると、

 おたがいの腕がふれる距離を陣取った。

 ちなみに、俺は、酒神を見ないよう目を閉じている。


 ここで、こいつをガン見する勇気などない。

 アポロや蝉原には立ち向かえるが、『この状況』には立ち向かえない……

 ヘタレな俺を笑ってくれ。


「あ、このお湯、特別な効能(こうのう)がある感じでちゅね。肌がツヤツヤになっていくのを感じまちゅ。ほら、お兄(にぃ)、スベスベでちゅよ。さわって確かめてみてくだちゃい」


 などと、イカれたことをぬかしているバカ女。


 俺は、下半身が充血しそうになるのを、

 鋼(はがね)の根性でおさえつける。


 クールにいけ。

 ここで、下半身を大きくさせたりしたら、あまりにダサすぎる。


 煩悩(ぼんのう)を捨てろ。

 素数(そすう)を数えるんだ。

 俺の根性をナメるなよ。


「お兄、聞いてまちゅか?」


 なんて言いながら、酒神が、

 俺の腕を、指先でツンツンしてくる。


 やめろ、ボケえぇ。


 意識がみだれる。

 ダメだ。

 このままだと、壊れる。


 そう思った俺は、


「さ、酒神……お前、まさか、裸(はだか)じゃないだろうな?」


「入浴中なんだから、裸に決まっているじゃないでちゅか。なにいってんでちゅか」


「何言ってんだ、と言いたいのは俺の方だが……とりあえず、いったん、ガマンしてやる。冗談かガチか分からんが、もしマジなら、せめて水着を着ろ。これは命令だ。ガチの命令だ」


「めんどくさいでちゅねぇ。……まあ、でもいいでちゅよ」


 そう言って、酒神は、いったん、風呂から出ていった。

 俺は動けなかった。

 今、動くことは、死を意味する。


 全力で精神を統一させていると、

 酒神の戻ってくる音が聞こえた。


「水着を着ているか?」


 正直、水着でもキツいんだが、

 しかし、裸(はだか)よりはマシだ。


「きまちたよ」


 俺は、その言葉を信じて、

 ソっと目を開けてみた。


 すると、全裸(ぜんら)の酒神が、俺の目の前で、

 煽情的(せんじょうてき)なポーズをとりつつ、

 妖艶(ようえん)な笑顔で、俺の目をジっと見つめていた。


「何がしたいんだ、てめぇええええええ!!」


 あわてて、両手で顔をおおう俺。

 ダサい……今の俺は、本当にダサい……

 最後までクールでありたかったが、

 しかし、この状況下では、カッコつける余裕がなかった。


 頭が爆発しそうだ。

 ふざけんなよ、マジで……


「お兄の命令通り、ちゃんとお兄を見てあげたんでちゅよ」


「服の話をしとるんじゃ、ぼけぇええ! 水着きてこいっていっただろう!!」


「あ、忘れてまちた。だめでちゅねぇ。オイちゃん、最近、ボケがきているのか、3歩ぐらい歩いたら、何をしようとしていたのか、だいたい忘れちゃうんでちゅよ」


「ごちゃごちゃぬかさんと、さっさと、着替えてこい! というか、出ていけぇえ! 俺、言っただろ! 一人で風呂に入るってぇええ!」


「ああ、そういえば、そんなことを言っていたような気がしないでもないでちゅね」


「言ったんだよ!」


「ま、そんなことはどうでもいいでちゅ」


 なんて言いながら、

 酒神は、俺のとなりにすわり、

 たがいの腕がふれ合うぐらいの距離を陣取る。



「命がけで、オイちゃんを守ってくれたご褒美(ほうび)として、宇宙一の女神であるオイちゃんと混浴する権利をあげまちゅ」



「……お前が美人なのは認めるが、性格の方は、普通に最悪だと思っているからな。お前、やべぇぞ、マジで。やばいっていうか、もう怖ぇ」


「でも、お兄って、『性格が悪い女』の方が好きでちゅよね?」


「勝手なことをぬかすな。俺のタイプは、おしとやかな大和撫子(やまとなでしこ)だ」


「そんなもん、この世に存在しまちぇんよ。女はみんな、心に化け物を飼っている悪魔でちゅ」


「……なんで、お前は、そんなに歪(ゆが)んでいるんだ……」


 と、俺がつぶやいた直後のこと、


 酒神が、俺の腕に、ギュっと、抱きついてきた。

 胸の感触がダイレクトに伝わってくる。

 ふにゃり、という効果音が脳内をうめつくす。


 ……脳がふっ飛ぶ……


「な、なにを……している……んだ……?」


 思考停止寸前で、俺は酒神にたずねる。


「感謝のしるしの大サービスでちゅ」


 ここまで、よく我慢した俺。

 けど、もう無理。


「……酒神……マジで……勘弁してくれ……たのむ……」


 俺が、本気の声でそう言うと、


 酒神は、一度、タメ息をついてから、


「お兄(にぃ)って、損(そん)な性格してまちゅねぇ……ま、そういうところも、嫌いじゃないでちゅけどねぇ」


 なんてことを言いながら、

 風呂から出ていった。



 残された俺は、


「……ふ……ふぅうぅぅうう……」


 と、一気に脱力して、


「た、耐えたぁ……ギリギリだった……」


 いや、まあ、正直、耐えてはいなかったが、

 しかし、耐えたということにさせてもらいたい。


 まだ、しばらく湯舟(ゆぶね)から出られそうにないが、

 しかし、それは、『そういう事』とは別の話だ。


 そう、俺はただ、風呂を楽しんでいるだけだ。


 もう、出たくて、出たくて、仕方ないぐらい、

 体が火照(ほて)ってたまらないのだが、

 しかし、それでも、なお入っていたいぐらい、

 俺は、風呂が大好きなのだ。


 ……そういうことにしておいてくれ。

 たのむから。

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