6+話 主人公の覚醒は終わらない!!


 6+話 主人公の覚醒は終わらない!!


 そこで、俺は、蝉原をにらみ、


「蝉原、こい」


 俺の命令を受けた蝉原は、

 そくざに、俺の元までかけ寄ってくる。


「なにかな、センくん。そのトカゲ女に、とどめを刺せというのなら、今すぐにでも――」


「余計な口を開くな。黙って俺の命令にしたがえ」


「……」


 俺に強い口調で命令されて、『何とも言えない顔』をする蝉原。

 何か言いたげな顔をしているが、今は、『こいつの感情』にかまっているヒマはない。


 俺は、俺の『奥』へと集中する。

 俺の『可能性』はまだ残っている。


 感じるのだ。

 俺には、まだチートが隠されている。

 俺はずっと、俺の事を『才能無しの無能』だと思っていたが、

 どうやら、それなりに『潜在能力(せんざいのうりょく)』が秘(ひ)められていたっぽい。


「すぅ……はぁ……」


 深く息をすって、吐いて、

 そして、天を見上げて、




「プラチナァアアアアアアアア!!!! スペシャルゥウウウウウウ!!!!!」




 ノドが引きちぎれるほど叫んでみた。

 すると、当然のように、

 俺の『奥』が開く。

 世界の声が聞こえる。



 ――プラチナスペシャル『病的な高潔(こうけつ)』、開眼――

 ――効果『センエースの高潔さに触(ふ)れた者は、未来を奪い取る力を得る』――



「はぁ……はぁ……」


 俺は、呼吸をととのえてから、


「蝉原、アポロに『殺神遊戯』を使え。あれ、『スキル解除系の技』だろ? 二次創作で読んだことがあるから知っている。アポロの絶死を解除しろ」


「……ぇ、いや、さっき、ためしたけど、出来なかっ――」


「いちいち歯向かうな。命令だ。さっさとやれ」


「…………かしこまりました」


 蝉原は、一度、うやうやしく頭を下げてから、

 両手にオーラを込めて、


「ん? なんだ……これ……」


 そこで、蝉原は気づいたらしい。

 己の可能性が開かれていることに。






「……プラチナ……スペシャル……っっ!!」






 心を吐き出すように、蝉原は、そう言った。



 蝉原にきざまれていた可能性が開く。

 『世界の声』が、俺にも聞こえた。



 ――プラチナスペシャル『ディアブロ・コミュニティ』、開眼――

 ――効果『蝉原の【悪】を愛した者の数だけ、蝉原は強くなる』――



 目覚めた蝉原は、両手をアポロに向けると、

 一度、精神を統一してから、



「――真・殺神遊戯(さつじんゆうぎ)ぃいいい!!」



 『相手のスキルを強制解除する技』をつかった。


 先ほどは、まったく通じなかったのに、

 『真』に届いた今回は、


 ――パリィイインッッ!


 という音がひびき渡り、

 あっさりと、アポロの『絶死』を解除することに成功した。



 ……俺は『自分の絶死』を解除するのに、ゲロ吐くほど苦労したが、

 蝉原は、サラっと、スマートに決めてみせやがった。

 うぜぇ。

 ……ちょっと、泣きたくなった。



 絶死が解除されたという事実に対し、

 アポロが目を丸くして、


「……ぁ、ああ……ど、どうして……そこの『邪悪なる者』に『余の絶死を殺すほどの力』は……なかったはず」


 『困惑(こんわく)しているアポロ』に、

 俺は言う。


「言っただろ。お前が死ぬようなエンディングを、俺は認めない」


「……あ……ぁあ……」


 アポロは、大粒(おおつぶ)の涙を流しながら、

 ムリヤリ起き上がり、俺のもとにかけよって、しなだれかかってきた。

 受け止めた俺に、アポロは、


「……感謝します……尊(とうと)き方……」


 なんて言ってくる彼女の頭を、

 俺は、もう一度、優しくなでながら、


「俺は『胸糞(むなくそ)』が嫌いなだけだ。つまり、俺は『俺のワガママ』を通しただけ。1ミリも尊くはない。あと、お前の絶死を解除したのは、俺じゃなくて蝉原だし」


 勘違いは本当に困る。

 困るというか、気持ちが悪い。


 俺は『いい人間』ではない。

 いつだって、自分がやりたいことをやるだけだ。


 と、そこで、


「……ぅ」


 アポロが、胸をおさえて苦しみだす。


「ん、どうした? 体が痛むのか?」


「い、いえ……た、ただ……『絶死のアリア・ギアス』を使ってしまった影響で……力がうまく入りません」


「ああ、その気持ち、すげぇ分かるわ。俺の場合、絶対的主人公補正のおかげで、高速回復したけど……普通の体なら、けっこうな『しんどさ』が残るだろうなぁ」


「もうしわけありませんが、しばらく、あなた様の『中』で、休息してもよろしいでしょうか」


「俺の中? 意味がちょっとわからんけど……とりあえず、なぜそうしたいのか、その理由を聞かせてくれる?」


「あなた様の『尊き高潔(こうけつ)さ』に触(ふ)れていれば、『コアオーラの再生』が早くなるからです。できるだけはやく、あなた様の力になりたいので、どうか、お許しください」


 『コアオーラ』って、確か、生命体が持つ一番大事なオーラだっけ?

 説明書に書いてあったけど、その辺の抽象的(ちゅうしょうてき)なやつは、正直、よくわからん。


「……まあ、よくわからんけど、それで楽になるなら、好きにしろよ」


「ありがとうございます。主上様(しゅじょうさま)」


「なんだ、その呼び方……恥ずかしいから、やめ――」


 やめてくれと言う前に、

 アポロは、俺の中へととけていった。


「ぉ、おお……なんか、変な感じ……」


 体の中が、とてもポカポカしている。

 『重たい』と感じる部分もなくはないが、

 不思議と『邪魔だ』とは思えなかった。

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