6話 主人公、覚醒!! 完全無敵となるセンエース!!!


 6話 主人公、覚醒!! 完全無敵となるセンエース!!!


 蝉原の野郎……返事しねぇじゃねぇか。

 くそったれ。

 どこまでも腹の立つ野郎だ。


 『恥ずかしさ』を殺して、『本気の言葉』で『想い』を伝えたっていうのに……

 シカトされたら、俺、完全にただのピエロじゃねぇか、くそが……


 ……まあ、別にいいけどな。

 返事をしようがしまいが、命令は絶対だ。

 俺が死んでも、命令権は残る。


 これでいい。

 これが、こいつに対する一番の復讐(ふくしゅう)だ。


 ――だから、これでいい。


 そこで俺は、チラっとだけ、酒神に意識を向けた。

 ボロボロの姿だが、あいつは、生きている。

 俺を守るために受けた傷は、見ていて痛々(いたいた)しいが、

 しかし、あいつは、生きている。


 ……だから、これでいい。



「さあて、それじゃあ、最初で最後のクライマックスといこうかぁ! もう、いっそ、もっと燃えろよ、俺の命ぃい! どうせなら、限界まで咲(さ)かせてみせよぉやぁ!」



 ハイになった頭で世界を駆(か)け抜ける。


 ――俺が殴ると、アポロも殴り返してくる。

 『気室(きむろ)とのじゃれ合い』とは違う、ものすごく高度な殺し合い。

 これが、けっこう気持ちよかった。


 これから死ぬけど、

 『まあ、いいか』と思えた。


 ――蝉原ならうまくやるだろう。

 あいつは、クソ野郎だが、ガチでカリスマだ。

 マジでクソ野郎だが……俺よりは遥(はる)かに優秀だ。

 正直、『死ねばいいのに』と思っているが、

 あいつが、『出来る男』なのは事実。


 ぶっちゃけ、俺が生き残ったって、何もできねぇ。

 俺、マジで無能だからな。


 ――だから、これでいい。

 まあ、できれば、蝉原がこれから築(きず)き上げる『理想の世界』を、この目で見てみたかったが……まあ、いいよ。


 可能性を残せただけで、満足さ。


 さあ、死のう。

 最後に、でっかく、『命の華(はな)』を咲かせてみせよう。

 俺は、この世界に、『理想の種(たね)』を残せた。

 だから、そこそこ満足だ。



 ――龍の女神アポロ・テスタメントは本当に強かった。

 『絶死のアリア・ギアス』のおかげで、俺も相当に強化されているはずなのに、決定打を与えることはできなかった。

 正直、ボコボコにされた。

 存在値1200は伊達(だて)じゃなかった。

 骨が砕けた。

 肉が裂(さ)けた。

 ゲボ出るほど、脳をシェイクされたりした。



 ……そんな、死闘の果てに、

 アポロが、俺に対して、



「――清廉(せいれん)な命……高潔(こうけつ)な魂……な、なぜ、あなたのような男が……あの『邪悪の化身(けしん)』を……守ろうとする。そんなにもボロボロになりながら……なぜ、余(よ)の敵となる……」



 そんなことを言ってきた。

 俺は、痛みを我慢しつつ、

 ペっと、血を吐いてから、

 笑顔を浮かべて、


「……俺がお前の敵になった理由は一つ。お前が、こちらの話をいっさい聞かずに殺そうとしてきたから。……初手(しょて)をミスったな」


 俺は別に、聖人(せいじん)じゃないから、殺されかけたら殺し返すさ。


「蝉原という『最低な悪人』を見て、お前が焦(あせ)ってしまった気持ちも分からないではないが、お前は、もっと慎重(しんちょう)に行動するべきだった。平和的に、話し合いで解決すべきだった」


 『どの状況』においても『話し合いが最善』なんていうつもりはないが、今回に限っていえば、『話し合い』が最善手だったことは間違いない。


「まあ、お前のミスは、俺が清算(せいさん)しておいたから、安心しろよ、アポロ。蝉原はもう、『悪さ』が出来ねぇ。あいつの本質は『邪悪』なままだが、『善人としての行動しかとれない』なら、別に問題はないだろ?」


「あなたが……命を賭(と)して……あの邪悪なる者を……封(ふう)じ込めたということか……?」


「違うよ、勘違いするな。……俺は、俺のワガママを貫(つらぬ)いただけだ。あと、あいつのことが大嫌いだから、あいつが『一番いやがる復讐』をやらせてもらった。俺は陰湿(いんしつ)で、性根(しょうね)が腐(くさ)っているんだよ。そんだけの話だ」



「……これ以上ない高潔(こうけつ)な魂……ここまで美しい命を見たのは……はじめてだ……」



「お前、耳が死んでんのか? 俺は、ワガママな復讐を実行しただけ、っつってんだろ」



 そんな俺の言葉は、

 どうやら、アポロの耳には届いていない様子。


 なぜか、アポロは恍惚(こうこつ)の表情をしており、


「輝いている……ほんとうに……なんという美しい光……この世の全てを包み込む光……」


「なにも輝いてねぇよ。よく見ろ。今の俺なんざ、どっからどう見ても、ボロボロで、吐くほどみすぼらしい、ただの無能だろ。お前、ほんと、どうした? 頭、バグったか?」


「……余(よ)も……あなたの……力に……」


 そう言いながら、

 アポロは、俺の胸に手をあててきた。


 『何か』が注(そそ)がれていくのが分かる。


 これは……アポロの記憶……


 この暖(あたた)かさは、

 これまで、アポロが、この世界に捧(ささ)げてきた献身(けんしん)。

 ずっと、ずっと、アポロは、この世界を守ってきた。


 たった一人で、

 どんなに苦しい時も、

 世界を守るために、必死に……


 アポロは、『邪悪で巨大な力を持つ蝉原』に対し、普通にビビっていた。

 それでも、アポロは歯をくいしばって、前を向いて、

 命をかけて、蝉原に立ち向かった。



 ……すげぇ女だ。

 ……かっけぇじゃねぇか……



 彼女の『想い』にふれたことで、

 俺の脳が沸騰(ふっとう)した。

 心がパンパンになる。

 その結果、俺の口が、

 俺の意志に反(はん)して、

 勝手に開いた。


 気付けば、俺は、上半身だけのけぞり、

 空を見上げて、








「――プラチナァアアアア!! スペシャルゥウウウウウ!!」








 ノドをからして叫んでいた。

 『スペシャル』という概念(がいねん)は、説明書に書いてあったから知っている。

 『永遠人形』にも存在するシステムで、ようは『ユニークスキル』のこと。

 その最高峰がプラチナスペシャル。


 そういう設定は、もちろん、理解しているのだが、

 しかし、なぜ、ここで、俺が、

 『プラチナスペシャル』と口にしたのかは一切わからねぇ。


 勝手に口をついて出た……



 ほんと意味不明。

 てか、俺の体、『赤以外の色』で輝いてね?


 なんて思っていると、




 ――プラチナスペシャル『絶対的主人公補正(ぜったいてきしゅじんこうほせい)』、開眼(かいがん)――

 ――効果『心が折(お)れないかぎり、主人公は死なない』――




 また、声が聞こえた。

 あの『謎の声』……とは、ちょっと違う?

 よくわかんね。

 どっちも、声が加工されているみたいだから。




 ……てか、そんな『声の質』とか、どうでもいいけど、

 この『絶対的主人公補正』っていうスペシャル……ヤバくない?

 ようするに、俺、『不死身のスキル』を手に入れたってこと?


 などと、疑問に思っていると、

 頭の中に、『絶対的主人公補正』のえぐい特性がインストールされる。

 魂レベルで、俺は、このスペシャルについて理解する。


 いや、これ、マジですごいんですけど。

 無敵すぎるんだが。


 まあ、効果が強すぎる分、デメリットも当然あるわけだが。



「うぶぅおぇええええええっっ!!」



 俺の体から、『絶死のアリア・ギアス』が消えていく。

 その代償(だいしょう)として、俺は、

 『車酔いの100倍』ぐらいの『しんどさ』におそわれて、

 おもいっきり、ゲロを吐いてしまった。


 とにかく、頭がクラクラする。

 死にたくなるほどのツラさ。


 ――絶対的主人公補正は、心が折れない限り死なないスペシャル。

 『死ぬほどのダメージ』を受けた時、死なないかわりに、ゲロで溺(おぼ)れるほどメンタルがズタボロになる。

 まるで、俺の『心』を『殺しにくる』みたいに、とんでもない精神的な負荷(ふか)がかかる。



「うぇ……はぁ……はぁ……ナメんなよ……この程度で折れるほどモロくねぇぞ……俺は、勉強もスポーツも何もできないカスだが……昔から、根性にだけは、多少の自信があるんだ。実際、『蝉原に立ち向かえるほどの根性』をもっているヤツはそうそういねぇぞ」



 と、自分で自分を鼓舞(こぶ)していると、

 そこで、アポロが、バタリと倒れこんだ。


 今にも死にそうな顔。

 どうやら、彼女が『世界と約束した15分』が経過(けいか)してしまったらしい。


 アポロは、かすれた声で、


「……すべてを包み込む光……できれば……あなた様の力に……なりたかった……」


 そんなことを言った。


 俺は、『胸ポケットから取り出したハンカチ』で口をぬぐってから、

 一度、呼吸をととのえて、


「……おいおい、なんだよ。まるで『もうそれは不可能』みたいな言い草だな」


「……私は……もう……」


「ナメんなよ、アポロ。俺は、絶対にお前を死なせない」


「……ぇ……」


「蝉原相手に、よく頑張ったな。お前はすごいよ」


 そこで、俺は、彼女の頭を、ソっとなでた。

 柔らかな髪質。

 こうしてみると、ただの女の子にしか見えない。


「蝉原に立ち向かったことだけじゃない。たった一人で、ずっと、ずっと、この世界を守ってきた。俺はお前を尊敬(そんけい)する。――そんなお前を……『必死になって、この世界を守ろうとしたお前』を見殺しにしたりはしない。そんなクソ以下のエンディングを俺は絶対に認めない。俺は、胸糞(むなくそ)が嫌いなんだ」


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