5話 『蝉原』視点(超ざまぁ)。


 5話 『蝉原』視点(超ざまぁ)。


 おれは蝉原勇吾。

 いきなりでなんだが、死ぬほどピンチだ。


「くそが、くそが、くそがぁあああああ!! 下手に抵抗せず、サクっと死ねよぉおお! 硬(かた)すぎるんだよ、てめぇえええ! イラつくな、くそがあああ!」


 なんだ、このクソ状況!


 つぅか、そもそも、なんで、このおれが、あの『セン』とかいう『クソ陰キャ野郎』の奴隷にならなくちゃいけねぇんだ!

 ありねぇだろ、くそったれぇえええ!


 必死にガマンして、反省しているフリをして、

 ぶざまに土下座までして、

 いつか『あのクソ陰キャを殺せる機会』を待とうとしていたのに!

 その矢先(やさき)に、

 なんで、こんなことになる!!


 なんだ、このトカゲ女!

 強すぎるぞ、ふざけるなぁああああ!


 ああ、イライラする!

 死ぬほど屈辱的(くつじょくてき)だ!

 なんで、このおれが、こんな目にあわないといけない!


 クソ陰キャの奴隷になって!

 トカゲ女にボコボコにされて!!


 ふざっけんなぁあああああああああっっ!!


 おれは蝉原勇吾だぞぉおおお!

 宇宙一のヤクザになる男なんだぁああああ!


 そのおれを、コケにしやがって、絶対に許さねぇええ!

 絶対に生き残ってやる!


 生き残って、

 いつかセンを殺して、

 真の自由を手にして、


 この世界の命で遊んでやる!!


 生きとし生ける全ての者に、おれの『悪』を魅(み)せつけるんだ!

 この世界におれの悪を刻(きざ)み込む!


 それまでは!

 絶対に!

 死んでやらねぇえええええええええ!!


 くらえ、必殺……っ





「殺神遊戯(さつじんゆうぎ)っっ!!」





 っ!

 ちくしょうがぁあ!!

 おれが誇(ほこ)る最高位の必殺技も無効化(むこうか)されちまった!


 殺神遊戯は、『相手が発動中の強化スキルを強制的に解除させる技』なのだが、

 あのトカゲ女には通じなかった。

 『絶死のアリア・ギアス』さえ解除できれば、楽勝で殺せるのに!


 ちくしょう!


 完全に終わった。

 もう打つ手がない。



 くそ、くそ、くそぉおおお!


 『存在値1200の壁』は、想像以上に高すぎる。


 差は、たった『200』だが、

 体感的には『20倍』ぐらいの実力差がある気がする。


 ああ……ダメだ……意識が朦朧(もうろう)としてきた……

 死ぬ……死んでしまう……


 おれも絶死を積むか?


 ……いや、なんで、おれが、こいつらを守るために死ななきゃいけねぇんだ。

 ふざけんじゃねぇ。

 おれは、おれの命だけが大事なんだよぉ!


 ……じゃあ、酒神に絶死を積ませて……

 だめだ……あの自己中女(じこちゅうおんな)が、他人の言う事を聞くわけねぇ……


 センに命令させれば、あるいは……

 いや、酒神は、センのことを、多少気に入っているみたいだが、

 さすがに、『絶死を積め』という命令を聞くとは思えない……



「げほっ、がはぁっ……」



 血を吐きすぎた。

 クラクラする。


 残る手段は、おれも『暴露(ばくろ)のアリア・ギアス』を積んで強化するってぐらい……

 だが、『暴露だけの強化』じゃ、弱すぎる……

 あのトカゲ女に勝とうと思えば……『絶死』は絶対……



 あ、やばい……マジで死ぬ……



 絶死を使ったら、勝てるかもしれないが、

 どっちみち、おれは死ぬってこと。

 いやだ……

 俺だけ死んで、こいつらは生き残るとか、絶対に許せねぇ。




 ……ていうか、うそだろ?

 死ぬのか……このおれが?

 この蝉原勇吾が……


 嘘だろ……?


 おれが死ぬワケないよな……?


 嘘だ……嘘だ……嘘だ……



「たす……けて……」



 なに言ってんだ、おれ……

 誰が助けてくれるってんだ。

 あのトカゲ女の殺気はハンパねぇ。

 おれの命乞(いのちご)いなんか聞くわけねぇ。


 弟子どもは、ハッキリ言って、使えねぇ。

 酒神だけは、どうにか火力ソースとして使えるが、

 それ以外の連中は、ぶっちゃけ微妙(びみょう)。

 あのトカゲ女の前では、ひとしくゴミ。

 こいつらじゃ、絶死を積んでも相手にならねぇ。


 こ、こんなことになるなら、もっと金を使って鍛(きた)えておけばよかった。

 最悪だ……何もかもが最悪……

 なんで、俺がこんな目に……



「邪悪な侵略者(しんりゃくしゃ)めぇええ! 貴様のような、『穢(けが)れた魂』を、私は、絶対に許さなぁあああいっ!」



 トカゲ女がぁ……はしゃぎやがってぇ……

 『正義の味方』きどりかよ……

 おれの一番嫌いなタイプだ。

 ヘドが出る。


 マジでいい加減にしろよ。

 ボコボコに殴ってきやがって……


 なんて思っていると、

 トカゲ女が、






「――『フルパレードゼタキャノン』ッ!!」






 両手に、クソでかいバズーカ砲みたいなのを召喚した。

 銃口に、ギュンギュンと、エネルギーがたまっていく。


 フルパレードゼタキャノンは、属性(ぞくせい)特化の高火力砲。

 『使い勝手とコスパ』は悪いが『火力』だけは異次元砲よりも高い。


 アレは、やべぇ。

 あのオーラ量……耐えられる気がしねぇ……


 死ぬ……


 くそ……


「……たすけ……」








「うるせぇ、『2』だぁあ! くそったれぇえええええええっ!!」








 バカの声が聞こえる。

 なにワメいてんだ、あのバカ……


 恐怖で頭がトチ狂(くる)ったか?



 ――そんなことを思っていると、

 あのバカ……

 ……『閃(せん)』が、

 おれの前の前に飛び出してきた。




「異次元砲ぉおおおおおおっっ!!」




 センは、

 右手にタメたオーラを、一気に放出(ほうしゅつ)して、


 『でかいバズーカを放とうとしているトカゲ女』に、

 カウンターの一撃を叩き込む。


「ぎゃあああああっ!」


 トカゲ女が悲鳴をあげてふっとんでいった。

 おかげで、どうにか、『あのバカでかいバズーカで吹っ飛ばされて死ぬ』というオチは回避(かいひ)できた。


 ……が、意味がわからない。

 センは存在値2で、なんのスペシャルも持っていないクソザコ陰キャのはず……

 『異次元砲』なんて高度な魔法が使えるわけ……






「ヒーロー見参(けんざん)!!」






 トカゲ女をふっとばしたセンは、

 おれの……おれたちの前で、

 堂々とそう叫んだ。


 正直、バカみたいだと思った。

 セリフのチョイスがダサすぎて吐きそうだ。


 けど、なぜだろう……

 センの背中に、おどろくほどの頼(たの)もしさを感じるのは……

 この安心感は、いったい……


「人生で一度は言ってみたいセリフ1位『ヒーロー見参』を、ふさわしい場面で叫べた……うん……もう、だいぶ満足だ。死んでも悔(く)いはない」


 センは、恍惚(こうこつ)の表情でそう言ってから、



「……つぅか、これが、『絶死のアリア・ギアス』か……すげぇな……力が、ありえないほど沸(わ)いてくる」



 などと、そんなことをつぶやいた。


 よくよく見てみると、

 センは、あのトカゲ女と同じ、

 『鮮血(せんけつ)のような真っ赤なオーラ』に包(つつ)まれていた。


「センくん……君、まさか……」


「ああ、使ったんだよ。でも、誤解はするな、蝉原。俺が、この『絶死のアリア・ギアス』で死んでも、お前は死なねぇから」


 その言葉にウソはない気がした。


 あくまでも感覚の話なのだが、

 今のおれと、こいつの間には、

 命のリンクが途切(とぎ)れている気がする。


「現状、俺とお前の間に、命のどうこうはない。ただし、命令権は切れてねぇらしいから、死ぬ前に命令しておく。――ああ、ちなみに言っておくが、お前が反省していないことは分かっている。謝罪する気が一切ないってこともな」


「……え」


 ドキっとする。

 まさか、見抜かれていたとは……

 完全に騙(だま)せていると思っていたのに……


「お前は生粋(きっすい)の悪人だ。信念に従(したが)って悪をまっとうしている極悪人。そんなやつが、本気で謝罪なんかするわけがない」


「……いや……えっと……」


 なにか言い訳をしないと、

 と思うのだが、朦朧(もうろう)としすぎて、

 頭がうまく働かない。


 そんなおれに、

 センは言う。


「だから『絶対の命令』でしばりつけてやる。いいか、蝉原。これから先、善人は殺すな。『俺が不快に思う悪』の全てを禁止する。それを念頭(ねんとう)においた上で、この世界を平和的に征服(せいふく)して、はびこる魔王どもを一つにまとめあげろ。戦争をなくせ。侵略(しんりゃく)とか、虐殺(ぎゃくさつ)とか、そういうの、全部なくせ。飢餓(きが)とか、疫病(えきびょう)とか、もっと言えば、汚職(おしょく)とか、自殺とか、強姦(ごうかん)とか、虐待(ぎゃくたい)とか、イジメとか、そういう、俺的に『胸糞(むなくそ)な厄介(やっかい)事』の全部を排除(はいじょ)した、完璧な世界を実現しろ」



 なにを……言っているんだ……こいつ……

 そんなこと、できるわけ……



「俺は『無能の陰キャ』だから、完璧な世界をつくるとか不可能だが……お前ほどの『才能の塊(かたまり)』なら、不可能じゃないだろ。お前は『最低の悪人』だが、『悪である』という点をのぞけば、本物のカリスマだ。クソ凡人の俺とは違う、王になれる器」



「……」



「――命令だ。王になれ。俺が願う『理想の王』に。その義務を、お前に対する復讐(ふくしゅう)とする。忘れるなよ、蝉原。『母さんの形見』をふみつけたお前を、俺は絶対に許さない。こんなところで楽に死なず、無様(ぶざま)に、苦しみながら生き続けて、己の罪(つみ)を償(つぐな)え」



「……」


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