4話 蝉原、ボッコボコ(ちょいざまぁ)!


 4話 蝉原、ボッコボコ(ちょいざまぁ)!


 蝉原が余裕(よゆう)を見せていると、


 そこで、龍美女が、

 口から出ている血を、

 袖(そで)で拭(ぬぐ)いながら、



「べ、別時空の……邪悪な侵略(しんりゃく)者ども……」



 ギリっと奥歯をかみしめ、


「貴様らは、絶対に殺す……この世界の『守り神』として……」


 なにやら、神聖(しんせい)っぽい力を充満させていく。


「余(よ)は、龍の女神! この世界の天帝(てんてい)アポロ・テスタメント。すべての悪(あ)しきを砕(くだ)く聖なる輝き! 貴様らのような邪悪の化身(けしん)には、絶対に屈(くっ)しない!!」


 名乗りをあげるアポロ。


 ――そのスキを、酒神(さかがみ)は見逃さなかった。

 タメにタメた拳(こぶし)で、

 アポロの顔面を叩き割ろうとした。

 しかし、




「究極(きゅうきょく)完全体(かんぜんたい)モードッッ!」




 攻撃が当たる直前、

 アポロは、変身した。


 グググっと、力が増していく。

 より美しい姿へと覚醒。

 ギラリと目を光らせて、

 アポロは、




「龍撃(りゅうげき)/反譜(はんぷ)!!」




 綺麗なカウンターをぶちこんできた。


「おっとぉ!」


 アポロのカウンターを、ギリギリのところで回避(かいひ)した酒神は、

 バックステップで、俺たちの近くまで戻ってくると、


「あのトカゲ女……パワーとスピードが、死ぬほど上昇していまちゅ……強ボスにありがちな、第二形態(だいにけいたい)ってやつでちゅかね」


 そんな酒神の発言に、

 蝉原がボソっと、


「ちっ……存在値が1000まで上昇しやがった……クソ鬱陶(うっとう)しいな。『かませ犬』で終わっていればいいものを……」


「ケガしたくないんで、『アルブム』と『マリ』も呼んでくだちゃい。全員でかかれば、完封(かんぷう)できるでちょう」


「……そうだな……『アルブム・カライト』、『文月(ふみつき) 真里(まり)』、召喚(しょうかん)」


 蝉原がそう言うと、

 周囲に、2つの魔方陣が出現する。


 そして、召喚される、蝉原の弟子二人。


 一人は、ナース服を着ている『柔らかな雰囲気の美女』で、

 一人は、ミニスカポリスみたいな恰好のクールビューティー。


 蝉原の話が事実なら、二人とも、ただ美形というだけではなく、

 どちらとも、『魔王以上の力』を持つ、とんでもない化け物。

 どう見ても、そんな強いようには見えないんだけどねぇ……

 まあ、それは酒神も同じだけど。


 なんて思っていると、

 そこで、蝉原が、ボソっと、


「センくん……おれたちに命令してくれ。あのトカゲをたたきつぶせ、と」


 バキバキっとユビの関節をならしながら、舌なめずりをする蝉原。


 暴力をふるいたくて、うずうずしているのが見てとれた。


 別に俺の命令を待たなくとも『自発的に闘うこと』もできるのだろうけど、

 一応、体裁(ていさい)を保(たも)とうとしているっぽい。


 その気持ちが分かったので、俺は、余計なことは言わず、



「え、あ……うん。じゃあ、よろしく」



 そんな俺の『命令?』を受けて、

 この場にいる俺以外の全員がいっせいに飛び出した。


 見た目どおり、アルブムがヒーラーを担当し、

 文月が『状態異常系のデバフ魔法』を敵にかけて、

 酒神と蝉原がアタッカーをつとめる。


 バランスのいいパーティで、

 連携(れんけい)も見事だった。


 蝉原の、


「殺神覇龍拳(さつじんはりゅうけん)!!」


 『ハデなエフェクトのかかった豪快なアッパー』が、

 アポロに炸裂(さくれつ)する。

 ちなみに、技の名前をさけんでいるのは『カッコイイから』ではなく、

 そうした方が『火力が出る』と、説明書に書いてあったから。



「ぎゃぁあああああああああああああああああああっっ!!」



 白目をむいて、爆発音のような悲鳴をあげるアポロ。


 その痛々しい悲鳴を聞いた蝉原は、

 満面の笑みを浮かべて、


「いい声で鳴(な)くねぇ。もっとイジメたくなる」


 などと、快楽(かいらく)殺人者の顔で笑う。


 最初から知っていたけれど、

 やっぱり、蝉原は極悪人だ。

 あいつが敵だったらヤバかったな……


 ――などと思っていると、

 そこで、アポロは、

 第二形態になるだけでは飽(あ)き足らず、



「この、おぞましい『邪悪の化身(けしん)ども』さえ殺せれば、それでいい! 余の寿命(じゅみょう)を、残り15分まで圧縮(あっしゅく)する! つまりは、すべてをささげる!! だからぁああ! ありったけをぉおおお!!」



 ノドがちぎれるほどに叫ぶ。


 その叫びは、たんなる『覚悟の表明』ではない。

 どうやら、『世界との契約(けいやく)』だったらしい。






「――絶死(ぜっし)のアリア・ギアス、発動ぉおお!」






 宣言(せんげん)の直後、

 『鮮血(せんけつ)のような真っ赤なオーラ』に包まれるアポロ。


 アリア・ギアス。

 そのシステムは、説明書に書いてあったから知っている。


 『覚悟(かくご)』と引きかえに、

 『望む力』を得られるようになる世界のシステム。


 アポロは、さらに、


「邪悪なる者よ、ふるえるがいい! もう一段階(いちだんかい)、積(つ)んでやる!! 余の『弱点属性』は『雷』だ!! 余は雷撃に弱い!!」


 と、『自分の弱点』を急に叫びだした。

 その『意味』を、ここにいる全員が理解している。

 説明書に書いてあったから。


 おそらく、あの宣言は、

 『暴露(ばくろ)のアリア・ギアス』。

 『自分にとって不利な情報』を、あえて叫ぶことで、

 『その覚悟』を『力』にかえる、世界との契約。


 『絶死(ぜっし)』と『暴露(ばくろ)』を積(つ)んだことで、

 彼女は、限界を二つ超えていく。




「――『霊甲(れいこう)・光龍闘衣(こうりゅうとうい)ランク27』!!」




 『すさまじい性能の強化魔法』を使っていくアポロ。


 その様子を見た蝉原が、

 こめかみに脂汗(あぶらあせ)を浮かばせて、


「ランク27だとぉ?! 『ランク魔法』の上限は『25』だろぉ! なに、チートかましてんだ、このトケゲ女ぁああ!」


 そこで、ヒーラーのアルブムが、


「魔法だけではありません! 存在値も『1200』にアップしています!」


 これには、酒神も渋(しぶ)い顔をして、


「ふざけてまちゅねぇ……なにもかもチートじゃないでちゅか」


 続けて、デバフ担当のマリが、


「……状態異常系の魔法が通りづらくなった。あのトカゲ、耐性値(たいせいち)も、ものすごく上がっている」


 そこで、蝉原が、


「くそったれぇえ! おかわりだぁ! 『ファイアゲート・デビナ・バーサキュリア』、召喚!!」


 また、魔方陣から、美女が登場。

 今度の美女は、 真っ赤なセーラー服を着こんだ、ピカピカの美少女。

 ただ、『目のギラつき』がハンパではないので、

 『かわいらしさ』というものは、ほぼほぼ感じない。


 デビナは、そのギラギラした感じを強め、

 腹の底から、



「めちゃくちゃピンチじゃねぇか! 血がたぎるねぇ!! かはは!!」



 アドレナリン全開な感じでそう叫ぶ。


 見た感じ脳筋(のうきん)っぽい……と思っていたら、

 ほんとうに脳筋だった。


 デビナは、ラリったような顔をして、

 アポロに対して、作戦なしの神風特攻(かみかぜとっこう)をかましていく。


 蝉原は、さらに、


「まだまだぁあ! 『アズライル・ノーバディ』、召喚!!」


 次に召喚されたのは、

 『白と黒が織(お)りなす奇抜(きばつ)なドレス』に身を包む美女。


「なんか、めちゃくちゃ、めんどいコトになっとんなぁ。ウチ、こういう、ヤバ気(げ)な展開とか嫌いなんやけど」


 ダウナーな感じで、魔法を連発するアズライル。

 彼女は、マリと同じくデバフ担当らしく、

 マリと一緒になって、アポロに、状態異常系の魔法をたたき込んでいる。


 その勢(いきお)いで、蝉原は、『残りの全員』を召喚した。

 『左右の目の色が違うメイド姉妹』と、

 『剣豪の渋(しぶ)オジ』と、

 『イケメンの執事』と、

 『喪服(もふく)の無口男』という濃いレパートリー。


 どいつもこいつも、超美形というだけではなく、

 全員が最強魔王以上の力を持つ、とんでもない集団。


 けれど、アポロは、

 そんな、『蝉原と愉快(ゆかい)な仲間たち』を見て、


「殺しきれる!! 絶死(ぜっし)と暴露(ばくろ)を積(つ)んだ余は、貴様らをこえている!! 邪悪なバケモノどもぉおおおお! 残らず、ここで、死ねぇえええええ! ――『異次元砲(いじげんほう)』ぉおおお!!」


 強大なビームの魔法で、蝉原たちをなぎはらうアポロ。


 最前線で『タンク』の役目をはたしている蝉原が、

 目に見えてボロボロになっていく。


 『大嫌いな蝉原』が痛めつけられるのは、

 正直言って、痛快(つうかい)だったが、


「おいおいおい……大丈夫かよ……切り札の弟子を全員召喚したってのに、めちゃくちゃおされてんじゃねぇか……」


 と、思わず、そんなことを口に出してしまった直後のことだった。






 ――センエース、君に選択肢(せんたくし)をあげるよ――






 頭の中で、あの時の『謎の声』が響いた。

 俺が、質問を投げかけるよりもはやく、

 謎の声は続けて、


 ――選択肢1。蝉原たちを見捨てるのなら、君だけ、転移の魔法で逃がしてあげる。この選択肢1をえらぶのであれば。おまけとして、特別に、『存在値が500になる指輪』をあげるよ――


 ――選択肢2。君も『絶死のアリア・ギアス』を積(つ)むというのであれば、『蝉原たちを守ることができる力』をあげる。ただし、タイムリミットはアポロが死ぬまで。アポロが死ねば、君も死ぬ。この条件で、君が死んでも、蝉原は死なない。2を選ぶなら、蝉原たちを完璧に守れる――


 ――1か2でこたえて。それ以外は何も受け付けない――



「あのさ、2を選ぶメリットを教えてくれや。なんで、2を選択肢(せんたくし)にくわえた? あんた、バカなのか?」




 ――1か2でこたえて。それ以外は何も受け付けない――




「……ちっ……『タイムスリップする前』に聞きそびれた『俺が払う代償(だいしょう)』についても聞きたかったんだが……その、ムダにかたくなな態度……どうやら、相手にしてくれそうにないな……」



 ――1か2でこたえて――



「うるせぇなぁ」


 つい、イライラしつつ、

 俺は、蝉原たちに視線を向ける。


 とっくに、戦線(せんせん)は崩壊(ほうかい)している。

 『絶死のアリア・ギアス』というのは、

 本当にすごい効果があるらしい。


 蝉原がボコボコにされている。

 殴られて、けられて、ビームを撃たれて、

 そろそろ死にそう。


 いい気味だ。


 母さんのサイフを踏みつけたお前を、俺は許さない。

 どうせだから、苦しんで、苦しんで、そして、死ね。



 ――1か2でこたえて――



 俺も『絶死のアリア・ギアス』を使えば、

 蝉原を助けられる……か。


 ……はっ、ありえねぇー。


 なんで、俺が、蝉原のために命をかけないといけないんだ。

 こんなもん、完全一択じゃねぇか。

 『1』以外はありねえぇだろ。

 もし『2』を選ぶバカがいたら見てみてぇ。


 ――1か2でこたえて――


 うるせぇなぁ。

 だから、そんなもん、言うまでもねぇって。


 俺は、蝉原のことが嫌いなんだよ。

 『使える道具であるうち』は、ギリ生かしておこうと思ったが、

 この現状だと、あいつに価値はない。


 『ここで逃げ出す』ことで『蝉原に対する復讐(ふくしゅう)』としよう。

 そして、このファンタジー化した未来を楽しもう。

 『存在値が500になる指輪』があれば、こまることはない。


 ――1か2でこたえて――


 ……


 ……


 ――そこで、

 俺は、『酒神(さかがみ)終理(しゅうり)』に目をやった。


 あいつは、また、アポロの攻撃から、俺を守ってくれた。

 あの女は、最初からずっと、俺のことを守っていた。


 弱い俺が死なないように。

 自分の体を盾にして、

 ボロボロになりながら、

 俺を守ってくれている。


 だから、この、『凶悪な魔法が飛びかう戦場』で、

 俺みたいなザコが生きていられた。




 ――1か2でこたえて――



 ……

 ……


 俺が逃げれば、酒神は死ぬ。



 ……気付けば、アポロが、

 『最終奥義っぽい技』を放とうとしている。


 俺が逃げれば、酒神は……



 ――1か2で






「うるせぇ、『2』だぁあ! くそったれぇえええええええっ!!」







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