3話 世界最強のドラゴン(裏ボス)登場!!


 3話 世界最強のドラゴン(裏ボス)登場!!



 召喚されたのは、ゴリゴリのギャルだった。

 このハデハデしさ……

 地味な俺とは、絶対にソリが合わんだろうなぁ……


 ……なんて思っていると、

 その美女は、かるく周囲を見渡してから、

 スっと、俺をロックオンして、

 ニっと笑い、


「あんたが、オイちゃんの『お兄(にぃ)』でちゅね」


 などと言ってきた。

 『自称(じしょう)』も『語尾(ごび)』もバグっている『痛い女』だった。


「……いや、別に、俺、あんたの兄ではないが……」


 と、そこで、蝉原が、


「センくん。彼女の『お兄(にぃ)』という呼び方は、彼女が『虫ケラとは思っていない相手』に対してだけ使うものだ」


「……その言い方だと、まるで、彼女が、『他人のことを、基本的に、虫ケラだと思っている女』に聞こえるんだが?」


「酒神(さかがみ)はそういうキャラなんだよ。フレーバーテキストに、そう書いてある」


「へぇ……ところで、なんで、俺のことは虫ケラだとは思っていないんだ?」


「人の好(この)みは、人それぞれ……それだけの話だと思うよ」


「少なくとも、嫌われてはいないって感じか……」


 それを理解して、普通に顔がほころびそうになった。

 俺は、必死に表情筋(ひょうじょうきん)を押さえつけてニヤつきそうになるのをおさえる。

 ここでニヤつくのは、あまりにダサすぎる。

 絶対にありえねぇ。


 ――と、そこで、酒神(さかがみ)が、俺に近づいてきて、

 俺の顔を、その綺麗な目で覗(のぞ)き込む。


 顔が近くなって、めちゃくちゃドキドキしているが、

 そんなダサいこと、絶対にさとられないよう、奥歯をかみしめる。


「いやぁ……すごいでちゅねぇ……」


「え……なにが?」


「潜在能力(せんざいのうりょく)がハンパじゃないでちゅ……そこにいる『性悪(しょうわる)の小悪党』とは比べ物にならないほどの極悪なポテンシャル……」


 そんな酒神の言葉に、

 蝉原が、やれやれ顔で、


「性悪(しょうわる)の小悪党って……一応、設定上、俺はお前の師匠(ししょう)なんだけどなぁ……まあ、別に、いいけど」


 などと、苦笑(くしょう)している。

 どうやら、蝉原は、酒神に嫌われているらしい。


 俺に対しては、まだ、どうか分からんけど、

 少なくとも、蝉原に対しては、

 『絶対服従状態のNPC』ってわけじゃないみたいだな。


「……つぅか、ポテンシャルって……そんなの、見えるのか?」


 そんな俺の疑問に、蝉原が、


「永遠人形の上位者(じょういしゃ)は、みんな、『セブンスアイ』っていう『相手の力を見通せる目』をもっている。セブンスアイは、数値だけじゃなく、相手の『スペシャル(ユニークスキルのこと)』も見える。だから、俺には、分かるんだけど……さきほどの酒神の発言は、テキトーな戯言(ざれごと)だよ。君は……存在値2で、スペシャルをもっていない……いわゆる、その……気を悪くしないでほしいんだけど、たんてきにいうと、『ただの弱者』なんだ」


 慎重に言葉を選ぶ蝉原に、

 俺は、


「だろうな……俺、才能とは無縁(むえん)のガチ凡人だから……まったく運動できねぇ。勉強も死ぬほどやらないと結果がでねぇ。そういう、いわゆる『クソザコ陰キャ』で――」


 と、そこまで口にしたところで、





「おっと、あぶないでちゅ」





 酒神(さかがみ)が、めちゃくちゃ素早い動きで、

 俺の首根っこをつかみ、


「ぐえっ」


 その場からバっと離れた。


 その直後のこと、

 さきほど俺がいた地点に、

 上から、ビームが降(ふ)りそそいだ。


「ど、どわぁ……なんだ、なんだ……っ」


 ビームの出どころをさぐると、

 上空に、ドラゴンがいた。


「……す、すげぇ……マジの龍だ……かっけぇ……」


 そこで、蝉原が、


「みとれている場合じゃないよ、センくん。あのドラゴン……『存在値800』の化け物だ……気を抜いたら、一瞬で殺されるよ。気をつけて。君が死んだら、おれも死ぬから」


「800?! え? 『魔王の存在値』が『300~500』ぐらいじゃなかった?! あのドラゴン、最強格の魔王より強いの?!」


「みたいんだね。もしかしたら、未来世界の『裏ボス』なのかも」


「おいおいおい、マジか……」


 と、普通にドン引いていると、


 そのドラゴンは、

 俺達の目の前までおりてきて、

 地に足をつけると同時、

 ギュギュっと、体をコンパクト化させて、

 『美女の人型』になる。


 そのまま、警戒(けいかい)した目で蝉原をにらみ、




「……そこの『邪悪(じゃあく)なる者』よ。貴様、何者だ。どうやって、余(よ)の結界(けっかい)を突破した?」




 そんな、『龍美女』の言葉に対し、

 蝉原は、首をボキボキとならしながら、


「結界ねぇ……なるほど、本来、ここは、バリア的なのが張ってあって、普通のヤツは入れないって感じなのかな。なるほど、なるほど」


 そう言いつつ、『俺の盾』ができるポジションを陣取って、

 ゆったりとした視線で『龍美女』を観察する。


 龍美女は、ゴキブリを見る目で蝉原をにらみつけ、


「別時空からの侵略者(しんりゃくしゃ)は、たまに現れるが……これまでに見てきた『どの侵略者』よりも『邪悪』な気配……これほどまで『ドス黒く染まった魂魄(こんぱく)』も珍しい……ヘドが出る」


「うれしい評価だねぇ」


 満面の笑顔で、心の底から嬉しそうにそう言ってから、

 蝉原は続けて、


「ただ、『畏(おそ)れ』が足りない。値踏(ねぶ)みするようなその視線は、不愉快(ふゆかい)極(きわ)まりないね。もっと、おれにビビってもらわないと、おれのプライド的な問題で困る」


「ちょっ……蝉原さん?! 存在値800のドラゴン相手に、その挑発(ちょうはつ)的な態度は、あまり、よろしくないんじゃ……」


「センくん、大事なことなので、言っておくよ。おれが白旗(しろはた)をあげるのは、この世で君だけだ。君以外には、本来の蝉原勇吾として対応させてもらう」


「いや、あのな。お前のプライドが高いのは、よくわかったけど、ここは、まず話し合いで……」


 と、そこで、

 酒神が、


「お兄(にぃ)、そんなにビビる必要ありまちぇんよ」


 そう言いながら、


「存在値800が『超強い』のは事実でちゅけど、オイちゃんの敵ではありまちぇん」


「……ふぇ?」


「まあ、見ててくだちゃい」


 指をボキボキと鳴らしつつ、

 小気味いいステップで、

 龍美女の元へと近づいていく。


「ちょ、おい……っ」


 俺が止めようとすると、

 そこで、蝉原が、ニっと笑って、



「心配ないよ、センくん。酒神(さかがみ)は、おれの弟子の中でも最強の力をもっているから」



 蝉原が説明している間、

 酒神は、

 握(にぎ)りしめた拳を、

 思いっきり、龍美女にたたきつけた。


「がぁああああああああああっっ!!」


 酒神に殴られて、思いっきりぶっ飛ぶ龍美女。


 それを見た俺は、当然、ぽかんと口をあけて呆(ほう)けてしまう。


「え……ええぇ……っ」


「――酒神の存在値は1000。この世界におけるカンスト。この世界に、酒神より強い者は存在しない」


「……カンスト……えぇ……」


「ちなみに、おれも存在値1000でカンストしているよ。だから、あの程度の龍に負けることはない」


「……す、すげぇな、お前ら……ていうか、格差がエグいな……お前ら、俺の500倍強いのかよ……なに、この、しんどい状況。つらいんだけど」


「なげく必要はないだろう? おれも酒神も、君の所有物(しょゆうぶつ)だ。きみの力は、『存在値1000、二人分』と言っても過言ではない。いや、おれの弟子は、あと9人いるから、実際にはもっとすごいんだけどね。カンストしているのは酒神だけで、他の9人の存在値は700前後と、酒神と比べたら劣(おと)るけど、全員、そこらの魔王なんかよりもよっぽど強いはずだよ。――つまり、君の力は、実質『8000以上』ってわけさ。はは、すごいね。別格だ」

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