2話 ヤンキーに全力で土下座されるセンエース(ここから、永遠に『ざまぁ』展開)。


 2話 ヤンキーに全力で土下座されるセンエース(ここから、永遠に『ざまぁ』展開)。


 ――目が覚めた時、

 俺は『天井(てんじょう)のない玉座(ぎょくざ)の間』にいた。



「……えぇ……えっと……これは……」



 体をおこして周囲を見渡す。

 すると、


「センくん!! おきたのか!」


 背後にいた蝉原(せみはら)が、

 必死の顔で、近づいてきて、




「センくん! すまなかったぁあああああ!!」




 全力で土下座(どげざ)をはじめた。


「な、なんだ、急に……」


 こまっている俺に、

 蝉原は、いきおいよく、


「おれが悪かった! 心の底からあやまる!! だから、どうか、許してくれぇええええ! このとおりだぁあああああ!!」


 そう叫びながら、

 何度も何度も、おでこを地面にたたきつける。

 血が出ているが、かまわずに、何度も。


「……えっと、蝉原……まず、事情を教えてくれる?」


「ああ、もちろんだ! 君のいうことは、なんでも聞く! だから! お願いだから! 『死ね』と命令するのだけはやめてくれぇ! 頼むから、冗談でも口にしないでくれ! たのむからぁあああああ!」



 ★



 ――必死の蝉原から話を聞いたところ、

 だいたいの事情は飲み込めた。




「なるほど。ガチで、お前は、『俺の命令には逆らえない状態』になっているのか」




 ここに来る前、『謎の声』が言っていた。

 俺に『蝉原を自由にできる力』を与えるとか、なんとか。

 どうやら、あれが、本当だったらしい。


「君の『おれに対する命令権』が『絶対であること』は間違いない! 感覚でわかる! 君に言われたコトを、おれは絶対に実行しようとしてしまう! おれの意志とか関係なく、死ねと言われたら、間違いなく自殺してしまう! だからぁああ! どうかぁ!!」


 そう叫んで、また、おでこを地面にたたきつける。

 それを見た俺は、


「……鬱陶(うっとう)しいから、土下座するの、やめろ」


 そう命令すると、

 蝉原は、


「かしこまりました!」


 と、大きな声で返事をして、

 すぐさま、立ち上がる。


 直立不動(ちょくりつふどう)の蝉原を見て、

 俺は、


「……とりあえず、さっき、お前が言っていた『説明書』とやらを見せろ」


「こちらです、どうぞ!」


 蝉原は、うやうやしく『説明書』を差し出してくる。


 ……どうやら、『目覚めたときには、すでに持っていた』らしい。

 『俺たちに何が起きたのか』とか、色々と、重要な情報が書いてあるようだ。


「……えっと、なになに……『あなた達は170億年後の地球にタイムスリップしました。あなたがただけが選ばれた理由は特にありません。自由に生きてください』と……ほう……」


「自由なのは君だけ……だけどね。おれは君の奴隷だ」


「……ハイファンタジー化したこの未来世界において、言語(げんご)の心配をする必要はありません。『一定以上の知性を持つ者』は全員が『ほんやくコ〇ニャク』を食べていると思ってください。……ほう……ご都合主義(つごうしゅぎ)だねぇ……」


「だが、ありがたいよ。一から言語を勉強するのは、あまりに手間だ」


 説明書に書かれている項目(こうもく)は、かなり文量が多い。

 簡単にまとめると次のとおり。


 ・タイムスリップした際、俺と蝉原は『魔人(人間とほぼ変わらない)』と呼ばれる種族にクラスチェンジしている。

 ・純粋な人間はすでに絶滅(ぜつめつ)しており、『モンスターが進化して人間っぽくなった魔人』が、今の地球の支配者として、100以上の魔人国家を築(きず)いている。


「俺も蝉原も『魔人』になってんのか……でも、見た目、全然変化ないな。じゃっかん、肌の色が変わっている気がしないでもないが…………ってか、人間、絶滅(ぜつめつ)してんのかい……あまりにも突然な出来事すぎて、まったく実感がわかねぇ……」


「おれもそうだね……ほんと、とんでもないことになってしまったよ」


「……『魔人に進化したモンスター』の中でも、特別な資質を持って生まれたものは、さらに進化して『魔王種』にランクアップして、他の魔人をたばねて国をつくる……と……なるほどねぇ」


 それなりに読み込んでから、

 俺は、蝉原に視線を向けて、


「えっと、ようするに、現在の地球は、そこら中、モンスターだらけで、そのモンスターの頂点である『強力な力を持った魔王』が100体以上いるヤベェ星だ、と……エグいな……これ……ただの魔界じゃねぇか」


「そうだね。この未来世界に100体以上いると言われている『魔王』の『存在値(レベルを底値(そこね)とした総合値)』は『300~500』。かなりやばいね」


 魔人にクラスチェンジしても存在値は変わっていない。

 ちなみに、俺の存在値は『2』だと説明書には書いてあった。

 ……え、俺、死ぬほど弱くない?


「もし、魔王に出会ってしまったら、俺らみたいな一般人、鼻息で殺されるんじゃねぇか?」


「そうならないための救済措置(きゅうさいそち)が……『永遠人形』みたいだね」


「……永遠人形? それって、ゲームの?」


「ああ」


 蝉原は、一度うなずいてから、


「実は、説明書はもう一冊あるんだ。あ、一応、言っておくけど、これは隠していたわけじゃないよ。こっちは、あとで見せた方がいいと思っただけだからね。変に疑(うたが)って怒らないでくれよ」


 慎重(しんちょう)に慎重を重ねて口をひらく蝉原、


「……一つ、聞きたいんだけど、センくん、君は、永遠人形をプレイしたことがあるかい?」


「……いや、ない。二次創作を読んだことはあるし、ユ〇チューブでプレイ動画を見たことはあるけど、実際にプレイしたことは一度もない」


 永遠人形は、世界的に有名なRPG格闘ゲーム。

 課金でキャラを強化できる『札束(さつたば)で殴りあうタイプ』のゲーム。


 俺の返事を聞いて、蝉原は苦い顔をする。


「ま、マジでか……じゃあ、『フェイクオーラ(能力を隠せる魔法)』を使っているとかじゃなく、君は、本当に、ガチで、そのスペックってことか……そ、それは……ちょっと、困ったな……」


「なんで…………あ、もしかして、この世界って、永遠人形のセーブデータが、そのまま自分の力になるタイプのアレなのか?」


「……おっと、すさまじい推察力(すいさつりょく)だね」


「その手の『なろう系』は死ぬほど読んできたからな。俺、けっこうな読み手よ」


 などとしゃべっていたが、

 俺は、一転、顔を青くして、


「てか、え、マジか……これって、永遠人形をプレイしていないと終わる系の『なろう系』? 勘弁(かんべん)してくれよ……うそだろ……」


「ほんと、困ったね……正直、あれだけ有名なゲームだから、軽くさわったことぐらいはあると思っていたよ……いや、これは……どうしたものかな……」


「……さっきから思っていたんだが、なんで、お前が困るんだよ……」


「君が死んだら、おれも死ぬからだよ」


「……おっと、マジでか……それも、感覚で分かる感じ?」


「ああ。君の命とつながっているのを感じる。君は感じないかい?」


「いや……特に……」


「そうか。まあ、君がどう感じていようと関係ない。君が死ねば……間違いなく、おれも死ぬ。だから、正直、困っている。永遠人形のデータがない君はただの一般人だ……この魔王だらけの世界では……すぐに死んでしまう可能性が高い」


「そうだなぁ……どうすっかなぁ……」


「そこで、提案(ていあん)なんだが……おれの弟子を、きみの護衛(ごえい)につけさせてくれないか?」


「弟子……ああ、そういえば、永遠人形には、そういうシステムもあるんだっけ」


「おれの弟子は、全部で10人いるんだが、そいつらも、俺と同じで、君に絶対服従(ぜったいふくじゅう)だ。君のことを、全力で守ってくれるだろう」


 そう言いながら、蝉原は、




「――『酒神(さかがみ) 終理(しゅうり)』……召喚(しょうかん)」




 自分の弟子を呼び出す。

 蝉原の目の前に出現した魔方陣(まほうじん)から、

 絶世(ぜっせい)の美女が飛び出してきた。


 翠(みどり)が混じった金髪サイドテールのえげつない美女。

 だいぶ『ギャル』が入っているハデな見た目。

 露出度の高い、アメスクみたいな服装。

 とにもかくにも美貌(びぼう)がハンパない。

 世界中の『全ての美女』をかき集めても、こいつの右に出る者はいないだろう。


 地味な俺とは、まさに正反対って感じ……


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