第13話 それぞれの道へ

―エピソード 楓―


「内田さん!このゴミ箱片づけて置いて」

クラスのリーダー格に当たる、野安のやすめぐみが楓にゴミ箱を、押し付けた。…と言うより、投げつけて来たのだ。その力の強さたるや、小学生とわ思えぬほどだった。

「キャッ!!」

投げつけられたゴミ箱の重さは、小学校1年生の体には、大きすぎた。

もう、泣きっ面に蜂だ。

「あ…うん。でも…あ…の誰か…ついてきてもらえないかな?ゴミ箱3つは運べないから」

「何?具合が悪いとでも言うの?」

「え?」

「お姫様にでもなったつもり?そんな事あたしらは知らないよ!でしょ?奈々子ちゃん!」


そこに天使のような声が、楓の耳が拾った。


「楓ちゃん、私が一緒に行くよ。これが1番重そうだから、私が持つね」

「ちょっと!奈々子ちゃん!それは楓ちゃんの仕事なの!奈々子ちゃんがすることじゃないの!」

「どうして?だって友達じゃない。私、楓ちゃんの事好きだよ?」

「え――!?」

クラスみんながなんでか、大きな声で『楓ちゃんひとりで行けー!!』と言うブーイングが起こった。

「ご…ごめんなさい…一人で運びます…」

「最初からそう言いなよ。全く…」

「良いの!楓ちゃんはこんな命令きかなくて!」

「な!奈々子ちゃんはいい子ぶってるだけじゃん!」

「なんで?一緒にゴミ捨てに行くことがいい子ぶってるって言えるの?本当なら、

ゴミ箱3個もあるんだから、もう一人手伝うべきだよ」

「…もういいよ。奈々子ちゃん…これ以上私をかばったら、奈々子ちゃんまでいじめられちゃう…私が一人で片づける」


「嫌!私も行く!」

そう言うと、2人でゴミ収集場へ向かった。


「あ…ありがと…奈々子ちゃん…ごめんね…」

「なんで謝るの?楓ちゃんは自由でいて良いんだよ?あんな子達に負けないで、一緒にご飯食べたり、遊んだりしよう?いじめられたら、私が守るから!」

「う…うぅ…」

その場にしゃがんで、楓は泣き出してしまった。

それを、奈々子はギュっと抱き締めた。

そもそも、何故、楓がいじめられたのか―…。

奈々子の腕の中で、ポロポロ涙を流す楓。

いじめられた理由。それは、メイクだった。


楓は、メイクが大好きで、母親の化粧品でいつも可愛く登校してきた。最初は、すごいと、可愛いなぁと、クラスメイトも思った…。

しかし、自分たちもしたいと思っても、親に止められ、メイクが出来なかったために、いつも先生にも言われたのに、何くそ、とまで楓は強くなかったが、可愛くメイクしてくるのは、やめなかった。

それが、クラスの女子の癇に障った


そこから、亀裂が生じてしまった。


それから、もう一つ。楓の真っ黒なスーッと伸びた長い髪の毛に小学生

の、ドラマやテレビで見るような、可愛かったり、お洒落だったり、みんなが出来ないような髪型で登校していた。


「楓ちゃん、なんでそんなに難しそうな髪型出来るの?」

奈々子は、楓に尋ねた。

「一生懸命番強してるから…」

「そうなんだ!すごいね、楓ちゃんは!」

その会話を聴いて、いじめっ子たちは、とんでもない行動を起こす。


髪型は、メイクと違って、難しいのか、毎日やって来るわけではなかった。

そして、その日は来た。


「あ、楓ちゃん、おはよう!!」


3日ぶりに、楓は、真っ新な黒髪ロングで、サラサラが聴こえるよな奇麗な髪で登校してきた。


「あ…あ、ほ、おはよう…」

相手のあからさまな明るさで、初めて朝の挨拶が出来た楓は、嬉しくて嬉しくて、頬を赤らめた。

「あ…ありがとう…。明日は、縛って来よかな?」

恥ずかしくもありながら、やっと、仲間に入れてもらう事が出来たのか…と希望を想像していた、次の瞬間、それは、絶望に及んだ。

「でも、本当に楓ちゃんすごいよ!いつも髪型可愛くしてるから、久々のさらさらな髪の毛はなんか違うねー!」

そう言うと、「くくく」「ハハハ」「コソコソ」とクラスの女子全員が一つに束られているように、楓の方へ近づいてきた。


(これ…やばい…これ…本当に、やばい!!)

そう直感した楓は、廊下へ飛び出した。

けれど―…

「ばあか。んなこと思うはずないでしょ?調子に乗ってるからだからね!」

そう言うと、背中から、乱暴にハサミを取り出し、楓の髪の毛を掴んだ。

楓には、その後の光景がまざまざと見て取れた。

「嫌ぁ!!やめて!!本当にやめて!!何でもする!何でもするからぁぁぁ!!」

その願いも叶わず、楓の髪の毛は、横髪を20センチほど切られてしまった。


「あぁ…あ…ぁ…ああ…」

震える楓。何より大切な髪の毛を、切られてしまった…。

バッサリと切られた髪の毛が、膝や床に散乱しいる。楓は、ガタガタと震え、くちびるを噛み締め、涙を流し、脱力し、廊下の壁に寄りかかって、ポロッと囁いた。

「…なんで…?どうしてなの?私…、そんなにみんなからいじめらるようなことしたの?」

楓は涙ながらに訴えた。自分は何がいけなくて、何がダメで、何がみんなの反感を買ったのか…。

その時、奈々子が登校してきた。そして、


「な、奈々子ちゃん…。うぅ…お願い…助けて…助けて…助けて!」

「楓ちゃん?」

突然楓に、足に抱き着かれた。

楓の髪の毛は、すぐ目視で来た。それはスカートから床に、相当の範囲で切られた事を物語っていた。


「楓ちゃん、ごめんね、楓ちゃん…奈々子、来るの遅かったね…奈々子がもっと早く来てたら、楓ちゃんの事…楓ちゃんの髪の毛、守ったのに…ごめんね。でも、大丈夫だよ!私がお揃いになるから。待って!」

そう言うと、慌てて教室に入り、机の中から、はさみを持って、また、廊下に戻ってくると、奈々子は

「大丈夫」

言うと同時に、自分の髪の毛もバッサリ、切ってしまった。

『大丈夫だよ!私がお揃いになるから!!』

その、言葉通りに。

「奈々子…ちゃん…」

「明日、美容院行こう!楓ちゃんなら、良い美容院知ってるでしょ?私は、ママの言った所でしか行った事ないから明日、楓ちゃんをいつも可愛くしてくれる、楓ちゃんの知ってる所へ切りに行こう!」

その光景を見たクラスの女子は、それ以上、楓を傷つける事が出来なかった。

それくらい、奈々子のとった行動が、目に焼き付いた。焼き付いてしまった。この奈々子の言動に、楓に自分たちのしてきたことが、正しいとは、どうしても言えなかった。

その次の日、奈々子が楓と教室に入って来た。2人は可愛いショートカットになって、満足げに笑っていた。

「楓ちゃん、お揃いだね!」

「…うん…ありがとう…奈々子ちゃん」


そんな過去と、楓はずーっと闘って、夜は、怖い夢をたくさん見た。それでも、奈々子のおかげで、クラスでいじめられることはなくなった。

奈々子は他の子とも話していたし、笑ってもいた。

流石に、いじめられっ子だった記憶とクスメイトの視線は、奈々子がいないと、怖くて、体中を縛り付けた。


それを、奈々子はいち早く気が付き、すぐ名前を呼んでくれる。

「楓ちゃん、一緒にお昼食べよう?」

そう言うと、

「奈々子ちゃん、一緒に食べようよ」

と、クラスの女子が誘ってきた。だったら…、ダメか…と思ったが、

「良いよ。でも、もちろん楓ちゃんも良いよね?」

「う…ん。良いよみんなで食べよう」


何だか、少し嫌だなオーラが感じられたが、奈々子は人気者で、そのオーラを消してしまう。

初めて、奈々子以外のクラスメイトとお昼を食べる…夢にまで見た光景が今、この教室で起こっている。

全て、奈々子のおかげで。




奈々子の残してくれたものは全部心に大切に包んである。傷ついたりしないように、また心配かけて、奈々子が天国でも『世話の焼ける子だなぁ。大丈夫だから、安心して』と背中を押して欲しい時に、ちゃんと押してくれる奈々子の存在。


「そう…だったな…あたし、ずっと奈々子に支えられてきたんだよなぁ…。奈々子が居なければ、こうしてNYに行くこともなかったな。あたし、NYに行ったら、自分の力だけで頑張って見せる!」





「楓ー!」

「ん?」

メイクの専門学校に進んだ楓は、たった1か月で、1年生のほぼ全員の信頼を得ていた。

「ねぇ、このチークを使うとしたら、アイメイクはどんな感じにすれば良いのかな?」

「んー…あたしならノーズラインにブルーのカラー乗せて、チークとバランスとるかな?」

「ノーズライン?アイメイクじゃなくて?」

「アイメイクは、スパンコールだけ」

「そっか!なんか良いかも!!ありがと、楓!」


楓にアドバイスをもらいに来た、柳瀬薫やなせかおるが課題の提出期限が明日だと言うのに、まだ出来ていないようで、焦りながら、やってきて、アドバイスを聴くと、机をかじりついて、デッサンを描き始めた。


「あぁ…めっちゃいい!!…でも、これ、出すのやめる。これはあたしじゃない。あたしはこんな自由なデッサンは描けないもん。先生に絶対バレる」

「うん。よく気が付いたね」

自分の作品ではない事に、明日が締め切りだと言うのに、焦る様子もなく、純粋に、薫は楓のアドバイスで出来上がった作品を使うのをやめた。


楓のメイクの腕は、小学生・中学生・高校生の時から、そして、もうメイクをしていた腕だ。幼いから自由に、先生に怒られても、楓はメイクをして、12年間、ずっとメイクをして、通いきった。

その中で、色々な雑誌や、お小遣いは、ほとんどメイク用品に使っていた。


時におとなしく、時に大胆に、楓のメイク技術は、学校1だった。


その際立つ手が、最高の作品を作るのは、授業で行われる、クラスメイトと、メイクをしあい、その腕前を披露する時間だった。


「先生!内田さんとペアを組みたいです!」


と言う教室中全員と言って良いだろう。声が響き渡った。

楓は引っ張りだこだった。


「じゃ、じゃんけんだね」

先生と生徒がじゃんけんをして、1番最後に残った人を、楓のパートナーとなる事が決定した。




もう、奈々子はいない。けれど、もしも、奈々子の手紙がなかったら、こうして、堂々とみんなの憧れになれる未来はなかった。

小学校の時、何べんも、何べんも『大丈夫だよ』って毎日言ってくれた、それだけで、もしも、あの時、その時、色んな時、奈々子が居なければ、こんな未来を想像できずにいたような、気がしていた。


そして、じゃんけんが終わり、楓のパートナーは、真藤学しんどうまなぶ数少ない男子の1人だ。


「よろしく、内田さん」

「うん、よろしく、真藤君」

「じゃあ、最初は、俺からやらせてもらうね」

「はい」


(内田さんのセンスに俺の顔をメイクしてもらって、それに届くわけないけど、でも、アドバイスはもらえる。それだけで、いい経験だ!!)


楓は沈黙で、学の顔に丁寧にメイクを施していく。

「目、つむって」

「はい」

楓のアレンジは、いつもいつも新鮮で、新しい。

学校から帰ってきても、自分の顔を試作品として、毎日良かったアレンジをスケッチブックを取り出し、色を忘れないように、描いていた。


出来上がった楓のメイクは、教室がざわめくものだった。

首には剣山に見立て、白く山をギザギザに描き、目は、非対称の花を色とりどりの花をもうこれでもか!と鮮やかに何色使ったか解らないほどに彩った。そして、鼻の下から、上に向かって、木に見立てた1本の緑の線が描かれ、そこから先ほどの目が花だったのを唯奇麗じゃない。幹を作るだけで、生き生きしたメイクに変わる。そして、シェ―ディングをわざと茶やグレーではなく、ピンクににすることで、もうこれ以上ないほど、花の天国を作り上げた。


そして、最初にその作品を先生が見て回る。そして、楓の作品の前に立つと、立ち止まってずっと見ていた。


「素晴らしいですね。あなたはもう立派なメイクアップアーティストになれる自信を持ってください」

「!はい!!ありがとうござます!!」


その会話で、

「先生!内田さんの作品、私たちも見たいです。真藤君を教壇に上げてもらえませんか?」

と生徒から、楓の作品を見たいと求める生徒が続出した。


「良いでしょう。真藤君、教壇へどうぞ」


真藤が教壇に上がると、歓声が起こった。


「何これ!本当に私たちと同い年?すごい…」

「うわー…すっごく奇麗…なのに力強い…」

では、真藤君、席について、あなたの顔に施された作品を鏡で見てください」


「あ、はい!」

みんなの反応が恐ろしく良かったので、思わず、よろめきながら、席に着いた。そして、鏡を見ると、

「!!!!????」

驚きで、言葉も出なかった。

(天才だ…しばらく顔を洗いたくない…)

それほど、楓のメイク技術は素覚ましいものがあった。

「どう?」

「すごい…」


「ありがと。真藤君、次、真藤君の番だよ?」

「あ、うん…。でも…」

「あたしと張り合おうなんて、10年早いよ?今のままの真藤君の技術でやれば良いんじゃない?」

「あぁ、うん、そうだね」


そう、楓に本当のことを言われ、怒る…はずはない。

本当に、楓のメイクは際立って、今、プロになってもおかしくない。

それ程のセンスと技術だった。


そして、真藤が恐る恐る楓にメイクをし始めると、震えているのが楓はには解った。そこに、先生が来た。

「真藤君、もう少し、堂々としてください。内田さんが感性も、腕も、このクラス…いいえ、この学校中で1番だと言う事実は変えられません。ですが、その内田さんとペアを組みたいと手を挙げたのは、貴方ですよ?」

「は…はい!」


それでも肩の硬さが取れない真藤。


そのまま、タイムオーバー。


そのメイクを、鏡で見ようとした瞬間、

「ご、ごめん」

「ん?何が?」

「俺…全然だめだ…」

「…」

鏡を見た楓は、

「そうかな?」

「え?」

「これ、いい意味で普通だよね。待ちゆく女の子がしたいのは、こういうメイクだよ。私は、海外で活躍することをもう夢じゃなくて、目標にしてるの。だから、普通のメイクではやっていけない。でも、国内の美容部員さんたちは、こういうメイクをしてくれる人が必要なんじゃないかな?それは、今の真藤君の未来だったりするのかも知れないよ?」


自分より確かな腕があり、そして海外で活躍すると言う未来を描くことが出来、もう夢ではなく、目標とする、そんな楓に、学は、今まで楓ばかりを見ていたから、楓のようにならなきゃいけない、そう信じ、楓をお手本に、追いかけて来た学だったが、その楓から言われた言葉、そこで、何か未来が少し開けたような感覚を覚えた。


「ありがとう…」

そう、楓に伝えた。




そんなある日、楓は、大きな、とても大きな決意をした。




1年の終わりに、担任に、その決意を伝える事にした。



「先生、私、退学します」

「え!?」

その楓の言葉を、職員室にいた教員全員に告げた。

「ど…どうしてですか?」

「私は、今後、海外で活躍するのが目標です。若ければ若いほど、未来って無限に広がるって思うんです。だから、退学して、単身、NYのメイク学校に入学します。もう合格は決まっています。なので、退学を認めてください。お願いします」


そう言って、楓は、頭を深々とさげた。


先生たちには、心にやましいことが一つあった。


“こんな素晴らしい生徒を輩出できるなら、この学校の知名度、入学希望者の増加、それを大きく期待できる”


と。


「もう考えは変わらないの?私たち教師がどんなにあなたを必要としていても?」

「…はい。すみません。もう意志が変わる事はありません」

「そう…ですか…。解りました。退学届けを受理します」

「先生方、本当に1年間、ありがとうございました。このご恩を、NYで活躍をすることで、返して見せます。本当に、本当に、ありがとうございました!」



と宣言して、楓が廊下に出た途端、

「内田さん…本当に辞めちゃうの?」

「なんで?学校卒業してからでいいじゃん」

「内田さんみたいに、周りの空気一気に変えちゃうくらいのメイク…見られなくなっちゃうよ…」

「もっとテクあげるための俺たちの、先生よりもっとすげー指導者でいてくれよ!」


廊下には、一年生が…いや、ほぼ全生徒が楓の退学を止めようと、必死な想いで集まっていた。


「みんな…。…ありがとうございます。私は、それでも、行かなければなりません。絶対、すごいメイクアップアーティストになって、NYで1番になれるように、頑張ってきます!いつか、また、皆さんに会えます様に!」



パチパチ…

泣き声と一緒に、盛大な拍手が起こった。

「…頑張ってね!」

「内田さんなら、きっと1番になれるよ!」

同学年だけではなく、先輩にも、温かい、〔涙〕をも、もらった。


楓は、そのシーンが信じられなかった。

小学校でいじめられて、奈々子としか一緒に居られなくなった。

奈々子を失くして、何かが破裂したみたいに号泣していた。

小学校では、それからも、いじめは続いたけれど、そこには壁となってくれる奈々子がいた。その奈々子が居なくても、もう、私は、堂々と生きて良い、そう実感した。




どんなときだって、味方でいてくれた奈々子を失った時は、自殺も考えた。けれど、あの手紙が、その一歩を止めてくれた。

このまま死んだら、きっと奈々子は天国で口もきいてくれないだろうな…、と嘆き悲しんだ末、楓は生きる事を選んだ。

メイクアップアーティストになる、その夢も絶対成し遂げてみせると、楓は、気が付くと、空を仰いでいた。


美麗の事だって頭に、心の中にずーっとあった。

13歳で亡くなる事が、どんなに怖かっただろう?苦しんだだろう。悲しかっただろう。


同い年なのに、“楓ちゃん”とちゃん付けで呼んだり、甘えん坊で、昔から楓の傍を離れなかった、美麗。

その美麗が逝ったとき、もっと聴いてあげればよかった。美麗がどんな想いで、奈々子を拒んだのか…。どんな想いで、奈々子に押し花をプレゼントしたのか…。


それをもらった時の、奈々子は、どんな想いだっただろう?


ずーっと避けられ続け、それでも、1500円の花束を毎日贈り、ドアの向こうで美麗に語り掛け続けた。自分だって、美麗と同じくらいの病気に侵されていたのに。


そんな2人が、時たま夢に出てくる。



====================================




【楓ちゃん、私の病室に、夜中、毎晩来てくれてありがとう。一緒に押し花のお手伝いしてくれてありがとう。私も知ってるんだよ?楓ちゃんが奈々子ちゃんの事すごく大切に思ってる事。私だって負けないくらい、奈々子ちゃんが大切だった。

でも、あの時は拒むことしか出来なかった。弱虫で、嫉妬深くて、すぐ泣いて…。准をも信じきれない私がいた。でも、なんでだろう?死の影が見えた時、あぁ…奈々子ちゃんに、准を救ってほしいな。私の、呪縛から…溶け放してあげてって思うようになったんだ。


ねぇ、楓ちゃん、奈々子ちゃんは…強くて、優しくて…本当に素敵な人だったんだね。


准がどんなに奈々子ちゃんの話をしても、ヤキモチにしかならなかった。奈々子ちゃんには、酷い事をしたな…て今でも思ってる。で奈々子ちゃんの居場所は作って置く。ここは、温かくて、優しい場所だよ。安心して、楓ちゃんも、夢、果たしてね。        

                           美麗からでした。】


バッ!と、楓は夢から覚めた。目に涙を浮かべていた楓だったが、すぐ、ティッシュペーパーで、ずずー------!!!!と鼻水を拭いた。


「元気でいるのか…美麗は…」

只の夢だったけれど、絶対、美麗からのメッセージだ。“夢を果たして”と言う言葉に、また背中を押された。





明日は、とうとうNYへ出発する。


楓は、英語は出来た。なぜなら、ハーフ、だったからだ。

発音もネイチャーだったし、全く困る事はなかった。それでも、独り身で、何のつながりもないニューヨークで、本当に私の技術とセンスで1番を目指せるのか、正直、緊張して眠れないくらいだった。



そして、やっとうつらうつら眠れそうになった時…いや、すでに寝ていたのか…昨日に続き、夢を見た。



【楓?元気そうでよかった。専門学校の退学はすごい挑戦だね。でも、いじめられてた頃から、楓はメイクしてたもんね。自分のママの化粧品使って、何度も怒られてたよね?でも、いつも可愛かった。ずっと憧れだったんだよ?楓は気付いてなかったみたいだけど…。楓は奈々子にばかり頼ってごめん、みたいなこと、たまに言ってたけど、それはこっちの方。心臓病の事を、知らせたとき、楓は、泣いてくれた。


死なないで…って言ってくれた。


私だって死にたくなかったよ。

もっと、もっと未来があったなら、私も将来何になるのか、なれるのか、いっぱい想像しちゃうな。


私の分まで、頑張って!!


                                奈々子】



美麗の時は、起き上がったが、奈々子の夢は、布団にうずくまって涙を流すしかなかった。


(奈々子、お願い。私を見守ってて…きっと挫けそうになると思うんだ…。あんなに先生にも校内の人たちも期待をされて、それでできませんでした…なんて言えないもんね。だから、頑張るよ。奈々子。絶対、1番になってみせるよ!)



そして、翌日。

ある人物が空港に、激励の言葉をかけようと、走ってきた。


「…!准!!」


「楓!!」


2人は無言で抱き締め合った。


「楓、頑張って来いよ?絶対お前なら出来る!奈々子も美麗も、信じてる!」


「…」


「安心しろ!お前は、強いんだからな!頑張れよ!!」


その瞬間、美麗と、奈々子と、准が、乗り移ったように、恐怖が消え、足の震えもなくなり、唯、残ったのは、みんなから託された勇気だった。


「…うん…絶対立派になって帰って来い!!くじけそうになったら、想い出せ。奈々子の強さを!美麗も、奈々子も、俺もついてるからな!」

「ふ…准のくせに格好つけちゃって…」

「お前だって柄にもなく泣かないで強気じゃん!」


楓は、自分が退学すると知った時の事を、時間がないので早口で准に伝えた。伝えたかった。


「先生も、学校中のみんなにも、宣言してきたから!NYで1番のメイクアップアーティストになるって!」

「おう!!行ってこい!!」

荷物を持つと、楓は振り向くことなく飛行機に飛び乗った。


高く、高く、飛ぶために―…。

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