義感

lampsprout

義感

「で、以前から第六感は研究対象にされていたわけだけど」

「……何だよ急に」

「私の次の仕事なのよ。興味ないけど」

「じゃあ何で研究対象なんだ」

「私が所属しているチームの議題なの。不本意だけど」

「世知辛いなあ」

「ともかく第六感とは、基本の五感以外、理屈では説明のつかない超常的な感覚だと定義されるのだけどね」

「またネットの受け売りかい」

「失礼な。ちゃんとした資料よ」

「でも君の専門外なんだろ」

「うるさいわね、叩くわよ」

「……暴力反対」

「こうすると、私たちは普通に所謂超能力を使えるわけじゃない?」

「……いきなり手を振り回すのやめろよ。それにクッションも飛んできたし」

「……話の腰を折るのやめてくれない?」

「……はい」

「で、こうやって科学的に分析して使えるようになってしまったものを、未だに第六感と言っているのはおかしいんじゃないかと思うのよ」

「でも五感以外のものって意味じゃあ別にいいんじゃないのか」

「まだ解明されていない第六感と混ざって面倒くさい。第一、理屈を超えた感覚のことでしょう、第六感とは」

「だって仕方ないだろ、いちいち用語なんて分けていられないし。というか物を飛ばす超能力は第六感じゃあない」

「研究上ひとまとめにされちゃってるのよ、間違ってるのに」

「……上は何をやってるんだ」

「もう、話が進まないじゃないの、さっきから『でも』とか『だって』ばっかり言って」

「君に反論するのなんか僕くらいだろ」

「当然でしょ、貴方は私なんかより遥かに賢いんだから」

「……そういえば君、何年も前から僕の名前を呼ばないよな」

「貴方こそ『君』としか言わないわね」

「まあお互い様なんだけど」

「大体、戸籍上は名前じゃなくて識別番号でしょう」

「確かに、名前なんか未成年の間しか登録されていない」

「……話が逸れたじゃない、全く」

「悪かった、戻して」

「物体に力を及ぼすものや霊感などは、既に絡繰が明らかにされて、後天的に会得するシステムが出来上がっているでしょう」

「そうだな」

「だけど直感は仕組みの見当が全然ついていない」

「そもそも狭義の第六感とは直感のことじゃないか。……いや霊感も含むのか」

「ああしたい、こうしたい、といった好悪だって直感の1種でしょ? 予知や虫の知らせだけには限られない」

「なら他にも色々例はありそうだ」

「余計な方向に話を広げなくていいの」

「分かった分かった」

「私は第六感というものが体感できないし、難題なのよ」

「へえ、僕はあるんだけど」

「……そうなの? 研究資料として聞くから詳しくどうぞ」

「余計な方向に話を広げるなって言ったろ」

「……狭量ね、まあいいわ」

「目が怖いな……」

「貴方のことじゃなくてもいいわ、何か例を挙げて」

「毎日同じ誰かや何かのことを最低一度思い出すとか」

「理屈外ではあるけど、それは別の話でしょう。どこが直感なのよ」

「……ばれた?」

「ああもう、埒が明かないわね」

「話を飛ばしているのは君だと思うな」

「うるさい、続きはまた今度よ」

「あれ、もう行くの?」

「ええ、他に約束があるから。私なんかでも貴方よりは忙しいの」

「そうか、いってらっしゃい。気をつけて」

「いってきます。……貴方もね」

「……またね」

「……ええ、また」



「……身体を補うのが、義手や義眼。それなら……」

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