や、やっぱり俺のことがそんなに嫌なのかっ!?
彼女の方から深々と頭を下げて謝られてしまった。
「へ?」
「あのっ、勘違いをされているように思いますが、わたくしが生理的に無理なのは、あなたではありませんっ!」
「は、い? ・・・え? なに? どういうこと?」
そして彼女は泣きそうな顔で、意を決したように口を開いた。
「実はわたくし、金属アレルギーなのです」
「は?」
意味がわからなくてぽかんとする俺に、更に言い募る彼女。
「ですから、わたくしは金属アレルギーなのです。金属に長時間触れていると、皮膚が爛れてしまうのです。ですからっ・・・あなたから頂いたアクセサリーの数々は身に着けられないのっ!!」
悔しそうに、涙を浮かべて彼女は喚くように言った。
皮膚が爛れるのは、男でもつらい。ましてやそれが、おしゃれを楽しみたい年頃の女性……それも、楽しみたい筈のアクセサリーが原因でそうなってしまうのなら、どれ程苦しんだことだろう。
しかも、俺はそんな彼女の苦しみを全く知らず、原因となる物を、贈り続けていた。
挙げ句、どうにか苦心して身に着けてくれていたアクセサリーの着け方にまで苦言を呈する始末。
こんな俺じゃあ、彼女に嫌われて当然で・・・
「わたくし達の婚約はうちと、あなたの領の産業を盛り立てて行く為の婚約っ! だから、あなたはわたくしに自分でデザインしたアクセサリーを贈ってくれたのでしょう? わたくしを広告塔にする為に。でもっ、わたくしはあなたのくれたアクセサリーをっ、身に着けることができないのっ!? そんなわたくしは、この婚約にっ……あなたの隣には相応しくないのっ!!」
真っ赤な顔で言い切った彼女は、
「・・・わたくしの代わりに選んだ子達は、みんないい子なのでお返事はなるべく早めにお願いします。では、失礼致します」
大きく息を吐いて、深々と頭を下げて出て行ってしまった。
俺が、彼女の涙に呆然としている間に・・・
って、呆然としている場合じゃないだろっ!!
彼女の閉めて行ったドアを開け、すたすたと歩いて行く彼女を走って追い掛ける。
「待ってくれっ!!」
そして、なにも着けられていない手を掴む。
「きゃっ」
いきなり手を掴んだことに驚いたのか、可愛らしい声を上げる彼女。
「いきなりごめん、でも待ってくれ! 俺は、君がいいと思って君と婚約したんだ。君以外との婚約は、考えられない。広告塔とか、そんなことは本当はどうでもいいんだ。俺はっ、君のことが好きだからっ」
「え?」
俺を映し、ぱちぱちと瞬く瞳。その目が大きく見開かれ、そして頬がサッと朱に染まる。
か、可愛いっ・・・
「わ、わたくしの話を聞いてなかったのですか? わたくしは、金属アレルギーで、あなたの作るアクセサリーは身に着けられません。広告塔にはなれないんです。わかっていますか?」
「そんなことはどうでもいい。俺と婚約を解消した後、君はどうするつもりなんだ?」
「それは・・・あなたには関係ありません。わたくし達の婚約はもう、解消されているのですから」
「関係ならあるっ!! さっきから言っているだろ、俺は君のことが好きで、君と結婚するつもりなんだから! まだ、俺は婚約解消を了承していない。だからっ、お願いだから一人で勝手に決めないでくれ!」
「え?」
「俺は、君がいいんだ。俺は、ずっとっ……君のことが好きだった!」
「……家のことは、どうされるおつもりですか? わたくし達の婚約は政略だと」
「俺達がそのまま結婚すればいい。俺は元々、細工物のデザインの方が得意で、社交はそんなに得意じゃない。だから、広告塔には弟とその婚約者になってもらえばいい。俺は領地経営と、君の家との提携に専念する。ああ、もし君が社交を頑張りたいと思っているのなら、社交も頑張るから。だから・・・」
と、彼女の手を取って跪き、
「俺と結婚してください」
真っ赤になった彼女の顔を見上げて懇願する。
本当なら、ここで俺のデザインした婚約指輪を差し出す筈だった。けど・・・
彼女は金属アレルギーで、金属でできた指輪なんて身に着けられる筈はない。
「……ゎ、わたくしはっ、結婚の証の指輪を身に付けられなくて……ふ、不貞をするような女だと思われてしまうんですよっ!?」
結婚指輪は、既婚の貴族女性が身に付けるのが当然の風習。既婚なのに指輪を外しているという意味は、『結婚相手に愛が無い』、もしくは『不貞をします』という風に捉えられてしまうことさえある。
「それでも俺は、君がいい。指輪なんか付けてくれなくてもいい! 風習なんかクソ食らえだ! でも、君が気にするって言うなら、金属じゃない指輪を作る!」
俺がそう言った瞬間、
「ぅうっ……」
彼女の目にみるみるうちに涙が流れて行く。
「なっ、ど、どうしたっ!? や、やっぱり俺のことがそんなに嫌なのかっ!?」
思わず狼狽え、彼女の手を放そうとしたら、
「え?」
ぎゅっと逆に彼女に手を握られた。
「ふふっ……さっきから、違うって言ってるじゃないですか。もう……」
泣き笑いの顔で俺を見下ろした彼女は、
「そこまで仰るなら、喜んで」
赤い顔で微笑んだ。か、可愛いっ・・・
と、こうして俺たちの婚約が正式に決まった。
廊下の真ん中で熱烈なプロポーズをしてしまい、振られ掛けても諦めずに押して彼女に頷かせたことを、使用人と、駆け付けて来ていた母親に見られていて、盛大にからかわれながら祝われて、めちゃくちゃ恥ずかしい思いをしてしまったけど、頬を染めた彼女が可愛かったからよしとしようじゃないか!
死ぬほど恥ずかしかったけどなっ!?
✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧
それから、俺と彼女は両家を繋ぐ為に結婚した。
広告塔になるのは弟とその婚約者にまかせて、俺と彼女は裏方として動いている。
金属アレルギーの彼女が身に着けられるアクセサリーは少なくて、時折羨ましそうな顔でアクセサリーを見詰める彼女の為に、金属が肌に当たらないように工夫したり、金属自体を使用しないで木枠に宝石を填めたものや、天然石を切り出して削り、腕輪や指輪に加工したアクセサリー作って彼女に渡したら、感動されてしまった。
「わたくしの為に、一生懸命考えてくださってありがとうございます」
やっぱり、彼女は可愛い!
「もし娘が生まれても・・・わたくしと同じように金属にアレルギーがあっても、わたくしのような悲しい思いをしなくて済みますわ」
と、彼女はそっとお腹を撫でて優しく微笑んだ。
「ありがとうっ!!」
彼女の手を取って、感謝の言葉を告げる。
本当は抱き締めたいけど、それは我慢する。妊娠中の女性はデリケートだから。
――――ああ、あのときに彼女に嫌われたと諦めなくてよかったっ!!
みっともなく足掻いて、カッコ悪いところも情けないところも見られて恥ずかしい思いもしたけど、それでも、彼女と結婚できた俺は最高に幸せだ。
__________
読まなくても大丈夫ではありますが、金属アレルギー持ちや、その疑いがある方、身内に金属アレルギー持ちがいる方は、あとがきを読むとちょっとお得? な情報があるかもです。
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