俺は今、ハートブレイク……というか、絶賛ハートクラッシュ中だっ!!


 なにかの間違いだと思いながら、どうか夢であってくれ! と強く願いながら数日が経った。


 そして――――


 彼女の家から、正式に婚約者の交代を申し入れられたと両親に告げられた。


「・・・」


 彼女の言った、「生理的に無理なんです」という言葉はやっぱり夢ではなかったらしい。


 絶望しかない。


「・・・俺は、臭いのだろうか?」

「は?」

「臭いのは口かっ!? それとも腋かっ!? 足なのかっ!? それとも香水のチョイスが悪いのかっ!? 息ができない程キツく香水を匂わせていたりするのかっ!?」


 気付けば俺は、近くにいた侍女に詰め寄ってそう訊いていた。


「い、いえ、そんなことはありません」


 侍女は驚いた顔で否定する。


「じゃあなんなんだっ!? あれか、俺の話し方が威圧的だったりするのかっ!? それともこの顔が悪いのかっ!? 食べ方が汚いのかっ!?」

「い、いえ、わたしにはわかりかねますっ!」

 

 と、侍女は怯えた顔で逃げて行った。


「・・・俺の、なにがいけなかったんだ・・・」


 実はあれか? 今侍女が逃げて行ったように、彼女も俺のことを怖がっていたのだろか? 政略だからと、家の為にと、ずっと俺に我慢していたのか?


 でも、とうとう結婚するとなってやっぱり無理だと、断るならあのタイミングだと思って、『生理的に無理』なのだと打ち明けたのだろうか?


 俺の、なにが生理的に駄目だったのかはわからないまま、時間だけが過ぎて行き――――


 父から、彼女の家から新しい婚約者候補にと釣書が送られて来たとのこと。


 俺は、絶対に嫌だと、ごねにごねた。


 だって、数年間一緒に過ごして、いい感じだと思っていた相手に、「生理的に無理なんです」と涙目で言われて振られた男だ。


 そんな男が、嬉々として新しい婚約者を探せると思うか? そんなの、俺には無理だ。


 せめて、俺の一体なにが『生理的に無理』なのかを知りたい。そうじゃないと、涙目だった彼女みたいに、他の女性も傷付けてしまうことになる。そんなのは怖い。


 俺は今、ハートブレイク……というか、絶賛ハートクラッシュ中だっ!! 粉々なんだよっ……だから、もう少しそっとしておいてほしい。


 それに、あんなことを言われたというのに――――


 俺はまだ……彼女のことが好き、なんだ。


 結婚するなら、彼女がいい。と、そう思って――――


 って、もしかしてこういうところなのかっ!? 俺が彼女に生理的に無理って言われたのはっ!? 俺は気持ち悪い男なのか~~~~っ!!


 と、俺は更にへこんだ。


 ・・・ツラいっ!!!!!!


 こんな気持ちのまま、新しい婚約のことなんか考えられない。


 送られて来た釣書きは見たくないと言ってうだうだと過ごしていた。


 うじうじと、うじうじと過ごして――――


 彼女の家の方から、また連絡があった。


 俺からの返事が遅いのは、新しく選出した婚約者候補が気に入らないからだろうか? というようなことを遠回しで伺うような、催促の手紙。


 それを読んで・・・俺のことを気に入らないのはそっちの方だろっ!! と、思った。


 だから、彼女に会わせてほしいと返事を返した。『一体、俺のなにがいけなかったのかを、どうか直接会って教えてほしい。長年不快な思いをさせてしまっていたのなら、謝りたい。もし、顔も見たくない程に俺のことが嫌いなのだとしたら、この手紙は無視して構わない』と。


 すると、彼女から俺と会ってもいいという返事が返って来た。


 彼女とまた会えることに嬉しく思い、けれど彼女には『生理的に無理なんです』と言われてしまうくらいに嫌われていることを思い出して滅茶苦茶ツラくなる。


 毎日身体を清潔にして(使用人達にはやり過ぎだとドン引きされた)、話し方や自分の癖が他人を不快にさせていないか? と、考えて不安な日々を過ごし――――


 とうとう、彼女と話す日がやって来た。


 当日は、色々と考え過ぎて、不安過ぎて泣きたくなったり、気持ち悪くなって吐きそうになったが、全部我慢した。


 そして、彼女が部屋に入って来た。


 ほっそりとした身体にシンプルなドレス。薄く化粧はしているみたいだが・・・やっぱり、俺の贈ったアクセサリーの類は一切身に着けていなかった。


 寂しさと喪失感に襲われるも、まずは謝ろうと思った。すると、


「申し訳ありませんでしたっ!!」


 彼女の方から深々と頭を下げて謝られてしまった。

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