集合知を駆使した第六感は、ラブコメの成立を未然に防げるか
日諸 畔(ひもろ ほとり)
フラグ回避の集合知
第六感。
一般的には、理屈で説明できないような感覚を指す言葉だ。根拠のない直感と言い換えることもできるだろう。
しかし、俺はその解釈は違うと思っている。傍から見れば直感としか表現できないようなことかもしれないが、あくまでも経験則の集合体に過ぎないはずだ。とはいえ、ただの知識に留めず、感覚的に活用するには多くの経験や才能も必要になる。
結果として、第六感と表現しても差し支えないのかもしれない。そして、俺は第六感を持ち合わせていると自負している。
ほら、その証拠がこれだ。俺は曲がり角の手前で、歩いていた足を止めた。
「うわわわわ、遅刻遅刻ー」
予想通りだ。パンをくわえた少女が、目の前を通り過ぎていく。足を止めていなかったら衝突していただろう。
この時間、この場所、何となく歩いていたら、パンをくわえた少女にぶつかる。そして、スカートの中を見てしまったりして、物語が始まる。そうに違いない。
目立たなかった俺の周りには、いつの間にか複数の女の子が集まってくる。学校生活にありがちな、様々な出来事に巻き込まれるだろう。
例えば、定期テスト。
数学があまり得意でないあの子は、俺と一緒に勉強したいと申し出る。それを聞いた他の子たちは、大慌てとなり全員での勉強会を企画することになるのだ。
おかげで勉強は進まず、テストの結果は散々なものになるというオチだ。ただ一人、眼鏡のあの子だけは学年一位というオマケつきで。
例えば、夏祭りからの花火大会。
普段は男勝りなあの子が浴衣を着てきて、普段と違った女の子らしさに俺はドキリとする。それを見た他の子たちは、争うように俺と縁日を楽しもうと躍起になる。
そして花火。なぜか浴衣の子以外とははぐれてしまい二人きりに。彼女は意を決して俺に告白するが、花火の音にかき消されてしまう。そこで俺は「え? なんだって?」と言ってしまう。
対して彼女は「なんでもない!」と頬を赤らめる。ただし花火の光で俺は気付かない。
そんなところだろう。
例えば、クリスマス。
皆でパーティを企画して、プレゼントを持ち寄る。抜け駆け防止のため、手作りは禁止という約束だ。
いつもは大人しいあの子が、既製品と偽って手作りのマフラーを渡してくる。気付いたのは俺だけ。
買い出しのジャンケンに負けた俺は、マフラーを巻いて外に出る。追いかけてきた彼女に向かって「ありがとう」と囁くのだ。
そして、夜空には雪が舞う。
その他にも様々な出来事があるはずだ。その度に誰かと距離が縮まったりする。他の女の子はきっとヤキモキすることだろう。
博愛主義の俺は特定の誰かなんて選べない。愛の告白などされてしまったら、どう答えていいか困ってしまう。
無下にはできないし、かといって全員とお付き合いするなんてもってのほかだ。幸せにするなら一人の女の子がいい。
だから今、歩くのを少しだけ止めた。これが集合知による直感。そう、俺の第六感だ。
俺の周りには多くの要素が付きまとう。この力を使って、あらゆるフラグを避けていこう。
「ん?」
再び第六感がはたらき、俺は空を見上げた。白銀の髪を揺らした少女が、光に包まれゆっくりと降りてくる様子が見える。
そうきたか。
俺の集合知には、SF的な要素が欠けていた。
集合知を駆使した第六感は、ラブコメの成立を未然に防げるか 日諸 畔(ひもろ ほとり) @horihoho
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