そびえ立つ我が推し

髙橋

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 大好きな推しのことを考えると夜も眠れない。

大なり小なり誰にでも経験があるのではないだろうか。

 自分の推しであるアイドルやミュージシャンのライブには欠かさず行き、できるだけ前列の席を確保し、応援する。

グッズを一通り買い占めるのはもちろんのこと、保管用、観賞用、布教用といった用途ごとに複数買ったりもする。

 俳優や声優なら出演している作品をチェックするのはもちろんのこと、実際に推し本人に会えるようなイベントがないか、公式サイトやSNSを分刻みでチェックする。

 今どういう行動をしているのかを手に取るように把握していたいのだ。

Youtuberやコスプレイヤーといった現代的な人気者にも当然推しはいる。


 かつては、追っかけなどと呼ばれた熱烈なファン達も、現代では形が変わってきている。

誰しもSNSを当たり前に使うようになった現代では推しとの距離がかつてより近くなったといえるだろう。


 誰にだって推しがいる。当然私にも・・。


「またそんなの見てるのか」


振り返ると、同僚が呆れ顔で立っていた。


「そんなの、とはずいぶんな言い草だな。私にとっては大事な存在なんだ」


私が反論すると、同僚は


「しかし、ちょっと熱の入れ方が常軌を逸してるぜ。職場にその・・・そんな写真集まで持ってきてさ。休憩中にむさぼるように読んでるんだから。正直ちょっとゾッとしたよ」


「これは私にとって癒しなんだ。推しの姿を見ることによって、仕事ですり減ったメンタルが癒され、回復するのさ。私流のリラックス法だよ。コーヒーブレイクやマッサージなんかより、はるかに効果があるんだぜ」


私が自慢気にそう言うと、同僚はますます理解できないといった表情で


「そういうもんかねぇ・・いやまぁ、好みってのは人それぞれだろうし、文句を言われることもないだろうさ」


同僚はそう言いながら休憩室に入ってきて、私の目の前のソファに座ってコーヒーを飲みだした。


「しかし、分からんもんだよな。君って仕事もできるし、人柄も良いしさ。俺とこうして話している分にはいたって普通の人って感じなのに。

君とは入社以来ずっと同じ部署で、もう十年近く一緒に働いているけど、それでも分からないことってあるもんだよなぁ」


同僚は私の顔をまじまじと見ながらそう言った。


「君にだって趣味の一つや二つあるだろう。あのミュージシャンのファンだとか、どんな映画が好きかとか、それと変わらないと思うよ。私にとっての推しはこれってだけさ」


私は写真集を指さしながら答えた。


「きっかけは何だったんだ?その・・・推しにハマるようになったきっかけはさ」


同僚が尋ねてきた質問に私は少し考えてから


「そうだなぁ・・。私も昔は特に気にならなかったよ。でもある時、何気なく見たときに気付いたんだ。なんて美しい立ち姿をしているんだろうってね」


推しの魅力について語り始め、私の言葉は少し熱を帯びてきた。


「スリムで真っすぐとした体をしているのに、一方でどっしりとした安定感もある。雨風にも負けずに常に勇壮な姿を私達に見せてくれる。見ていてこちらも勇気づけられるのさ。

その魅力に気付いてからは、一気に虜になったね。

それからはもう一挙手一投足見逃さないといった感じさ。見かけるたびに胸が高鳴る」


熱っぽく喋っていると、同僚は顔の前で手を振って


「分かった、分かったよ。君がその推しに対して並々ならぬ情熱を注いでるってことは充分に分かった!俺には理解はできないけどもさ」


同僚はそう言ってコーヒーを飲み干すと立ち上がった。

そして休憩室を出る間際に、再び夢中になって写真集を見ている私に向かって言った。


「本当に変わってるよなぁ。電柱が推しだなんて」

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