中編 1
やってきた初配信の日。
なぜかただのリスナーである私もひどく緊張していたのを覚えています。
1人当たり20分から30分。最後は、5人揃っての。大抵の箱みたく行われた初配信。
これまでは大手の箱をよく見ていたので、同接の少なさにビックリしましたがそれでも盛況な方だったと思います。
デビュー後は、それぞれのペースで配信していっていました。やっぱり配信内容によって各々のファン層というのは違います。中でも【ツキハノ】【ジルメオ】がコラボ配信も多かったことから、コンビとしての人気がありました。【ツキハノ】は幼なじみ、【ジルメオ】は双子でもありましたから。
リーダーの【ミサト】君は、この時点では配信回数も少なかったことで人気に差がある状態でした。実際、当時は通訳を務める方の個人配信は多いということもあり、VTuber活動に乗り気ではないのではといった意見も出ていました。
ただ設定と言ってしまうと無粋ですが、デビュー時のプレスリリースで彼らがデビューに至るまでの流れが公開されています。要約して紹介します。
『彼らが配信活動を始めるきっかけは【ミサト】以外の4人にあります。異世界人である彼らは、ある日地球で配信と呼ばれるものが流行だと知ります。自分たちの世界を伝えたい、そう思った4人と、自分たちの国の公務で手一杯なのにと考える【ミサト】。この攻防はしばらく続き、痺れを切らした【ジル】と【メオ】が勝手に事務所へ書類を送ってしまうのです。しかも、【ミサト】をリーダーにして。』
こういった経緯もあって、【ミサト】君の配信が少ないこと自体はある種設定通りでした。
私は、緩い箱推しでやや【ミサト】君びいきなオタクでした。ハーフアニバーサリーまでは。
そう、ハーフアニバーサリーです。私はじめデビューから推していたオタクが皆泣いたあの。
【メオ】から始まり【ミサト】で終わる、この半年を振り返ったスペシャル動画の公開。そして、新衣装お披露目集合配信。傍から見たらどこにでもある流れ。でも、我々【同盟国民】にとっては格別なものでした。あ、【同盟国民】というのはリスナー名です。
半年の振り返りということで、他4人は充分すぎるほど素材はあります。でも、【ミサト】君は何を投稿するのか分からずドキドキしていました。でも、その期待を大きく上回る物を提供してくれました。
配信活動を始める前の彼、4人の笑顔を輝きを間近で見て自分の気持ちの変化を感じた彼、半年を迎え今更向き合う事に悩む彼を応援する4人が描かれたアニメーション。
感情が落ち着かないまま迎えたお披露目配信。開口一番、彼は謝罪の意とこれからの活動についてを語ってくれました。
「これまで応援してくれている皆をちゃんと見ていなかったこと、ごめんなさい。また、僕が配信をしないことでツキハ、ハノ、ジル、メオ、そして通訳であるやなぎしろ。さんへ悪意ある発言が向けられていました。僕は最近までこのことを知りませんでした。だからこそ知った時、僕はなんて失礼なことをしていたんだと初めて気づきました。僕は、4人と違って得意なこともないけれど、でも今日から改めて【ミツハジメ】のリーダー【ミサト】として頑張らせてください」
涙交じりのぐちゃぐちゃな声で彼は言いました。そして、お披露目された新衣装は日本へのお忍び旅行をイメージした私服衣装でした。そこから、それぞれが好きな日本の曲を歌う流れになりました。
もうこの時点で、かなり彼が推しへと変わり始めていました。決定打となったのは、彼が歌った歌でした。私が元最推しを好きになるきっかけとなった歌だったのです。あの時と同じく運命だと思いました。
そこから、【ミサト】君の配信は急激に増えました。全員のリアタイを諦め、彼に絞った生活を送っていました。今思い返しても、とても楽しかったです。
そして、ファーストアニバーサリー。撮り下ろしの王子衣装、それを使用したグッズどれも大変素敵なものでした。記念配信では、3D化の夢を語ったりしてこの楽しい時間がずっと続けばいいのにと思っていました。
この一か月後、彼らの事務所は解散しました。
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