第3話 愛鷹山(3)
「買いかぶってくれるのはありがたいが…お前は、その己が考えを他の者に話したか?」
「…いいえ。若さまにも言うてはおりませぬ。某の考えは、
「…そんなふうに大事に守られていながら、お前の若さまは、お前を
盛時の言葉は、どうしても若さまとやらをなじる口調となった。これに石頭斎はにこりとして、
「長く同じ屋根の下で暮らしておりますと、なんですか…おそれ多いとわかっていても、あの方が己が孫のように思えてきましてな。こうなると、いけません。かわいくて、ついつい口うるさくなってしまいましてな」
「それで、『この石頭!』か…」
盛時は、小さく笑った。
「若さまぐらいのお年頃は、難しいものです。周囲の愛情が
石頭斎は、小さな眼にあたたかな光をたたえ、
「ふうむ…」
「しかも、
「…若さまというのは、昔からの主従の絆を別にしても、お前ほどな男にそれほどまでに尽くされるだけの人物か」
すると、石頭斎は誇らしそうに、
「はい。そう思います。無論、我等一族は、気が遠くなるほどの
「そうか…」
盛時は、しみじみ頷いた。
石頭斎の話し方は、不思議な説得力があった。口下手ではない。しかし、
「ここ数か月、
これを聞いて盛時は、
「ふ、ふ…その若さまのご先祖は、よほど元気な方と見た」
からからと――なんとも朗らかに笑った。
「はい」
「おしこめられた寺を抜け出したか」
「そうなのです」
馬鹿正直に、石頭斎は応じた。
「ハハハ…」
もう一度、盛時は心底おかしげに笑った。そうして、
「この地に来て数年となるが、滝野という一族の話は、一度として聞いたことがない。そも、滝野とはいかなる一族なのか?」
さきほどよりも親しげに、そう尋ねた。
「じつは――」
石頭斎は、かくしだてをしても始まらないことなので、訊かれるままに主の滝野家の歴史を盛時に語ってきかせた。そうして、義直の両親が去年はやり病で亡くなり、古くからの家臣である己が一族で義直を支えていることを最後に伝え、
「本来は当人が伺うべきでありましょうが、こうした理由で、某が参りました。どうか…どうか、若さまに、世に出る糸口をお与えくださいっ」
床に頭をこすり付けるようにして、再度、懇願するのだった。
※1 陥穽…おとしあな。
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