【第46話】サーガが語る真実

 魔皇帝ネイスメイスは魔界に残る1000年前の物語サーガの内容を詳しく語り始めた。


「1000年前、わしの先祖が人間界を支配したことは、人間界での史書にも記されておろう。しかしじゃ、史書には我が先祖の魔皇帝と伝説の勇者との戦いについては詳しくは記されておらん」


 魔皇帝ネイスメイスがそこまで話すと、魔王じいちゃんが頷いた。


「確かに、わしは史書を読んだが、伝説の勇者が魔王を倒した、としか記されておらんのう」


 魔王じいちゃんの言葉を耳にした魔皇帝ネイスメイスは話を続けた。


「魔界の物語サーガには、こう記されておる。人間界を支配する魔皇帝と勇者ブラッドメイスたち6人の戦いは、ほとんどがプランローズの魔術師ウィザードブレズムが主力となって戦われた。勇者ブラッドメイスは魔皇帝との戦いが始まるや否や気絶して······」


「え! 今、なんて言いました?」


 僕は魔皇帝ネイスメイスの話を遮るように声をあげた。魔皇帝ネイスメイスは僕に顔を向けた。


「勇者ブラッドメイスは魔皇帝との戦いが始まるや否や気絶したんじゃ」


 魔皇帝ネイスメイスが繰り返し発した「気絶」という言葉に、僕は信じられない思いで魔皇帝を見つめた。


「ネイスメイス殿、勇者が気絶、とはどういう意味なんじゃ?」


 魔王じいちゃんも僕と同様、「勇者の気絶」に関して驚きと疑問を感じたらしい。魔皇帝ネイスメイスをじっと見つめながら訊ねた。


「勇者ブラッドメイスは勇敢に剣を振り上げながら魔皇帝に立ち向かっていったのじゃが、途中で石につまずいて転んだらしい。そのときに顔面を地面に打ちつけて気絶してしまったんじゃ」


「そ、それでどうなったんです?」


 その先が気になった僕はテーブルに身を乗り出すようにしながら魔皇帝ネイスメイスに訊ねた。


「結局、プランローズの魔術師ウィザード以外は弱すぎて魔皇帝の相手にはならず、ほとんどブレズム・プランローズと魔皇帝の一騎打ちだったということじゃ。そして、ブレズム・プランローズが魔皇帝を倒したあと、しばらくしてから勇者ブラッドメイスが目を覚ましたということじゃ」


 魔皇帝ネイスメイスの話を耳にした僕は憤慨した。


「そんな馬鹿なことがあるわけないじゃないか! それでは伝説の勇者はタダのマヌケじゃないか! そもそも、そんな物語サーガは信用できるんですか?」


 僕は感情的になって声をあげたけれど、魔皇帝ネイスメイスは落ち着いていた。


「この1000年前の物語サーガは我が先祖である魔皇帝が記したものなんじゃ。我が先祖である魔皇帝はブレズム・プランローズに倒されてはいるが、実際は魔力を封じられて魔界へ追放されたんじゃ。その後、魔界で隠居しながら物語サーガを書きあげたんじゃ」


「そ、そんな······」


 僕は魔皇帝ネイスメイスの説明が信じられなかった。


「魔王オリスチンの孫よ、もし疑うのなら大天使エスフェルに訊ねてみるがよい。エスフェルは1000年前の戦いを見ておったからの」


「大天使エスフェルに訊ねろ、と言われても、大天使を呼び出す方法なんて知らないよ」


 僕はそう答えるとうつむいた。


「我が孫オリスティンよ。ネイスメイス殿が語ってくれた物語サーガは真実かもしれんぞ」


 魔王じいちゃんの言葉に驚いた僕は顔を上げると魔王じいちゃんを見つめた。


「じいちゃん、それどういうこと?」


「実は人間界に残る史書にはの、伝説の勇者は魔王との戦いでは傷ひとつ負っていない、と記されておるんじゃ。ただ、勇者の顔面には何かをぶつけたような跡が残っていたらしい。魔界の物語サーガには、勇者が魔王に立ち向かう途中で転んで顔面を打ちつけた、とあったが、これは史書の内容と一致する」


 魔王じいちゃんの説明には説得力があった。だけど、伝説の勇者の末裔である僕にとっては信じたくない内容だった。


「オリスティン、そのときの目撃者に訊ねてみれば良いじゃない?」


 突然の母さんからの提案を耳にした僕は、何を言ってるんだろう、と思いながら母さんに顔を向けた。


「母さん、何を言ってるの? 目撃者に訊ねろって、そんなことできるわけないじゃないか。1000年も昔のことなんだよ」


「ま、まさか、レイリア様!」


 僕が不平を口にすると、アリサが驚きの声をあげながら母さんを見つめた。


「さすが、アリサさん。気づいたようね。そうよ、大天使エスフェルを召喚するのよ」


 母さんが微笑みながら答えた。



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