【第26話】最後のドラゴン

「マルコロ叔父さーん!」


 アリサが霧の中で巻き起こった土煙に向かって叫んだ。僕も土煙に巻き込まれたマルコロの姿を探したが見つからない。そのときだった。


 ギャアオオーッ!


 突然、明らかに獣と思われる甲高い咆哮が周辺に轟いた。


「な、なに? 今の!」


 アリサが周辺を窺いながら不安そうに叫んだ。周辺は霧と土煙で視界が利かない。


「明らかにマルコロさんの声じゃなかった」


「当たり前じゃないの! 叔父さんはドラゴンじゃないのよ!」


 アリサの言葉を耳にした僕は、脳裏に閃くものを感じた。


 まさか、ドラゴン······?


 僕は恐る恐る空を見上げてみた。次の瞬間、僕は恐怖のあまり呆然とした。


「オリスティン、どうしたの?」


 アリサの声が聞こえてきたけれど、それどころではなかった。


「やっぱり、本当だったんだ······」


 空を見上げながらの僕の呟きに、アリサも空を見上げた。


「うそ? あれ、ドラゴンなの?」


 アリサが不安そうな声で訊ねてきた。僕は黙り込んだままだった。


「アリサ、オリスティン! 大丈夫か?」


 そのとき、マルコロが駆け寄ってきた。マルコロの顔は土まみれだった。


「叔父さん、無事だったのね!」


 アリサがマルコロに抱きついた。


「突然、穴が避けて土が噴出したと思ったら巨大な何かが上空に向かっていったんだ!」


 興奮気味に話すマルコロの言葉を受けた僕は、無言のまま人差し指を空に向けた。僕の人差し指に気づいたマルコロは空を見上げた。


「あれは······ドラゴン! そうか、魔王が飼い慣らしていると言われている最後のドラゴンか!」


 マルコロが驚きを隠すことなく呟いた。

 僕は再び空を見上げた。赤茶けた色だと思われるドラゴンが羽ばたきながら上空を旋回している。


「3人揃って空を見上げて······何か見えるのか?」


 アレンが近づいてきた。


「ドラゴンが飛んでるの」


 アリサが答えた。その直後、アレンの驚く声が耳に入ってきた。


「どうやら僕たちがドラゴンを目覚めさせてしまったみたいだね」


 僕は空を見上げたまま呟いた。


「それで、どうするの?」


 アリサが訊ねてきた。僕は上空のドラゴンからアリサの顔に視線を移した。


「どうしようもないよ。あんな巨大なドラゴン相手じゃ勝ち目がないよ」


「でも、オリスティンは強力な魔法が使える。私の魔法、叔父さんのクロスボウ、アレンさんの大剣、みんなで力を合わせれば勝ち目もあるわ」


「確かに、そうかもしれないけど······でも、あのドラゴンが強力なブレスを吐くタイプだったら、僕らは一瞬にして黒焦げだよ」


 そのとき、上空を旋回するドラゴンが再び咆哮を始めた。空気を震わすほどの咆哮だ。僕たちは両手で耳を塞いだ。


「あ、あれを見て!」


 アリサが上空を見上げながら叫んだ。上空を見上げた僕は、一瞬、自分の目を疑った。ドラゴンがブレスを吐き出したからだ。凄まじく巨大な炎だ。まるでドラゴンの口から噴火しているような、凄まじい炎を周辺の空に吐き出している。ドラゴンのブレスのせいで、次第に空が夕焼けのように赤く染まってきた。


「この景色、見たことがある! そうか、昔、火山の噴火のように見えた光景は、このドラゴンの仕業だったのか!」


 マルコロが上空を見上げながら呟いた。上空のドラゴンは旋回を止めることなく、無限に吐き続けるのではないか、と思えるほどに炎を吐き続けている。僕は恐ろしくなった。


「無理だ! 絶対に無理だ! あんなドラゴンと戦って勝てっこないよ!」


 他の3人は僕の言葉を否定しなかった。きっと他の3人も同じ気持ちなんだろう。僕は自分の死を覚悟した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る