【第25話】揺れる火山
「けっこう山頂に近づいたわね」
アリサが眼下に広がる景色を見下ろしながら明るい声をあげた。僕もアリサの隣に並んで眼下の景色を見渡した。
眼下には森が広がり、村の集落が幾つも見える。それ以外は海原がはるか彼方まで広がっているだけだ。こうして高所から景色を眺めると、自分は島に生きているのだ、と実感できる。
「2人とも、崖っぷちに近づいて落ちるなよ。落ちたら助からないからな」
僕たちに注意を呼びかけたマルコロは高所恐怖症らしく、眼下に広がる景色を見ようとしなかった。
アレンも崖から眼下に広がる景色を黙って眺めていたが、ひとり首を傾げると僕たちの方に顔を向けた。
「昔からこの島は火山だと聞いていたが、こうして登ってみると全く火山らしくないな」
アレンの言葉を耳にした僕は山頂を見上げた。
「そうですね、火山にしては噴煙が見えないし火口が見当たらない。マルコロさん、この山は噴火したことがあるの?」
僕の質問を受けたマルコロは唸りながら首を傾げた。
「噴火を見た記憶はないけど、噴火なのか分からないが、山頂周辺の空が炎のように赤く染まっていたのは何度か見たことがあるな」
マルコロは山頂を見上げながら答えた。
「魔王が住む山だからね。何が起きてもおかしくないわ」
僕はアリサの言葉に反応して彼女の横顔を見つめた。アリサの前髪が風で揺れている。そのとき、僕は一抹の不安を感じた。
「そういえば、この山には最後の1匹になったドラゴンがいるんだよね?」
僕は誰に訊ねるわけでもなく、独り言のように言葉を発した。
「そうね、いるはずよ」
アリサが答えながら風で乱れた前髪を整えた。
「きっと、この先にいる······」
僕は上り坂が続く山道の先を見つめた。その先は白い霧がかかっている。
「先へ進もう」
僕たちは再び山道を歩き始めた。
山道を10分ほど登っていくと、大きな屋敷ほどの広さがある広場に出た。うっすらと霧がかかっている。よく見ると、広場の中央には直径10メートルほどの穴があいていることに気がついた。
「火口かな?」
僕は穴に近づくと、目を凝らしながら穴底を見渡した。どうやら穴底までは3メートルほどしかなく、見た限りでは普通の地面だ。
「マルコロさん、この大きな穴は何だろう?」
マルコロに訊ねると、彼は穴へ近づいてきた。
「昔の火口かな? だけど、火山にありがちな硫黄のにおいがしない」
マルコロは穴を覗き込んで注意深く観察を始めた。
「穴なんてどうでもいいじゃない。何だかさっきより霧が深くなってきたわ。先を急ぎましょうよ」
アリサの言う通り霧が深くなってきた。このままでは崖っぷちの山道を登っていくのが危険になる。
「マルコロさん、先を急ぎましょう!」
僕がマルコロに声をかけたときだった。突然、地面が揺れた。
「わ、なんだ? 地震か?」
僕は両足で地面の揺れを感じながら周囲を見渡した。霧の中で目を凝らしながらアリサを探すと、アリサの赤毛が見えた。僕は地面に揺られながらアリサに駆け寄った。
「アリサ、大丈夫?」
「うん、私は平気。叔父さんとアレンさんは?」
僕は深まっていく霧を見渡しながらマルコロとアレンを探した。
「おーい、どこだー?」
「みんな、無事か?」
霧の中からアレンとマルコロの声が聞こえる。どうやら2人は無事のようだ。
突然、さらに大きな揺れが僕たちを襲った。僕はアリサの肩を両手で支えながら彼女が倒れないように努めていたが、突然の大きな揺れによって僕は尻もちをついてしまった。
「オリスティン、大丈夫?」
「うん、何とか」
そのとき、ドーンという何かが炸裂したような轟音が響き渡ると同時にマルコロの叫び声が聞こえた。
僕とアリサはお互いの体を支え合いながら霧の中でマルコロの姿を探したが、新たに巻き起こった土煙のせいで何も見えなかった。
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