【第27話】敵か味方か

 上空を旋回しながら四方八方の空へ巨大なブレスを吐き続ける赤茶色のドラゴン。僕たちは白い霧に包まれているけれど、空は夕焼けのように赤い。

 ドラゴンが何のために四方八方の空にブレスを吐き続けているのか分からない。ただ分かることは、あのブレスが僕たちに向けられたら一瞬にして炭化させられてしまう、ということだ。


「ドラゴンが空を燃やしてる······」


 僕は空を見上げながら呟いた。あのドラゴンが山頂を目指す僕たちの前に立ちはだからないことを強く願った。


「ねえ、オリスティン。あのドラゴンは敵なの?」


「分からない。でも、魔王がドラゴンを飼い慣らしてる以上、魔王討伐に向かってる僕たちは間違いなく敵になるんだろね」


 僕はアリサに顔を向けながら答えた。彼女の表情は怯えていた。


「みんな、ドラゴンが上空にいる間に山頂へ向かおう」


 僕が提案すると、他の3人は同意した。僕たちは再び山道を進め始めた。


 ドラゴンは山頂よりもさらに高い空中を旋回している。いま山道を包み込んでいる霧がもうしばらく消えずにいてくれたら、ドラゴンに気付かれずに山頂にある魔王の居城へたどり着けるかもしれない。

 僕たちは歩みを早めた。


 しかし、5分もしないうちに霧は薄れて消え去ってしまった。今までは霧が僕たちの姿を隠していてくれたおかげで、上空のドラゴンからの発見を防いでくれていた。しかし、霧が消えたことで、僕たちはドラゴンから丸見えになってしまった。


「見て! オリスティン! 魔王の城よ!」


 上空のドラゴンを警戒していた僕は、アリサが指を差しながら叫んだ方向に顔を向けた。視線の先には、城の尖塔があった。黒い城だ。すぐに魔王の城だと確信した。しかし、次の瞬間!


 グギャアアアアーッ!


 という甲高い咆哮が鼓膜を震わせた。すぐに上空に顔を向けたとき、僕はあまりの恐怖で気が遠くなりそうになった。


 今まで旋回しながらブレスを吐き続けていたドラゴンが、山道を進む僕たちに向かって恐ろしいほどのスピードで急降下してきたのだ。


「うわーっ!」


「きゃあーっ!」


 僕たちは恐怖のあまり叫び声をあげた。僕は恐ろしさのあまり全身が硬直してしまい、死を覚悟しながら目を閉じた。暗闇の中に優しい母さんの姿が浮かんだ。


「お前が勇者か?」


 突然、頭上から低い口調の人語が聞こえてきた。僕は恐る恐る目を開くと上空を見上げた。見ると、そこには赤茶色のドラゴンが山道に着地して長い首をくねらせている。

 ドラゴンは今まで見てきたスラリンとは比較にならないほど巨大だった。ドラゴンは山道に着地しているとはいえ、それは片足だけで、もう片方の足はゴツゴツとした山肌に器用に着地している。

 僕は恐ろしさのあまり声が出ず、ただ震えていた。


「お前が勇者か?」


 ドラゴンが僕に顔を近づけながら訊ねてきた。ドラゴンの口から熱気を感じた。僕は何度も頷いた。


「そうか」


 ドラゴンはそう言いながら、僕の顔をじろじろと見てきた。


「ぼ、僕を、殺しにきたの?」


 僕は恐怖に震えながら訊ねた。すると、ドラゴンは意外な反応を示した。


「あははは、それは魔王が決めることだ」


「それはどういう意味?」


 僕とドラゴンのやりとりを見ていたアリサが訊ねた。しかし、ドラゴンは何も答えなかった。


 突然、ドラゴンは羽ばたいて上昇を始めた。その風圧で僕たちはよろめいた。

 ドラゴンは急上昇すると、夕焼けのように赤くなった空の彼方へと飛び去っていった。ドラゴンが飛び去ったことに僕は安堵した。


「助かった······。もうダメかと思った」


 僕は呟きながら自分の両手を見つめた。両手がまだ震えている。


「いったい何なのかしら、あのドラゴン。オリスティンを殺すかどうかは魔王次第だなんて」


 アリサは赤い空を見つめながら呟いた。


「危うく焼き殺されるところだったな」


「あんな化け物、初めて見たよ」


 マルコロとアレンは驚きを隠すことなく、そんな言葉を漏らした。


「と、とにかく、助かって良かった。城まであと少し。ドラゴンの気が変わらないうちに先へ進もう」


 僕はみんなの顔を見渡しながら声をかけた。僕は再び山道を進んだ。まだ僕の両脚は震えていた。


 しばらくして、僕たちは山頂にある魔王の居城へたどり着いた。


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