【第19話】強すぎる仲間たち
「まさか、スラリンがドラゴン族だったなんて思わなかった。名前からして弱々しくて可愛らしい魔物だと思っていたよ」
僕はスラリンの死骸を見つめながら呟いた。
「さっきスラリンが吠えていたから、今頃奴らの仲間たちがこっちに向かってるはずだ」
アレンは大剣にべっとりと付着した赤黒いスラリンの血を大きな木の葉で拭いながら言った。
「え! じゃあ、早くここを離れなきゃ!」
僕は慌てて森の中の道を歩き始めた。しかし、他の3人は立ち止まったままだ。
「おーい、早く先へ行こうよ! スラリンが集まってきたら大変だよ」
僕は慌てながら3人に向かって声を張りあげたけれど、彼らはこちらを見ながらニタニタしているだけだった。
「みんな、どうしたの? なぜ動かないの?」
「私はスラリンに会いたいから、ここで待ってる」
僕の問いかけにアリサは笑みを浮かべながら答えた。僕は驚いた。
「じゃあ、勝手にしなよ。アレンさん、マルコロさん、早く先へ進もう」
「俺も、もう少しここにいるよ」
アレンが、何が可笑しいのか、笑みを浮かべながら答えた。
「じゃあ、マルコロさん······あれ!」
僕はマルコロを見て驚いた。マルコロはクロスボウを手にしていたからだ。
「もしかしてマルコロさんも?」
「ああ、久しぶりにスラリンと戦いたくなったからな。オリスティン、先に向かっていてもいいよ」
「いやいやいや、ひとりで先へ進んでスラリンにでも遭遇したら、間違いなく伝説の勇者の宗家は血統断絶しちゃうよ」
「じゃあ、ここで一緒にスラリンと戦うんだな」
僕は唖然としながらマルコロの顔を見つめた。マルコロはクロスボウの矢の手入れを始めている。よく見るとマルコロの矢筒に入っている全ての矢が、淡い赤色の光を放っている。どうやら魔法の矢のようだ。
マルコロはクロスボウと魔法の矢でスラリンと戦うつもりか。それに比べて、僕にとって武器になりそうなものといえば黄金の爪楊枝しかない。
「戦うと言っても武器なんか······」
突然、僕たちを囲むように森の方々から唸り声や咆哮が聞こえてきた。
「ほーら、たくさん来やがったぜ!」
アレンが大剣を構えながら嬉しそうに叫んだ。その直後、突然、2匹のスラリンが正面から現れた。
グァウグルル!
2匹のうちの1匹がアレンに襲いかかる。アレンは落ち着いて身をかわすと、大剣をスラリンの背中に叩きつける。スラリンは背中から一刀両断されて絶命した。
もう1匹のスラリンはマルコロに襲いかかった。牙を剥き出してマルコロに向かっていくスラリン。マルコロは落ち着き払って、クロスボウを構えるとスラリンに向けて魔法の矢を放った。矢はスラリンの顔面に突き刺さると、ボンッという音とともに小規模な爆発を起こした。顔面を爆破されたスラリンは即死した。
2匹のスラリンが倒されたが、すぐに新手のスラリンが現れた。スラリンはアリサを見つけると吠えながら襲いかかった。すると、アリサは右手のひらをスラリンに向けた。
「バラス・フェルド・ジバーフ」
アリサが謎の言葉を放った直後、青白く輝くネットがスラリンを包み込んだ。全身を青白いネットで包まれたスラリンは感電しているらしく、全身を激しく痙攣させた。数秒後、青白いネットに包まれたスラリンは動かなくなった。
「この程度の電縛の魔法で死ぬなんて、スラリンは大したことないわね」
アリサがつまらなさそうに呟いた。初めてアリサの魔法を目にした僕は唖然とした。
つ、強い! みんな強すぎる! これなら魔王討伐は3人に任せて、僕は家に帰っていいんじゃないか?
僕はそう思いながら、勇者としての自分自身の存在意義に疑問を感じたのだった。
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