【第18話】最弱の魔物スラリン

 初めて目にする魔物スラリンを前にした僕は、驚きと恐怖で全身が凍りついた。同じように、初めてスラリンを目にしたアリサも恐怖で悲鳴をあげている。そんな彼女を叔父であるマルコロが彼女の手を引っ張って後方へ下がらせた。

 一方のアレンは大剣を構えながらスラリンと対峙した。


「オリスティン、こいつがスラリンだ! 倒す自信がないなら後方に下がってるんだ!」


 アレンが僕を見ながら叫んだ。僕は言われるまでもなくすぐに逃げ出したかった。しかし、恐怖のせいか足が動いてくれない。


 グォーン! ギュルギュルーッ!


 またスラリンが吠えた。僕は驚いて尻もちをついた。


 鋭利なナイフのような爪、肉厚な皮膚、牛さえ噛み砕きそうな巨大な牙、さらに何といってもその巨大さ。牛の数倍の大きさはある。

 これが村のおばさんでも倒せると言われる、8歳の魔法使い少女さえ倒したと言われる、この島唯一の最弱な魔物スラリンか! こんなの、まるで翼を持たないドラゴンじゃないか!


「あ、あれ、アレンさん、僕には無理、無理······」


 すっかり腰を抜かした僕は、恐怖にたじろぎながら必死に言葉を絞り出した。そんな僕を見たアレンは笑い始めた。


「それでも勇者の末裔か! オリスティン、俺が倒すからそこで座って見てな」


 アレンは大剣を構えながらスラリンに向かっていった。スラリンは正面にアレンを捉えると牙を剥き出しにしながら突進を始めた。アレンはスラリンの至近距離にまで近づくと跳躍した。真下にスラリンを捉えたアレンは大剣を真下に向けて降下すると、スラリンの首元を勢いよく突き刺した。首元を大剣で突き刺されたスラリンは甲高い叫び声をあげて顎から地面に崩れ落ちていく。アレンは大剣を引き抜くと、すかさずスラリンの首元を目がけて大剣を振り下ろした。その直後、スラリンの首が地面を転がった。すぐ目の前に転がってきたスラリンの首を見た僕は、恐怖で悲鳴をあげた。


 アレンはスラリンを倒すと僕に近づき、僕の右腕を引っ張って立たせてくれた。僕は息を荒らげながら、足元に転がっているスラリンの首を凝視した。


「こ、これがスラリンだなんて······。おばさんや8歳の女の子でも倒せる魔物だなんて······」


 僕はそう呟いたものの、いまいち状況がよく理解できなかった。


 なぜ、こんなドラゴンのような魔物を村人たちは倒せるんだ? こんな獰猛で危険な魔物をおばさんや少女が倒すなんて、どういうことなんだ! 母さんもスラリンを倒したというけど、母さんは高位の魔術師ウィザードだからドラゴンさえ倒せるのは理解できる。ということは、村人たちはみんな強力な戦士や魔法使いの類なのか? 僕が住む村は、みんな生まれながらの兵士ソルジャーなのか?


「オリスティン、大丈夫か?」


 アレンが笑いながら声をかけてきた。


「俺の出番ぐらい残しておいてほしかったな」


 マルコロも笑いながら近づいてきた。


 僕はアレンとマルコロの顔を交互に見つめた。


「いきなり現れたから悲鳴をあげちゃったけど、これがスラリンなのね」


 マルコロの背後からアリサも出てきた。


「ど、どこが最弱の魔物なんだよ! ほとんどドラゴンじゃないかよ!」


 初めて遭遇したスラリンの迫力にショックがさめやらない僕は、ひとり喚いた。


「オリスティン、スラリンはドラゴン族の最下級クラスの魔物だよ。これくらい倒せないと村人たちに笑われるよ」


 マルコロが穏やかな口調で言いながら、僕の右肩をポンと軽く叩いた。


「ねえ、マルコロ叔父さん。今度、スラリンが出てきたら、私が相手をしてもいい?」


 アリサが笑みを浮かべながらマルコロに訊ねた。


「いいとも。だけど、少しは手加減してあげるんだよ」


「はーい」


 アリサはそう答えると、僕に向かって嬉しそうに微笑んだ。



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