炎上・元気・勇気

エリー.ファー

炎上・元気・勇気

 推しが頑張っている。

 私は、推しのことを考えて歩き出す。

 余り、良いことのない私の人生だ。

 きっと、これからも良い人生を歩むことはないだろう。

 それでいいのだ。

 とは、言いきれないほどにプライドは高い。

 推しと出会えたことで、幸せになったかと言えば。

 なっていない。

 支出が増えただけだ。

 推しのことを考えている間、辛いことを忘れられるだけだ。

 そう、人生の幸福のハードルが下がっただけなのだ。

 常時、マイナスだったものが推しの存在によって一時的に零に近づくことがある。

 たったそれだけのことである。

 間違ってもプラスではない。

 しかも、推しによって生まれた興奮が終わってしまえば、生活費を切りつめなければいけない毎日が顔を覗かせる。

 推しはそのような日々を覆い隠してくれることもある。しかし、覆い隠してくれない時もあるし、それをわざわざ剥がしてくる時だってある。

 私は、推しのために生きているのではない。

 私は、私のために生きている。

 でも、そんな私が私であり続けるためには、正常であり続けるためには、まともであり続けるためには。

 誤魔化すための麻薬が必要なのだ。

 推しは、まさにそれだ。

 推しが重要なのではない。

 正直に言う。

 推しなんか愛してないのだ。

 推しなんかどうでもいいのだ。

 推しなんか死んでもいいのだ。

 推しなんか殺されてもいいのだ。

 推しなんか霧散してもいいのだ。

 推しなんか最初からいなかったとしてもいいのだ。

 あの、誰かを推す瞬間。そして、推している最中。

 私の中に生まれる感情のために金を使い、時間を使い、人生を使っている。

 推し活か。

 よく言ったものである。

 私に、他人を推すような余裕などあるわけがない。自分を下げてまで作り出す推しのためのすべてに意味などない。

 でも。

 それでも推している。

 これは、もう単純だ。

 私は、私のことを推しているのだ。

 私が日々生きていくために、必要なものを揃えるために、死に物狂いで毎日を消化するために、推しを欲しているだけなのだ。

 生理用品を使っている。ミネラルウォーターを飲んでいる。ゴミを捨てるためにビニール袋を買っている。擦り切れる前にパンプスを買っている。

 でも。

 生理用品が好きなわけではない。ミネラルウォーターが好きなわけではない。ビニール袋が好きなわけではない。パンプスが好きなわけではない。

 誰かを推さないと、推していないと。

 私じゃなくなりそうだから。

 推しているだけなのだ。

 昔の友達は、これが恋愛依存として出ていた。

 最近できた友達は、これが整形依存として出ていた。

 親友は、これがアルコール依存として出ていた。

 部下は、これが万引き依存として出ていた。

 同期は、これが買い物依存として出ていた。

 上司は、これがホスト依存として出ていた。

 あぁ、ホストへの依存は、あたしと同じ種類か。

 そして、私の両親は、何の依存でもない。

 普通だ。

 本当に、なんでもそうだ。

 毒親だから、子どもがひねくれると思うバカが多すぎる。

 毒親だろうが、毒親じゃなかろうが、子どもは歪んで育つ時は育つんだよ。

 確かに、毒親が、その子どもの精神に悪影響を及ぼす可能性は高いかもね。

 でも、全部じゃない限り。

 こういう、私みたいな人間もいる。

 毒親っていう切符を使えないから、むしろ、毒親生まれが羨ましく感じる時だってある。

 あぁ、お前って、うちは毒親だから、みたいなことを口に出しちゃうんだ。

 いいね、その言い訳。万能で。

 そう、思う。

 もういい。

 もう、なんでもいい。


 なんで、あたしの生きる原動力は推しなんだろう。

 もっと、まともなやつが欲しかった。


 好きで推してるわけじゃないのに。

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