第46話 ある意味ラストダンジョン!

「はぁあああああああああああああああ!」


 次の日の午前一〇時。


 俺らは二〇界のボスダンジョンへと挑戦。


 雑魚モンスター達は問題無く片っ端から蹴散らしていく。


 二〇界は魔王の城のように、暗く禍々しいダンジョンだった。


 出て来るモンスターも、どこか悪魔的、あるいは魔獣的な容姿だ。


 ミスリルから鍛え上げた俺の新しい武器、燕丸は良く働いてくれた。


 振りの速さが少し上がっただけでも凄いが、それ以上に切れ味、武器攻撃力が段違いに上がっている。


 いくら俺自身のレベルが高いと言っても、ボスダンジョンの敵を、ウィークポイントを斬ればほぼ一撃で倒している。


 レッサーデーモンを、アークデーモンを、オルトロスやケルベロスを、俺は片っ端から斬り倒していく。


「お兄ちゃん、そんなに飛ばして大丈夫?」

「安心しろ! このボスだけは、ここのボスだけは誰にも渡すわけにはいかないんだ! ギルドはいない筈だけど、他のプレイヤーがいたら容赦なく俺はPKするつもりだからな!」

「……お兄ちゃん……うん、解ったわ!」


 背後から聞こえる和美の声は、最初は感極まったような、でもすぐに力強い声に変わる。


 俺はキマイラの体を両断。奥へ進むと、鉄の門が見える。


「よし、ボスの部屋だ。行くぞ!」


 勢いよく扉を蹴り開けて、俺はドーム状に灰色のレンガが積み上がった大広間で、ボスモンスターと対峙した。


「象?」


 そこにいたのは象の獣人だった。


 身長は約三メートル。


 だが横に奥行きにも広く、とにかくデカイ印象を受ける。


 HPバーの上に表示された名前はガルネシャ。


 一〇界以降のボスのレベルは界数+二五だが、果たしてガルネシャのレベルは、なんと五〇だった。


 ここからのボスは、界数+三〇レベルらしい。


「でもなぁ、退くわけにはいかねぇんだよ!」


 俺は超高速で疾走。

 一界のボスを倒した時から変わらない。

 俺は、いや、俺達は敏捷値を徹底的に鍛え上げた。


 スピードだけなら、一千万人のプレイヤー中最速のうちの一人に数えていいかもしれない。


 象の獣人は裸で、硬い皮膚の上からでも分厚い筋肉が見て取れるほどに体全てが太い。


 手に武器はなく、だが人間的な手の平は、城壁も一撃で破壊しそうなほど巨大な拳だった。

 スキャンスコープを使った澪奈が、後ろから叫んでくれる。


「お兄ちゃん、そいつの弱点は炎と雷よ! 澪奈、あたし達も」

「うん!」


 先手必勝。

 敵の分析は戦いの中ですればいい。

 俺は、様子見なしでガルネシャへ斬りかかる。


「ヒート・ブレイク!」


 俺の刀身から炎が噴き出しガルネシャを斬りつけると同時に爆炎が巻き起こる。


「ヒート・スプラッシュ!」


 間髪続けて発動する音速の連撃。

 目にも映らぬ音速の太刀筋で、ガルネシャの分厚い皮膚に赤いラインを引いて行く。

 ガルネシャはたまらず雄たけびをあげて硬直した。


「ヒート・ブレイク! そしてヒート・エッジ!」


 再び爆炎の刃を胸板に叩きつけて、でも燕丸の刀身は炎をまとったままだ。

 ヒート・エッジ。

 自身の通常攻撃力を上げると共に炎属性を負荷する補助技だ。


「メテオ・アーツ!」


 澪奈がライダーキックよろしく飛来。

 ガルネシャの額に飛び蹴りをブチ込んで、空中バック転をキメながらガルネシャの背後へ回り込んだ。


「フレイム・バースト!」


 追い付いた和美が至近距離から、ガルネシャの左わき腹に攻撃魔法を炸裂させる。

 見た目通り、さすがに防御力が高くて、HPバーの減りが小さい。

 でも負ける気なんてしない。

 負けてなんてやらない。

 こいつを倒せば、和美に薬を、


『■■■■■■■■‼』


 ガルネシャが背後の澪奈に裏拳を振るった。

 澪奈はパリングをしようとしたんだと思う。

 かわさず、ガルネシャの拳に自分の拳を打ちこんで、澪奈の体は人形のように吹きとんだ。


「澪奈!? ぐっ!」


 続けてガルネシャの左拳が俺の胸板に突貫してくる。

 俺は燕丸で受け流そうとして、車にでもはねとばされたような衝撃に全身を持って行かれた。

 回転する視界。上下の感覚を失いながら、俺は部屋の壁に叩きつけられた。


「お兄ちゃん、スキャンスコープの情報が更新されたわ! こいつ、パリング、受け流し、迎撃を無効にするわ。防ぐには、回避するしかない!」

「まじかよ……」


 叩きつけられた壁からずり落ちた俺は床に膝を屈する。


 一撃でHPが半分近くまで減っている。


 それは澪奈も同じだった。


 急いで回復アイテムを使おうとするが、体が動かず、俺は倒れ込んだ。


 視界の左上、俺のHPバーに『気絶』という文字が表示された。


 状態異常・気絶。

 ゲーム的には本当にプレイヤーが気を失うわけではないが、気を失ったように一切動けない。


 澪奈も同じなのだろう。

 反対側の壁に背中を預けたまま、ぴくりとも動かない。


 つまり、今はガルネシャと和美のタイマンということだ。


「和美! 俺らの気絶が治るまで逃げ回れ、時間を稼ぐんだ!」

「大丈夫よお兄ちゃん!」


 和美は魔法の杖かわりの槍を構えて、自信に溢れた声を上げる。


「ようは全部避ければいいんでしょ? なら時間稼ぎなんてしみったれたこと言うんじゃないわよ♪ さぁ来なさいよ長鼻野郎。あたしが倒してあげるわ!」


 和美が加速。

 ガルネシャへ真っ直ぐ突っ込んだ。


 吠えながら、ハンマーのように拳を振りおろすガルネシャ。対する和美は、紙一重の体捌きでかわして、


「サンダー・バースト!」


 ガルネシャが小さく泣き声を上げる。和美を狙って、腕を振るう。和美はかわして、また至近距離から攻撃魔法を放つ。


 ガルネシャの攻撃は止まらない。


 連続して小柄な和美を潰そうと殴りかかり、つかみかかり、腕を振るい、殺そうとする。


 なのに和美はその全てを華麗なステップと舞うような体捌きで回避。


 ガルネシャの腕を、すりぬけるようにしてそばから離れない。そして攻撃魔法を叩きこむ。何度も、何度でも、そしてTPが溜まると、


「ヴォルケーノ・ストライク!」


 溶岩混じりの業火が、爆発したような勢いでガルネシャを包み込んだ。

 ガルネシャの巨体が浮いた。

 それを見越していたかのように、和美は一歩踏み込んで槍を突き出した。


「バースト・ヒット!」


 和美のレアスキル。


 三倍のMPを消費する事で、魔法の威力を二倍にあげるスキルだ。


 和美の槍の穂先から生まれた火炎が、ガルネシャに休む間を与えない。


 『無双の戦乙女』


 俺の脳裏に、和美のネット上における二つ名が思い起こされた。


「あたしはあんたを倒す! そしてまた」


 和美が跳躍。仰向けになって倒れたガルンシャの顔面に着地して、力強く槍を突き立てた。


「お兄ちゃんと一緒に学校へ行くわ! フレイム・バースト!」

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