第45話 いざ!


 澪奈も加わって、俺ら三人は新しく行けるようになった一九界のボスダンジョンに速攻でチャレンジしていた。


 俺らの目的は、二〇界のボスを倒す事。


 一〇の倍数の二〇界。


 そこのボスなら、ファラオ同様、強敵だろう。


 そこで一九界のボスを倒して、レアスキルかレアアビリティを手に入れよう。そう思ったのだ。


 結果は順調そのもの。


 自分で言うのもなんだが、そもそも和美と俺はネトゲ界でも超有名なコアプレイヤーだ。


 オンラインRPGを知り尽くした俺と和美にクリアできないゲームなんてあるわけがない。


 それに今は澪奈もいる。


 元々の運動神経と動体視力で、ゲーマーというよりも本物の戦士としての実力で、澪奈はモンスター達を圧倒する。


 その姿は、まるでH2が生まれる前のテレビゲーム時代、格闘ゲームを一フレーム一ドット単位で見切って戦うプロ格闘ゲーマーのようだ。


 回避系スキルではなく元々の回避技術で敵の攻撃をかわし、


 格闘スキルのアシストではなく、元々の戦闘センスで敵のウィークポイントだけを的確に殴り、蹴り、投げて壁や床に打ちつける。


 まるで米軍の特殊部隊がFPSをやっているような風情だ。


「よし、ボスの部屋に来たぞ」

「いくわよお兄ちゃん、澪奈」

「レアスキル、ゲットするよー♪」


 大きな鉄の門を開けて……俺らは愕然とした。


「これは……」


 なんと巨大なドラゴンをプレイヤーの軍勢が包囲していた。

 詳しく観察する前に、横一列に並んだ騎士達が俺らに武器を構えて威嚇する。


「なんだ貴様らは!」

「ここは紅の団の場だ。そうそうに立ち去れ!」

「っ」


 俺はすぐ近くの、彫刻が施された壁に登って、やや高い視線で状況を確認した。

 そして驚く。

 ギルドは、全員で一〇〇人はいそうだ。

 ギルドは三列に分かれていた。


 まず一列目、戦士部隊が直接ドラゴンの下半身を剣や槍で攻める。


 そして二列目、魔法使い部隊が、使用には時間のかかる大呪文を詠唱するたびに、斜め上、ドラゴンの上半身目がけて魔法を放つ。


 最後に三列目、弓兵部隊が常にドラゴンに向けて矢を放つ。


 これを一チームとして、二つのチームがドラゴンを挟みうちにしていた。


 片方のチームにドラゴンが気を取られば、もう片方のチームはやりたい放題。


 攻められているチームは、防御に徹して時間を稼ぐ。


 そしてそれらとは別に、俺らのように後から来たプレイヤーが戦闘に参加できないよう、人間バリケードを張るチームがいた。


「おい、俺らも参加させろよ!」

「駄目だ、この場は紅の団のものだ。ボスの経験値も、金も、全て我々のものだ。それがいやなら、我々と戦うか?」

「言っておくが、我らに目を付けられれば、今後のプレイにおいて、常に一〇〇人のプレイヤーに命を狙われるものと思え」


 そう言われては、言い返すことができない。

 いくら俺でも、一〇〇人のプレイヤーキラーに襲われれば、確実に殺されるだろう。


 駄目だ。

 本命である賞金一〇億円の為には、それだけは避けなくてはならない。

 結局、俺らはただ黙ってギルド、紅の団がドラゴンを狩る光景を見守るしか無かった。


   ◆


「よし、本日の戦闘はこれで終了とする。これより二〇界へ上がり、街を探索したのちに」


 リーダーらしく人の指示を俺が盗み聞きしていると、他のパーティーを通せんぼする、横一列に並んでいた連中が俺をどやしつける。


「お前らはさっさと帰れ!」

「ほらのいたのいた」


 剣で追い払われて、俺らは仕方なく帰ることにする。


 それでも、ペガサスの羽ですぐに街へ帰るのはやめた。


せめてこのボスダンジョンを探索して、宝箱や経験値を得ようと、俺らはボス部屋を後にした。


   ◆


「このままだとまずいな」


 いつものように、俺らは街の酒場で作戦会議だ。

 俺はネットの掲示板のスライドさせながら、溜息を漏らす。


「そうね、あたしらは三人。あっちは一〇〇人でしょ? 敵うわけないわよ」


 流石の和美も、ジュースの入ったグラスを乱暴にテーブルに置いて、息をついた。


「ファラオを倒したおかげで資金だけは豊富だけどね。とりあえず今日の探索でミスリルが手に入ったから。これで刀利君の刀を鍛冶屋で錬成しよっか?」


 俺らは一〇界のファラオを倒した時に莫大過ぎる軍資金を手に入れている。

 その資金で一一界の鍛冶屋に依頼し、俺は雀丸にかわる愛刀、鶴丸を装備している。


「そういえば俺の鶴丸って、一〇界で手に入れた奴なんだよな。あれからさらにもう一〇界進んだし、そろそろ替え時か」

「刀は普通には売っていないから、仕方ないよ。刀の材料になる金属も限られているし」

「ああ、じゃあ鍛冶屋に、っと、おいこれ」

「「ん?」」


 俺が見つけたのは掲示板のとある書き込みだ。


「ギルドが明日の午後、二〇界のボスダンジョンに攻略遠征しに行くってあるぞ」


 組織は大きくなればなるほど力が上がるが、その分情報も漏洩しやすい。


「ていうことはお兄ちゃん」


 俺は大きく頷いた。


「ああ、明日の午前、ギルドが来る前に俺らで二〇界を攻略するぞ」

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