第44話 妹のために!
澪奈の家は、俺の住むマンションからは一駅離れた場所に建つ、普通の一軒家だった。
「ただいまー」
玄関を抜けると、妙にどぎまぎしながら俺は足を上げた。
「な、なぁ本当にいいのか?」
「うん、今日はみんな軍の基地務めだから。お母さんとお婆ちゃんも帰りが遅いから
お父さんとお爺ちゃんは今日は軍の基地だし、今夜はあたし一人なんだ」
「一人!?」
「うん、ちょっと待ってて、ひいお爺ちゃんに」
そう言って澪奈は奥の部屋に引っ込むと、仏壇のお鈴を鳴らす音が聞こえた。
「ただいま龍徒おじいちゃん、じゃああたし晩御飯の用意するから」
仏壇があるであろう部屋から出て来ると、澪奈は俺をキッチンへと案内してくれた。
◆
澪奈俺に、ナポリタンとシチューを作ってくれた。
澪奈の家はいわゆるアイランドキッチンで、綺麗に整頓されたキッチンがリビングの中にあった。
「うまい」
「ほんと? ありがとう♪」
前に、ゲームの中で澪奈の料理を食べたが、料理スキルを持っているプレイヤーなら、しかるべき手順を踏めばそれなりの味にはなる。
でも、澪奈はリアルでの料理の腕もよかった。
よく煮込まれたシチューの野菜と肉はやわらかく、両方噛むと内側からうまみ成分がじわぁっと口の中に広がる。
ナポリタンもちょうどいいゆで加減だ。
うん、澪奈は将来いいお嫁さんになるな。
「ねぇ、刀利君」
俺が澪奈の料理をひたすら食べていると、澪奈が口火を切る。
「余計なお世話かもしれないけど、和美ちゃんのこと、今より大事にっていうか、甘やかしてあげたほうがいいと思うの?」
「ん、なんでだ? あいつは今でも十分わがままだし甘やかしているぞ?」
「それはその、あたしが来ちゃったから、きっと寂しいと思うの」
「澪奈が来たから寂しい? 普通逆じゃないか? 人が増えたら嬉しいだろ?」
「うん、でもね、和美ちゃんって、いつもあの病室に一人きりでしょ? 三人でゲームをしている時はいいけど、私と刀利君が病室から出て行く瞬間、和美ちゃんはどんな風に思っているのかな?」
「それは……でも今までだってずっと」
「それは刀利君一人だからだよ」
澪奈は、真摯な眼差しで俺と向き合う。
「今までは和美ちゃんも刀利君も一人だった。一人で病室に来て、一人で帰って行く。でも今は私がいる。三人で遊んでいたのに、和美ちゃんだけ病室に残して、あたしがお兄ちゃんの刀利君を連れて出て行くのって、和美ちゃんにとってどんな気持ちなんだろうって、そう考えたらね、なんだか申し訳なくなっちゃったの」
「…………」
澪奈に言われて、俺はだんだんそんな気がしてきた。
二人で遊んでいたのが分かれるのと違って、三人で遊んでいたのに、自分だけ置いて行かれる、それは寂しそうだ。
そう思うと、今すぐ和美の側にいてあげたくて、胸がもやもやする。
にしても澪奈、よくそんなことに気付いたな。
なんていうか、素直に凄くいい子だと思う。
「だから」
澪奈がテーブル越しに、すっと俺の顔を覗き込んで来た。
「がんばってね、お兄ちゃん♪」
澪奈は、太陽のようにはじける笑顔が、最高にまぶしい少女だった。
◆
ハーフ・ハンドレッドの、神殿内にて、
「あれ? お兄ちゃんもう来てたんだ?」
「おう、ちょっと暇になってな」
俺の前に現れた和美は、辺りを見回す。
「澪奈はまだ来てないんだ?」
「みたいだな、それまでネットの掲示板でも見ようぜ、実はギルドについての書き込みがけっこうあってさ、これ見てみろよ」
「なになに?」
実際は、俺が少し早めにログインして、澪奈は少し遅めにログインすると話しあっていた。
和美がログインした時に、俺と澪奈が揃っているとおもしろくないだろう。
それが澪奈の判断だった。
病室を一緒に出た俺と澪奈が、その後もずっと一緒にいたわけじゃない、という風に見せた上で、和美と俺が二人きりになる時間を作ろうと言うのだ。
澪奈は、本当に細かいところまで気の回る女の子だ。
「うわ、いつのまにか一七界と一八界のボスまでギルドに倒されている……へぇ、ギルドの名前は紅の団かぁ、なんか単純」
空間に開いたウィンドウを眺めながら表情を変える和美を眺めながら、俺は心に決めた。
二〇界のボスは俺が倒す。
そして、和美に薬を。
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