第42話 ボーナス3000万円!


 晴れ渡る太陽の下。

 草原で和美がトロールのハンマー攻撃をかいくぐり、トロールの股下をスライディングでくぐった。


 「フレイム・バースト!」


 スライディング体勢のまま、和美は頭上のトロールを炎で食らい尽くした。


 対象との距離が魔法攻撃力に直結する魔法戦士である和美は、戦士のように相手の攻撃をかわし、捌き、そして至近距離から攻撃するのを得意としている。


 とはいっても、厳密には魔法戦士だからではなく、和美が元々運動神経がいいため、魔法戦士という職業との相性がいい、と言った方が正しいだろう。


 現実の体が、例え自力で経てない程に弱っていようと、運動神経を司る脳味噌に問題はないのだ。


 この仮想世界でなら、和美は昔のように走り跳び回れる。


 自身の病を忘れることができる。


 でも、仮想世界は仮想世界だ。


 仮想の世界だ。


 ここではどんなに元気だろうと、現実の和美は、あと数年で自力の呼吸すらできなくなる。


 そうなると人工呼吸器を手放せない体になって、


 自力では心臓すら動かせなくなったら、人工心肺に切り替えが必要だろう。


 そしていずれは………………


「よし! お兄ちゃん、レベル上がったわよ!」


 笑顔で、元気にガッツポーズをキメる和美。


 和美はそのまま、隣の澪奈と楽しそうにお喋りを始める。


 こんな仮初の幸せがいつまで続くのだろう?


 この幸せをいつまで続けることができるのだろう?


 和美の病は、西暦二一五〇年現在でも不治の病だ。


 でも、進行を遅らせる薬を使えば、生きている間に治療法が見つかるかもしれない。


 三千万か……


 ゲームのお金をそのまま現実のお金に換金できたらどれだけいいだろう、と俺は思ってしまう。


「ほらお兄ちゃん、次行くよ次」

「おう」


 何でもない風を装って、俺は和美の元へ足を進めた。


 俺がヤクザに襲われた時、俺は和美に全てを打ち明けた。


 和美に隠し事はしたくない。


 でも、今回はどうだろう?


 三千万あれば進行を遅らせられる薬が手に入るなんて言っても、現状俺らに三千万を用意する術は無い。


 なら、ただ和美をぬか喜びさせるだけなんじゃないだろうか?


 それは正しいことなんだろうか?


 俺の視線が、一瞬澪奈に向いた。


 澪奈の家は、普通の家庭だ。


 マンガじゃあるまいし、相談したら実は澪奈の家がお金持ちで、


『あー、それならあたしがお父さんに頼んで出してあげるよ三千万』


 なんていう展開はないだろう。


 やっぱりこのことは俺の胸の中に、



『新着情報』



 俺の視界に表示されたメッセージを指でタッチ。


 次の瞬間に表示された言葉に、俺は運命を感じた。



『今までボスを倒した賞金は界数×一〇でしたが特別ボーナスです。二〇界のボスだけはハーフ・ハンドレッド累計一千万本を記念して、賞金を三千万円とします。皆様、頑張って二〇界のボスを倒してください♪』



 おい、これは……


「うわすごっ、でもあたしらの借金で五億円なのよねぇ……」

「あたしも三千万じゃ、伯父さんのサルベージは難しいかなぁ」

「和美!」


 気付けば、俺は声を張り上げていた。


「わわ、な、何よ急に」

「どうしたの刀利君?」


 俺はからからに乾いた口で言った。


「実はな和美……アメリカで、お前の病気の進行を止める薬が、三千万で売っているんだ!」

「え…………」


 和美は目を見開いて、不意を突かれように口から声が漏れる。


「認可されていない薬で、数に限りがある。二、三日中なら間に合うらしいんだ、だから」


 俺は和美の両肩をつかんだ。


「俺らで倒すぞ! 絶対に!」

 

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