第41話 ギルド登場



「おにいちゃーん」


 俺は公園で、幼い和美とバドミントンをして遊んでいた。


 和美は昔から体を動かすのが好きだった。


 サッカーも、バスケも、テニスも、バドミントンも、激しく体を動かすスポーツが得意だった。

 飛び箱とか、器械体操も得意だったんだ。


「おー、ほらいくぞ」


 俺がバドミントンのシャトルを打つと、和美は正確に打ち返してきた。


 俺が変な場所に打ってしまっても、和美は犬のように楽しそうに駆けて、ネコのようにジャンプして打ち返してくれた。


 和美は、体を動かすのが大好きだった。


 体を動かしている時はいつも笑顔だった。


 俺は、そんな和美の笑顔が大好きだった。




   ◆




「刀利君、ちょっといいかしら?」

「はい?」


 その日、俺はまた和美の病室でハーフ・ハンドレッドにログインしようと病院へ訪れていた。


 俺は病室から少し離れた廊下で、看護師さんに呼び止められ……その話をされた。


「病気の進行を止める薬ですかっ?」

「しっ、静かに」


 看護師の女性が唇の前で人差し指を立てて、俺は慌てて自分の口をつぐんだ。


「アメリカのドクターが作った薬で、日本はおろかアメリカでも認可が下りていないから、手に入れるにはそのドクター個人から直接譲ってもらうしかないの。でも今回、そのドクターが今、手元にある薬を一つ三千万円で売るって」


 俺は喉が固まった。


「さん、ぜん……まん」

「入札が凄い勢いで、たぶんあと二、三日で無くなるわ。普通の人に手が出る金額じゃないけれど、とにかく伝えるだけは伝えておくわね。じゃあ」


 看護師の女性は立ち去った。

 その足音が遠ざかる中、俺は無理だと解っていても、必死に頭を使わずには居られなかった。


 ハーフ・ハンドレッドの世界。


 その一七界で、俺ら三人は神殿にあるクエスト掲示板で、めぼしいクエストがないか探していた。


 けれど、俺の目はクエストの内容なんて読んでいなくって、ひたすら金策の道を探していた。


 ファラオを倒すと、俺らのアイテムボックスには部屋の金銀財宝が、換金アイテムとして入っていた。


 それらを換金した結果、俺らのレベル上げは格段に進んだ。


 常に街で手に入る最強装備で、戦闘に必要なアイテムを持てるだけ持ってフィールドに出られるんだ。


 これほど楽なことはない。


 でも不自然な事に、俺ら三人は一一界から一六界までのボス退治を、他のパーティーに先んじられていた。


 ソレは別にいい、と俺は心の中で被りを振った。


 ボスを倒すと、界数×一〇万のお金がトライアングル・エニックスから支払われる。


 今、ハーフ・ハンドレッドは世界中で一千万本も売れて、トライアングル・エニックスには何千億という利益が生まれている。


 賞金一〇億円を含めてもはした金だろう。


 でも、ボスを倒しても貰えるのは一〇〇数十万。とてもじゃないが三千万には足りない。


 ボスを倒して三千万溜めるには、今後一〇界のボスを全て俺らだけで倒すつもりでないといけない。


 でも、それはあと二、三日でどうにかなる事柄じゃない。


 薬を手に入れるのは無理なのか……


「おい聞いたかお前。何でもこのゲームにギルドが生まれたらしいぞ」

「は? どういう事だよ?」

「だからさ、最近のボス、全部同じパーティーが倒しているだろ? あれってパーティーじゃなくてギルドらしいんだよ」


 背後の噂話に、俺は耳を傾けた。


 ボスを倒したのがギルド?


 ギルドは、パーティーのさらに上のチームだ。

 ソロプレイヤーが数人集まってパーティー。

 そしてそのパーティーがいくつか集まった大規模チーム、それがギルドだ。


 例えば、この前のファラオ退治。


 俺らを含めて、あの時は六つのパーティーが集まった。

 あれらが全て組めば、それはギルドになる。


 ただし、ギルドは人数が多すぎて、賞金一〇億円を山分けすると額が安くなってしまう。


 だから発売前から、このハーフ・ハンドレッドにギルドができるのは、ゲームがクリアされて、大会が終わってからだろう、と言われていた。


 はずだったが……


「でもよほら、仮に一〇〇人のギルドなら一人一千万はもらえるだろ? どうせオールスターパーティーに一〇億円全部持って行かれるなら、確実に一千万もらったほうがいいって連中の集まりだろ?」

「確かに、一千万でもサラリーマンの年収数年分だもんな」


 このハーフ・ハンドレッドに……ギルドが?


「おい」


 俺が言うまでも無く、和美と澪奈も頷いた。


「聞いたわお兄ちゃん」

「まさかこのゲームでギルドを作る人がいるなんて……」


 澪奈は眉尻を下げて、声のボリュームを落とす。

 俺は思わず眉間にしわを寄せて、歯ぎしりをした。

 

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