第40話 忘れられた復讐者

「そう、俺様はあの」

「誰だっけ?」


 まるで記憶になかったのだから。


「誰だっけ? 澪奈知っている?」

「あたしも知らないなー、えーっと誰?」


 黒の団のリーダーが、こめかみをぴくぴくさせながら、モザイクが必要なレベルで顔を引きつらせている。


 うわぁ、ハーフ・ハンドレッドが感情エフェクト豊富と言ってもギャグ漫画みたいな顔だなぁ……

 他のメンバーも兜を脱いだが、全然わからん。


「ちくしょうが! 俺だよ俺!」


 リーダーが兜を床に叩きつけ、狂乱しながら怒声を飛ばす。


「一界のボスのゴブリン王を倒す時、てめぇらに利用されたバルド様だよ!」


 澪奈が、

「じゃああたしは知らなくて当然だね」


 和美が、

「お兄ちゃん。あんな人いたっけ?」

「いや、ゴブリン王は俺と和美のベストコンビネーションで華麗に倒したはずだ。あんなブサイクはいなかったはずだぞ」

「いたよ! てめぇらに盾にされて散々利用されただろ!?」


 目を剥いて怒鳴るブサイクを眺めながら、俺は必死になって記憶の扉を開いた。


「ええっと、確かゴブリン王は部屋にあった石像オブジェクトを盾にしながら攻略するステージだったのは覚えているんだけど」

「他のプレイヤーを盾にした覚えなんてないわよ!」

「てめぇら頭にどんなフィルターかけてんだ! おおん!?」


 リーダーは夜叉の形相で剣先を床に何度も叩きつけて地団太を踏む。


「俺様はなぁ! ネトゲ好きのキャバクラのお姉ちゃんにファースト勝利を君に捧げると言って一界のボスを倒したらアフターにできる約束だったんだ! そうしたら俺はそのまま彼女をお持ち帰りして金玉が痛くなるまで●●ちゃんの●●●のナカに●●●●●●」


 興奮して聞くに堪えない下品な言葉を並べたてるリーダー。

 和美が顔を真っ赤にして犬歯を剥き出しにする。


「あんた頭おかしいんじゃないのエロゴリラ! 一回洗濯機の中で溺れなさい!」


 澪奈は目を点にして、頭上に疑問符を浮かべている。


「ほえ? ねぇねぇ和美ちゃん。ナマとかナカとかって何?」

「えっ!? そ、それはさ、ホラ、ねっ?」


 体は動かないが、声がしどろもどろになって表情を崩す和美。


「ていうかなんでベッドの上から動けないお前が解って澪奈が解らないんだよ? お前普段ネットで何検索しているんだよ?」

「なななな、なんだっていいでしょ! お兄ちゃんのヴァカ!」

「てめぇらいい加減にしやがれぇえええええええ!」


 リーダーが襲い掛かってきて、漆黒のロングソードが俺らの首を横薙ぎに切って行った。


「ぐっ!」


 俺のHPバーが消滅。

 死んだ事で状態異常が解けて、俺の体は時間が動き床に倒れた。

 視界の端で、和美と澪奈も倒れる。


「げひゃひゃひゃひゃひゃっ!」

「無双の戦乙女に最強の無課金ユーザーもたいしたことねぇなぁ!」

「あー助かったー」


 俺は起き上がり、首を回した。

 リーダーの顔が、驚愕に歪む。


「なっ、なんでてめぇら……」


 続けて和美と澪奈も起き上がり、黒の団は震えながら三歩退いた。


「俺ら三人はクエストでレアアイテム、レイズドールを持っているんでね。死んだらHPを半分の状態で生き返ることができるんだよ。そんで死んだから、もうタイムボトルの効果は消えた!」


 俺らは武器を構えて、黒の団へ余裕の表情を見せつける。


「ぐ、ぐぐぐぐ~」


 悔しがるリーダーに、俺は一言。


「それよりお前らいいのか? そんなにボスの近くにいて?」

「何?」


 ボスにトドメを刺そうとしていた為、黒の団は全員、時間を止められたボスのすぐ近くにいる。

 でもだ、


「そろそろ、五分経つだろ?」


 俺の視界に映る時計の秒表示が、その時を告げた。


『■■■■■■■■■■■■■■■■■■‼』


 ファラオの杖が、黒の団達を人薙ぎでガラスへと変えた。


 そして黒の団を攻撃した、ということは隙でもあった。


 地面に並ぶ黒の団を薙ぎ倒すべく、床を滑るようにして下へ振るわれた杖。


 俺ら三人はファラオの無防備な顔面目がけて跳躍。


 三人同時に奥義を発動させた。


   ◆


 ファラオの巨体が砕け散るのを確認して、俺らは獲得経験値やお金を確認。


 残っているパーティーが俺らだけなので、必然的に全て俺らで独占した状態になる。


 でもレアスキルやレアアビリティの獲得表示が無い。


 レアアイテムだろうかと、ウィンドウの表面を指で横へこすって、獲得アイテム欄を確認した。


 すると、


「なんだ?」


 突然部屋を取り囲む金銀財宝が揺れ動いて、そして止まる。


 同時に、俺らの獲得アイテム欄に、とんでもない変化が現れる。


「「「え? え、えええええええええええええええええ!?」」」

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