第39話 真のPK


 戦闘は一時間にも及んだ。


 それは無限にも思える消耗戦だった。


 ファラオのHPはレッドゾーンに入っている。


 しかし皆の回復アイテムは尽き、HPとMPも半分以下に減っている。

だが、最大のチャンスが巡ってきた。


「ええい、これだけはもったいなくて使いたくなかったが仕方ない! タイムボトル!」


 黒の団の一人が、虹色のボトルを地面に叩きつけた。

 と、同時に俺ら全員の体が動きを止めた。


「こ、これは!?」


 いくら力を入れても、俺の体は時間が止まったように動かない。

 俺だけじゃない、ファラオも完全に動きを止めて、杖を握ったまま立ちつくしている。

 黒の団が説明を始めた。


「超レアアイテム、タイムボトル。これを使うと自分のパーティー以外の動きを五分止めることができる。当然敵は防御なんてできない」


 白の団が歓声をあげた。


「おおっ」

「凄い!」

「トドメをもっていかれるは悔しいけど頼んだ」

「俺らは動けない。早くファラオを倒してくれ」


 トドメを刺したプレイヤーはやや多めに貰えるが、そもそももらえる経験値はパーティー全員で共通。


 複数のパーティーで倒した場合、戦闘への貢献度でどのパーティーがどの程度もらえるかが決まる。


 トドメを持って行かれても、自分達が十分に戦ったと思えるのであれば問題無い。


「任せてください皆さん! さぁみんな、我々黒の団の力を見せつけるんだ!」

『おー!』


 テンション上がっているなぁ……


 まぁタイムボトルなんていう超レアアイテム使うわせちゃったんだから。トドメぐらい刺させてあげよう。


 黒の団のリーダーである剣士と槍兵が武器を掲げ、

 弓兵が矢をつがえ、

 魔法使いは高位呪文の準備をし始める。


 そういえばタイムボトルって、確かこの一〇界のダンジョンにあるんだったよな?


 掲示板にも確か、プレイヤーキラーに盗られたってあったし……


 黒の団の剣と槍と矢が、白の団のプレイヤーを貫いた。


 特大の雷が、白の団のプレイヤーを焼き焦がした。


 白の団は悲鳴よりも先に、信じられないモノを見る目で顔を強張らせてから、ガラスのようにして砕け散った。


「………………え?」


 俺も、信じられないようなモノを見て意識が凍りついた。


 こいつら何やってんだ?

 いや、見ればわかる……そうだ、そういうことだったんだ。


 俺の中で、一つの答えが浮かんだ。


 そもそも今回、俺らを集めたのは黒の団だ。


 掲示板の書き込みには、プレイヤーキラーにタイムボトルを盗られたってあった。


 そして黒の団は今、タイムボトルを使った。


 他のパーティーがプレイヤーキラーだったり、黄の団が黒の団にあからさまな疑いをかけていたから気付かなかったけど、赤と青の団がプレイヤーキラーだったんだ。


 なら、黒の団がプレイヤーキラーでもおかしくはない。


 黒の団のリーダー。


 常に敬語で礼儀正しかったそいつの鎧が、カチャカチャと音を立てて揺れる。


「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! てめえらほんとに馬鹿だよなぁああああああああああああああああ!」


 リーダーだけじゃない。

 黒の団の四人が、一斉に下卑た笑い声を上げた。


「おいトウリ! 待ったぜこの瞬間をな! 俺が誰だかわかるか? 今教えてやんよぉおおおおおお!」


 狂気に狩られたような声を張り上げながら、リーダーがフルフェイスの兜を脱いだ。

 その顔を見て、俺は息を吞んだ。

 なぜなら、だって、そいつの顔は……


「そう、俺様はあの」

「誰だっけ?」


 まるで記憶になかったのだから。


「誰だっけ? 澪奈知っている?」

「あたしも知らないなー、えーっと誰?」


 黒の団のリーダーが、こめかみをぴくぴくさせながら、モザイクが必要なレベルで顔を引きつらせている。

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