第38話 ピラミッドのボス討伐


「ふぅ、酷い目に遭いましたね。でも皆さん、このダンジョンもかなり奥まで進みました。経験上、きっとボスの部屋はすぐ近くです。慎重に行きましょう」

「待ちな!」


 黒の団のリーダーの言葉に水を差すのは、やっぱり……


「どうせてめぇも全員PKなんだろ? 俺らは騙されないぜ! これ以上人殺し野郎とい一緒にいられるか! 俺らは単独で行かせて貰うぜ」


 リーダーを皮切りに、黄の団の五人は先の道へ勝手に歩き出してしまった。

 すると白の団の一人が慌て始める。


「あ、待って! そこは」


 黄の団の足下の床が無くなった。

 黄の団は床に吸い込まれた。

 長い悲鳴の後、ガラスが砕けるような音がした。


「……ど、同時に四人以上歩くと発動するしかけがって……言おうと思ったんだけどなぁ……」


 赤の団、青の団に続いて、黄の団がリタイアした。


「で、では皆さん参りましょう」


   ◆


「ここがボスの部屋か」


 黒の団、白の団、そして俺らが最後に辿り着いたのはやはりというか、王の棺の間だった。


 周囲には兵士の形をした黄金の象が立ち並び、他にも黄金の剣や盾、調度品が壁際に並べられている。


 そんな宝の山の中、部屋の奥には、宝石をちりばめた黄金の棺が鎮座していた。

 地響きで俺らを歓迎。


 ドドン ドドン と断続的に部屋が揺れる。


 地響きが収まると、今度は黄金の棺が震え、中の空気が破裂したようにして棺のふたが天井まで吹き飛んだ。


 重々しいフタが床に落ちて跳ねまわる。


 フタが死んだようにして床に寝そべると、棺の中から巨大なミイラの手が現れる。


 手の大きさは、およそ常人の二倍以上。


 そこから頭を出し、肩を出し、上半身まで這い出して、とうとうボスがその全貌をあらわにする。


 その姿はまさしくファラオ。


 身長三メートルを越える、細身で長身のミイラは、全身の至る部位に黄金の装飾品をまとい、頭にはコブラを模した王冠を被っていた。


 右手には上の端に赤いルビーをはめこんだ、黄金の杖が握っている。


 風化しかけた包帯だらけの顔の中、二つの瞳が不気味赤く光る。


『■■■■■■■■■■■‼』


 亡者の絶叫が部屋中の空気を震撼させた。


「「先手必勝!」」


 黒の団と白の団から二人の槍兵が一気に駆けだした。


 それを見て取ったファラオは杖を振るう。

 空間から吹き上がる爆炎。

 二人は全身を炎に吞みこまれて吹きとんだ。

 HPバーが一気に三分一は減った。


 その間に黒と白の団の、別のメンバーが一人ずつ、ファラオの背後へと回り込んでいた。

 不意をついたおかげでだいぶ近くまで距離を詰めたがそこまでだ。

 ファラオは杖を、今度は武器として振るった。


 横薙ぎの杖が、二人をまとめて薙ぎ倒す。

 今度もHPバーが一気に三分の一削られる。


 それもそのはずだ。

 ボスのレベルは界数+二〇。

 ここは一〇界。

 ならファラオのレベルは三〇のはずだ。

 でもファラオのHPバーの上には、

 『ファラオ レベル:35』

 とある。


 ちょうど一〇の倍数である一〇界からは、界数+二五になるらしい。


 俺ら程ではないが、それなりにレベルの高い黒と白の団のメンバーが一撃でHPを三分の一も削られる攻撃力は強力だ。


 でも、今ので少しわかった。

 ファラオは離れた敵には魔法攻撃。

 近くの敵には杖の打撃攻撃。

 遠近両方に対応したボスだ。


「皆さん! 戦士は前へ! 術師は下がって! ただし戦士は固まらないで下さい!」


 黒の団のリーダーが声を張り上げた。


 それでいい。

 ファラオの杖攻撃は横に薙ぐとかなり攻撃範囲が広い。

 かたまると一度にやられてしまう。


 三六〇度囲むようにして戦士が包囲。

 杖攻撃でやられないように配慮しながら攻撃。

 ファラオを抑えておいて、術師隊に思う存分攻撃してもらうとしよう。


 そこから俺らの戦いは始まった。


 ファラオは強かった。


 足下をちょろちょろする俺らに、連続して破壊的な杖を振るい、黒と白の団のメンバーは何度も死にそうになった。


 攻撃しては回復アイテムを使っての繰り返しだ。


 敏捷値を重点的に鍛えた俺ら三人は杖を回避したが、一撃でも食らうと半分近いHPを持っていかれた。


 それでも背後で控えている黒と白の団の僧侶が、俺らに回復魔法をかけてくれるので、ピンチにはならない。


 でも大変なのは俺ら戦士だけじゃない。


 ファラオは離れた場所で呪文を詠唱し続ける術師達へ、炎属性と土属性の魔法を浴びせる。


 灼熱と業火と、堅牢な巌の嵐が術師達を襲い、術師達の隊列は何度も崩れ、何度も死にそうになった。


 誰もが攻撃と回復アイテムの使用を繰り返し、誰もが生と死の間を行き来する。

 それでも俺は落ち着いていられた。


 澪奈が高い確率で、ファラオの杖をパリングで弾く。

 和美が高い敏捷性でファラオのふところに潜り込み、至近距離から魔法を打ちこむ。

 俺も、おそらくは現在、全プレイヤー中唯一の装備である、日本刀の速力を最大限に生かして戦った。


 日本刀の振る速度は、剣の二倍。

 これは単純計算でも手数が二倍、二刀流と同じだ。


 しかし二刀流は片手で剣を持つ為、攻撃力が下がるという欠点がある。

 対して日本刀は、攻撃力が下がるどころかむしろ剣より高いくらいだ。


 そして俺には澪奈みたいなパリングはできないが、迎撃と受け流しはできる。


 ファラオが杖を振るってきたら、刀で受け流してダメージを軽減する。

 ファラオは時折、蹴りも使って来る。


 その時は刀の刃で受け止めてやると、逆にファラオへ若干のダメージが入る。

 白と黒の団はファラオの懐に潜り込むと、二回か三回攻撃してから防御やアイテムで回復をする。


 でも俺は、五回は攻撃できた。


 一界のゴブリン王を倒して手に入れた刀道スキルが、今の俺には最大最高の武器になっている。


「みんな! 油断せずにいきましょう!」


 黒の団のリーダーの激励に、俺らは行動で返答する。

 ファラオに一撃でも多くの攻撃を叩きこむ。

 みんなのHPはみるみる削れて、

 僧侶の回復魔法が追い付かず、

 回復アイテムもどんどん減っていく。

 ファラオのHPが尽きるのが先か、

 俺らの回復アイテムが尽きるのが先か、

 みんなの表情から、緊張感と焦燥感がにじみ出した。



電撃オンラインにインタビューを載せてもらいました。

https://dengekionline.com/articles/127533/

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