第37話 PKリタイア

「プレイヤーキラーも倒しましたし、これで安心してボスに挑めますね」


 ダンジョンを行進中、黒の団のリーダーが声をはずませながらそんな事を言うが、


「何を言っているんだ貴様。プレイヤーキラーが一パーティーだけとは限らないだろう?」


 また黄の団が水を差した。


「むしろそうやってもうプレイヤーキラーはいないと主張するところなんかが怪しいな。なぁブラックジョーカー。今回の発起人である貴様らこそが真のプレイヤーキラーなんじゃないのか? 俺らを利用して最後は自分達だけでボスを倒すつもりなんじゃないのか?」

「いえ、別に私達はそんなことは」

「ふん、どうだか」


 顔が見えない、黒甲冑と黄色甲冑の話し合いというのもはたから見ていると少しおもしろいが、黄の団の話は少しも笑えない。


 こいつはチームの輪を乱す為に来ているのだろうか?


 すると、青の団が助け船を出す。


「まぁまぁ、ブラックジョーカーの人々は一番危険な先頭を歩いてくれているんだからよ。そう悪く言ってやるなよ」

「そうです、私達はプレイヤーキラーじゃないからこそ先頭を歩いていているんです。疑うなら後ろを歩く人にすべきですよ」


 その一言で、変な空気が流れた。


 黄の団が、

「じゃあ俺ら前から二番目に」

 白の団が、

「じゃあ私達が前から三番目に」

「お兄ちゃん、あたしらは前から四番目に進むわよ」

 青の団が、

「え? じゃあ俺ら最後? 俺らプレイヤーキラーの容疑者なの?」

 黒の団……お前ら天然だな。


 などという俺の声が聞こえる筈も無く、その並びで歩いていると、また黒の団が宝部屋を見つけた。


「むむ、今度はずいぶんと縦長ですね」


 その部屋は、横幅が四メートルぐらいで、奥行きは三〇メートルはあった。


 一番奥の台座の上に宝箱が置いてあるが、今度の罠はあからさまだった。


 入口付近と一番奥は普通の床だが、その間の床がは一段下がり、とりもちのように、粘着性の液体がびっしりと敷き詰められている。


 俺はあごに手を当てて考える。


「確かこれって触れると敏捷値が一になるんだよな? 攻略法ってあったっけ?」


 黒の団のリーダーが、右手の人差し指を立てた。


「はい、私が調べた情報によりますと確か」


 その時、俺らの背後から突風が吹き荒れた。


「ぬあっ!?」


 俺の、いや、俺らの体が巻き上げられて、一斉にとりもちの上にバラバラと落下する。


 俺はなんとか着地したが、深くも刀の先が僅かに床に触れてしまい、武器が動かせない。


 今の風の威力は明らかに魔法、それも相手を吹き飛ばして体勢を崩すのを目的としたものだ。


「あひゃひゃひゃ! 俺らが攻略法を教えてやるよ。このべとべとはな、他人を足場にすればいいんだよ!」


 なんとか首を回して、肩越しに入口の方へ視線を投げると、青の団だけが入り口付近で無事だった。


 そして周囲の状況を把握。


 全員風の魔法で吹き飛ばされたが、それぞれの立ち位置や重量によって、飛ばされた距離はまちまちだ。


 みんな仰向けやうつぶせになって倒れてもがいている。


 脚から着地できたのは、俺と和美、それに澪奈と、黒と白の団から一名ずつだ。


 確かに、入口から近いプレイヤーから順に足場にしていけば、宝箱へ到達できそうだった。


「おいイエローソード! お前の考えは正しいぜ、ただし半分だけな。プレイヤーキラーパーティーは一つじゃねえ、そうさ、俺らもプレイヤーキラーなのさ!」

「くそ!」


 とりもちに触れたプレイヤーは、敏捷値が強制的に一になる。


 俺は青の団へ向かおうとするが体が自由に動かない。


 動かないわけではないが、スタスタと歩くことができず、重たい荷物でも引きずるように、ズッ、ズッ、としか脚が動かない感じだ。


「じゃあ、せいぜい俺らの踏み台になってもらうぜ! ヒャッハー!」


 立っている俺ら三人を無視して、青の団達は他のメンバーを足場にジャンプを繰り返す。


 足場として踏みつけられたプレイヤーは小さく悲鳴を上げてから、苦し紛れに悪態をつくが青の団はどこ吹く風だ。


 気にする様子も無く、やすやすと宝箱に辿り着いた。


「ヒャッハー! お宝ゲットー♪ てめぇら帰りも足場としてよろしく頼むぜ!」


 俺は、悔しそうに歯ぎしりをするしか無かった。


 数秒後、宝箱を開けた青の団が悲鳴をあげた。


 歓喜の悲鳴ではない。


 負の悲鳴だ。


 見れば宝箱から液体が噴出して、青の団は全員、その場でのたうち周り始めた。


「ぐあああ、りゅ、硫酸だぁ!」


 のたうち周ったせいで、青の団も全員とりもちに触れてしまい動けなくなる。


 なんと哀れな連中だろう。

 間抜けにも程がある

 だから彼らの不幸は終わらない。


 宝箱の真上の天井が落ちてきて、すぐ近くでとりもちに捕まっていた青の団は全員天井に全身を砕かれて神殿送りとなった。


 どうやらあの宝箱は偽物らしい。

 黒の団のリーダーが冷静に、


「あのう、それでこのべたべたの攻略方法なんですけど、氷魔法で凍らせれば力づくで砕けるそうですよ」


 和美と白黒黄の団の魔法使いのおかげで、俺らは全員助かった。


 青の団、リタイア。

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