第35話 ピラミッドの罠


 ピラミッドの内部はいかにもなソレだった。


 人間よりも大きな石灰岩の立方体を積み上げて構築された廊下は床も、壁も、そして天井も黄色くて、表面のザラザラ感までハーフ・ハンドレッドは再現している。


 ゲームクリエイターではない俺には良く解らないが、本当にこれを作ったクリエイターの皆様は御苦労である。


 砂漠の砂の匂いがする石灰岩の廊下を、黒の団を先頭にしてぞろぞろ歩く俺ら。


 なんだかんだでパーティーは俺らを含めて六パーティー。


 合計人数は二五人ぐらいだろう。

 学校の一クラスよりも少し少ないぐらいだ。

 その時、赤の団の一人が俺に耳打ちをする。


「あの、貴方『最強の無課金ユーザー』のトウリですよね?」

「ん? そうだけど」

「どうですか? この中にPK、います?」


 逆隣から、青の団の一人も距離をつめてくる。


「あ、俺もそれ、気になってたんだよ。イエローソードはああ言ってたけど、やっぱPKいます?」

「ああ、いるぜ」


 お前ら全員が容疑者だ。


「やっぱりそうですか? でもトウリがいたら大丈夫ですよね?」

「はは、それはどうかな」


 こいつ、敬語なのにトウリって呼び捨てなのか。


 たぶんこいつ、ハンドルネームにはさんづけしなくてもいいっていう習慣の扱いに困っているタイプだな。


 ネトゲの世界は身分の解らない相手と遊べるのが面白みのあるところで、だから現実世界のように目上や目下という概念が無ければ、名前に敬称、さん君づけはしない。


 ただ付けてはいけないわけではないので、礼儀正しい人はつける。


 実際、澪奈は俺や和美に君ちゃんづけしている。


 澪奈は俺と同い年らしいけど、年下の和美が澪奈を呼び捨てなのがいい例だろう。


「ん?」


 俺の前を歩く、黄の団がちらちらとこちらを見ている。


 俺、いや、赤や青の団をプレイヤーキラーだと疑っているのか?

 いや、それは全員だろう。


 この場にいる連中は、全員が全員を疑い合っている。

 この場に信じられる人は誰もいない。

 黄の団の空気の読めない発言は、実はかなり的を射ている。


 もっとも、空気を壊すから言わない方が無難だったけど……


   ◆


 このダンジョンに出るのは、雑魚のミイラ男と、少し強めのアヌビス達だ。


 でも流石に人数が人数なので楽勝すぎる。


 前衛で戦士系が押さえているだけでも敵のHPバーはどんどん減っていって、背後から魔法攻撃が雨あられと降るのだから当然だ。


「あ、皆さん見て下さい、この部屋。奥に宝箱がありますよ」


 黒の団が指を差すと、確かに誰もいない、体育館の半分ぐらいの広さの部屋の奥に、豪華な宝箱が用意されている。


「でもこの広さの部屋に宝箱が一つだけ、ちょっと怪しいですね。えーっと、皆さんの中に罠を看破できる人いますか?」


 赤の団の一人が手を上げる。


「あ、俺職業盗賊だから罠索敵できるぞ」

「じゃ、お願いします」

「おう」


 言って、赤の団のそいつは部屋の中を入り口から見回した。


「うん、OKOK。入ろうぜ」


 安全を保障するように、そいつは真っ先に部屋へ入った。

 それから隠し通路でも探すように壁を叩き初めて、俺らは部屋に入るとまっすぐ宝箱へと進んだ。

 確かに、罠は発動しない。

 宝箱の前で、黒の団のリーダーが手を上げる。


「はい、それではこの宝箱の中身なんですがどうでしょう。ここは一つ公平に順番を決めて。例えば今後はじゃんけんで勝ったパーティー順に宝箱のアイテムをもらえるとかいうふうに」


 ダダ。

 その時、急に赤の団が一斉に部屋から出て行った。

 やられた!

 俺と和美、それに澪奈はすぐに出口へ向かって駆けたが、目の前で鉄の門が落ち、俺達は完全に閉じ込められた。


「ははは! 悪いな、その部屋は入室して三〇秒経つと罠が作動する仕組みだったんだよ!」


 鉄の門の向こうから、さっきまでは敬語使っていた赤の団の声がする。どうやら今までのは演技だったようだ。


「いきなりプレイヤーキラーに当たっちまうとか、俺ら運がねぇなぁ」

「来たわお兄ちゃん!」


 体育館の半分ぐらいの広さのこの部屋。その壁にいくつもの隠し扉が現れて、アヌビス達がぞろぞろと姿を現した。


 アヌビスはこのダンジョンでは比較的強いモンスターで、倒すには少し手間がかかる。おまけに、その数が尋常ではない。


 扉からいくらか出て来るのではなく、常に出てきている。


 いわゆる、無限湧きという奴だろうか。


 一定量倒したら終わるのか、それとも一定時間しのいだら終わるのか解らないが、数が数だけに少しピンチだ。


 他の四パーティーも、完全に怖気づいている。


 お前ら本当にボス倒す気で来たの?


 まぁここは、


「和美、澪奈。ひとつレベル上げと行こうぜ」

「「OK」」


 幸いMPを回復するアイテムは豊富に持ってきている。俺らはMPの出し惜しみをせず戦う。


「サンダーレイン! フレイム・レイン! フレイム・バースト!」


 和美が全体攻撃を手当たり次第にバラ巻きながら、ときおり高威力呪文を使用。アヌビス達を焼き払って行く。


 俺も、MPを惜しまず体術を連発して、次々アヌビス達の首をはねて行った。

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