第34話 怪しい! 怪し過ぎる!

 午後五時二五分。


 ボスダンジョンの入り口にて。


 なんとまだ誰も来ていなかった。


 一〇界のボスダンジョンはもろピラミッドだが、ピラミッドの前には俺ら三人しかいない。


「おいおい日本人はいつから五分前行動ができなくなったんだ?」


 なんて俺が悪態をつくと、澪奈が不意に、


「ねぇ刀利君、和美ちゃん、あたし思ったんだけどさ。今回のメンバーにプレイヤーキラー、PKがいる可能性ってないのかな?」

「え? そりゃまぁ、なぁ?」

「あたしはあると思うよ? だってボスダンジョンなんてレアアイテムの宝庫だし、六パーティーみんなでボスを追い詰めて最後の最後に裏切るなんて、いかにもありそうじゃない? ただのボスじゃなくて強ボスならなおさらよ」


 当たり前、と言わんばかりの和美。

 澪奈は腕を組んで少し考える。


「でもプレイヤーキラーってどうやったら見分けられるんだろ?」

「そうだなぁ。まぁプレイヤーキラーとして有名になっちまったら活動しにくいだろうし、例えば……」


 和美が、


「覆面とか?」

「そうそう。フルフェイス系の兜で顔が見えなければ、毎回装備品を変えることで正体を誤魔化せるんじゃないか?」

「ふーん、じゃあ今回のパーティーにメンバー全員が顔を隠している、なんてパーティーがあったら疑うべきなんだね?」


 想像して、俺は思わず噴き出してしまった。


「くく、まぁそうだけどよ。そんな怪しさ爆発の野郎が」

「あ、いたいた。おーい、トウリさんのパーティーですかー?」

「おっ、来たか…………??」


 背後からぞろぞろと連れだって来たのは、

 赤いフルアーマー集団と、

 青いフルアーマー集団と、

 黄色いフルアーマー集団と、

 黒いフルアーマー集団と、

 白いフルアーマー集団だった。

 当然、全員フルフェイスで顔を隠している。

 

 あ、怪しすぎるぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう‼‼‼‼????


 黒甲冑が、

「いやあ、みんなとそこで会ってしまいまして。でも遅刻ギリギリですよね?」


 怪しい。

 怪し過ぎる。

 駄目だ。

 こいつらの全てが怪し過ぎて話が頭に入ってこない……

 俺の疑惑の眼差しによる全体攻撃が止まらない。


 だってそうだろ?

 どう見たってこいつら全員怪し過ぎるだろ?

 推理漫画で殺人事件の容疑者全員が包丁持っているようなもんだぞ?

 ダイイングメッセージが『やまだ』なのに現場にいる人が全員山田さんなんだぞ?

 預言者がこの道をまっすぐ行って最初に出会った人が道を示してくれるって言うから歩いたら老人会の集まりに直撃した気分だぞゴルァ!


 混乱してヤクザの向日葵のゴルァ使っちゃったじゃないかゴルァ!


「どうもー、うちのパーティー名はレッドスコーピオンズですー」

「うちはブルーウィングです」

「俺らはイエローソードだ」

「我々はブラックジョーカーと申します」

「私達はホワイトカラーズですよ」


 面倒だ、赤の団、青の団、黄の団、黒の団、白の団と呼称しておこう。


「じゃあ皆さん、行きましょうか? 先頭は発起人である我々、黒の団が務めますので」

「ちょっと待ちな!」


 そこへ水を差したのは、黄の団だ。

 黄の団の一人が、重みのある、なかなか渋い声で黒の団を指差した。


「どうも最近、PKが横行しているそうじゃねーか。この中に、そのPKパーティー、略してPKPがいるんじゃないのか?」

「何をおっしゃるのですかイエローソードさん。我々はこれから共に強敵である一〇界のボスを倒そうと志を」


「へっ、何が志だ。てめぇだってわかっているんだろ? このゲームで優勝して賞金一〇億円を手に入れられるのは一チームだけ。俺らは全員、本来は敵同士だ。まぁこの五パーティーで組んでギルドでも作るなら話は別だが、こんな大人数で組んだら賞金一〇億円が何等分される? 断言するぜ、このゲームでのチーム戦はパーティーが限界、ギルドは作られねぇ。つまり、俺らも敵同士なのさ」


 いや、そうだけどならなんであんたら来たんだよ。


「俺らはただ、みすみすボスを持って行かれるのが嫌だから来ただけさ」


 うちと同じだったー!

 ごめんね黄の団。

 俺の頭の中で頭を下げさせてもらおう。

 黄の団は黒の団を追い越し、わざとらしく振り返った。


「今回は同じヤマに乗ってやるだがな! ……なかよしこよしの慣れ合いは無しだぜ」


 かっこつけてる~ッ!

 今すごく鈍器が欲しい!

 もしくは鞭的な何かが!


「た、たはは、そうですか、はい。では皆さん、参りましょう」


 黒の団のリーダーっぽい奴は、頭を覆う兜をきまずそうにかいてから、先頭を歩いた。

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