第33話 お前らだよ!
一〇界、街の酒場にて、
「「プレイヤーキラー?」」
テーブルでご飯を食べながら、俺と和美はそろって首を傾げた。
「うん、ほら」
澪奈が自分のウィンドウを俺達に見せてくれた。
そこにはハーフ・ハンドレッドに参加するプレイヤー達が自由に書き込める掲示板が映っている。
掲示板のタイトル、書き込み内容を要約すると、プレイヤーキラーが増えているから気を付けろ。そして具体的にはこんな被害がある、と被害者たちが体験談を次々書き込んでいる。
ふ~ん、レアアイテムのタイムボトルを盗られた、ねぇ……
先に読んだ澪奈がコップを置いて説明する。
「内容をまとめるとね、他のパーティーと強力プレイ中、モンスターにトドメを刺す直前や、トラップを解除して宝箱を開ける段階で突然襲われて神殿送りにされたんだって。他にも自分のHPが下がると、襲われて神殿送りにされたとか。その人を倒して手に入れたアイテムで回復したんだよきっと」
ゲームマナーを守らない、あまりに酷いダーティプレイに俺は眉間にしわを寄せた。
「なんて下衆な連中だ。ゲーマーの風上にもおけねぇ」
「人はお金に目がくらむとかくも醜く堕落するのね」
「え? 二人がそれを言うの?」
澪奈を無視して、俺はウィンドウを指さす。
「見てみろよこの最新の書き込み『しびれ爆弾で動けなくされた間にいいモンスターを狩り盗られた』『他のパーティーの足止めをしてその隙に他の仲間がレアモンスターを狩る』」
「見てよお兄ちゃん、こっちの書き込みなんて『ドラトンをあと少しで倒せるところだったのにしびれ爆弾を使われたせいで神殿送りになっちゃった。きっとあいつらは僕らが弱らせたドラトンでレベルアップしただろう』だって! こんな酷い事をする奴がいるからゲーマー全体のイメージダウンに繋がるのよ!」
「うん完全にそれ二人のことだよね!?」
俺と和美は感情エフェクトで、頭上にクエスチョンマークを浮かべた。
「愛しい我が妹よ、僕達こんな事したっけ?」
「いいえお兄様。盗っ人野郎を退治したり仇討ちならしましたが、我々がこんな事するわけないじゃありまんの」
「ていうかさ澪奈、俺らは相手のHPをゼロにして神殿送り、つまりプレイヤーキラーはしたことないぞ。グレーゾーングレーゾン」
「うわぁ……ギリギリな発現だなぁ……」
澪奈は肩と一緒に眉尻を下げた。
「ていうか、中堅のプレイヤーが焦っているんだよ」
俺はせもたれに体重を預けながらジュースを飲み始める。
「七、八、九界のボスは他の奴らに倒されちまっただろ? 今まで力を蓄えていたプロの廃人ゲーマー達が動き出したんだ。ハーフ・ハンドレッドは全部で五〇界。そのうちもう五分の一が攻略された。今の時点でトップ集団に入っていない連中は賞金一〇億円獲得の為なら、なんでもするさ。特にこの一〇界は古代エジプト風で、ダンジョンは全部遺跡風で宝箱だらけだ」
「この界で後れを取り戻そうって、みんな必死なのよ」
するとそこへ、
「おい見てみろよ、あれ無双の戦乙女、和美じゃないか?」
「ほんとだ、可愛いなぁ」
まぁ、和美って黙っていれば美少女だからな、超スレンダーな。
離れたテーブルの男達が、俺らのテーブルに集まって来た。
「あの、和美さんですよね?」
「あのネトゲ界の戦乙女の」
和美は余所行きの笑顔を作った。
「ええそうよ。このゲームの大会を知ってね、他のゲームは休んで、今はハーフ・ハンドレッドに専念しているの」
美少女の和美にほほ笑まれて、男達は頬を緩める。
「へぇ、そうなんですか」
「でも気を付けてくださいよ和美さん。このゲーム、和美さんの偽物が現れているそうですから」
「あたしの偽物?」
「はい、なんでも和美さんの姿そっくりのアバターを作ってプレイヤー名も『KAZUMI』にしているそうです」
「そしてレアモンスターを独り占めする為に他のプレイヤーを卑怯な手で襲ったり罠にハメたりしていると」
澪奈の顔からどんどん感情が抜けて行く。
和美は真面目な顔で、目を凛とさせる。
「そんな酷い人がいるの? 解ったわ、そんな悪い奴はあたしが見つけ次第こらしめてやるわ。さっきも盗っ人達を撃退したところだし、悪人退治には腕が鳴るわ」
澪奈の顔から感情がゼロになってマイナスへ、ジト目で和美を眺めた。
「そうだ和美さん、さっきあっちで、和美さんにぴったりの告知がありましたよ」
「あたしにぴったりの?」
「はい! なんでもこの一〇界のボスは急にレベルが上がっているらしくって。それで複数のパーティーで共同で倒そうって」
俺ら三人は顔を見合わせた。
◆
掲示板を見ると、そこには今日の午後五時半。この一〇界ボスを倒しに行くから、是非参加して下さいと言う旨が書かれていた。
下に書き足した感じで、
『現在五パーティー参加決定』
とある。
「ちょっとまずいわよお兄ちゃん」
「だな」
和美が俺と澪奈の前に出て振り返る。
「ちょうど一〇の倍数のエリアはボスが急に強くなるみたいだけどさ、いくらなんでも五パーティーもいたら倒せるでしょ? 七から九界までは別に取られても言いけどさ、ミスミス倒されるのを指くわえて見ているのも癪じゃない?」
澪奈は唸る。
「そうだねぇ、じゃあ刀利君、アタシ達も参加しよっか?」
「だな。えーっと連絡先は……」
こうして、俺らもボス討伐隊に参加することになった。
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