第30話 リアルで出会う


「それは大変だったわね、ありがとう澪奈」

「え、あ、うん」


 病室で俺が和美に事の顛末を話すと、和美は視線を澪奈に合わせて感謝の言葉を残す。対する澪奈はかなり戸惑っている。


「え? 刀利君? さっきの事話していいの? 普通は妹に心配させないように黙っておくものなんじゃないの?」


 俺は下唇を突き出した。


「え~? なんでだまってるんだよぉ? それってあれだろう? 心配かけさせまいと黙っていたら後でバレてなんで教えてくれなかったのとかなってヒロインと喧嘩するアレだろ? そんなマンガ展開俺は望んでいないのだよ」

「ハッキリ言うね刀利君」


 俺はキメ顔で、


「言いますよ。言いたい事は言わないと」

「あたしも隠されるのは嫌よ。ちゃんと言いなさい」

「……う~ん、兄妹だね…………」


 澪奈は呆れた顔をした。


「でも二人の状況は解ったよ。借金の事は聞いているけど、まさか相手がヤクザでしかもあんな実力行使までしてくるような相手とは」

「そうそう、だから俺らは何が何でもハーフ・ハンドレッドをクリアしないといけないんだよ。だから澪奈には悪いけど、プレイスタイルはじっくりじゃなくて、とにかく早くクリアする方針になるけどよろしくな」


 澪奈はお金じゃなくて、あくまでも思い切り戦いたいだけだ。

 強過ぎて、若い芽を摘んでしまうからと言われた澪奈は、現実の世界だと思い切り戦えない。

 だから、澪奈にとって仮想世界は唯一自由に戦える場所だ。


「いやいや別にそんな気にしなくてもいいよ。それにあたしも賞金目当てだし」


 ちょっと焦りながら手を振る澪奈。


「え? でも澪奈確か」

「ほら、本当に思い切り戦いたいだけなら他のゲームでいいじゃない? でもなんでわざわざハーフ・ハンドレッドを選んだかっていったら、やっぱり賞金なんだよね」


 澪奈は気恥ずかしそうに頬をかいた。


「二人は自分達の事情話したし、あたしも話すよ。あたしが賞金を欲しいのはね、ご先祖様の、私の遠い伯父さんをサルベージして恋を叶えて上げたいの」

「伯父さん?」

「サルベージ?」


 俺と和美が聞き返すと、澪奈は指を折りながら答える。


「うん、実はね、あたしの、ひいひいひいひいひい? ひいひいひいひい……とにかくずっと前のお婆ちゃんのお兄さんがね、事故で植物人間になっちゃって冷凍睡眠していたんだけど、まぁ色々あって船で移送中に船が沈没して太平洋に沈んじゃったんだよね」


 そう言うと、澪奈はどこか遠い目で壁を見上げた。


「本人に意識なんてないけどさ、悲しいと思わない? いつか治療法が発見されたら解凍されて、もう一度生きられるはずだったのに……一〇〇年もずーっと海の底なんだよ? あたしはそんなの嫌……もう伯父さんを知る人はいない、でも子孫のあたしはいる。あたしはさ、伯父さんの冷凍カプセルを海から引き揚げて、解凍して、今の時代を案内してあげたいの」


 澪奈も、俺達に負けないくらい重たい物を背負っていて、俺はすぐには言葉が出無かった。

 すると和美が、


「でもそれがどうして恋を叶えることになるのよ? 叶えてあげたい、ってことは澪奈が伯父さんを好きなわけじゃないんでしょ?」


 聞かれた途端、澪奈が待っていましたとばかりに両目を輝かせた。


「うんそうなの♪ 実はね実はね聞いて聞いて!」


 澪奈はハイテンションになって俺と和美の顔を交互にババっと見た。


「実はね、さっきもう伯父さんを知る人はいないって言ったけど、実は一人だけいるの! えっとね、お爺ちゃんから聞いたんだけど、その伯父さんには同い年の従兄妹の女の子がいてね、その女の子が伯父さんのこと大好きだったんだって!」


 他人事なのに、澪奈は恋する乙女のハートアイで熱を上げる。


「それで伯父さんが冷凍カプセルに入ったらなんと! その女の子も冷凍カプセルに入っちゃったのよ! 彼のいない時代に未練なんてないからって! キャーキャー♪」

「ちょ、澪奈さん?」


 両手を胸の前で会わせ、澪奈はうっとりとした顔で天井を見上げた。


「すごいよねー❤ 純愛だよねー❤ ロマンチックだよねー❤ でも!」


 と澪奈は俺のむなぐらにつかみかかり、ぐぐっと顔を近づけて来る。


「だからこそ悲しみも一〇倍じゃない! だって二人は海の底で一〇〇年も眠っているんだよ! 同じ船の中でたぶん貨物室に隣り合って運ばれていたのに二人は一緒になることがないんだよ! 織姫と彦星だって一年に一度は会えるのに!」

「ちょっ、澪奈、首が締まって……」


 澪奈の力がパワフル過ぎて、だんだん苦しくなってきた。

 それを聞いてか偶然か、澪奈は俺から手を離すと窓へ振り返り、俺から離れた。


「だからあたしはお爺ちゃんからこの話を聞いた時に決めたの! いつかあたしが二人をサルベージして二人の恋を成就させるんだって!」


 握り拳を突き上げ、窓越しに夜空へ宣言する澪奈。う~ん、熱いなぁ……


「でも澪奈、水を差すようで悪いけど、好きなのはその女の子が伯父さんのことをなんだよな? 伯父さんはそのこの事好きかは」

「絶対好きよ、だってお爺ちゃんがそう言ってたもん」

「「お爺ちゃんが?」」

「うん♪ あ、お爺ちゃんってあたしのお爺ちゃんじゃなくて、その伯父さんと従兄妹の女の子のお爺ちゃんね。うちのお爺ちゃん二三〇歳だから、あれは絶対両想いだって、見ていた本人が言うんだから間違いないよ♪」


 えっ! ええええええええええええええええええ! 騙されているぅううううう!


 和美もベッドの上で驚愕し、青ざめながら目を見開いている。


 和美の顔がここまで大きく動くのも久しぶりだな。


「あの……澪奈? たぶん澪奈はお爺ちゃんに騙されて」


 澪奈はいい笑顔で、


「あはは♪ お爺ちゃんが嘘付くわけないよー♪」

「いや、普通に考えて人は全身サイボーグにしたって脳味噌が二〇〇年も生きられ」


 澪奈は凄くいい笑顔で、


「あはは♪ お爺ちゃんが嘘付くわけないよー♪」

「…………はい」


 俺は折れた。

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