第27話 密談
「和美ちゃんトドメお願い! 狼王拳!」
澪奈の奥義が発動。
狼の頭の形をした光が拳をまとい、澪奈の腕が超高速で連続突きを繰り返す。
澪奈の拳は届かなくても、虚空へ突きを打ちこむと狼型の波動が出てチーターにブチ当たる。
何十という拳がチーターのHPバーを削りながら、動きを封じ込める。
その間に、和美が魔法の準備を整えた。
「それじゃあ覚えたてのこの技で、フレイム・バースト!」
和美の槍先から、今まで見た事もない程大きな、人一人を軽く吞みこみそうな炎の玉が放たれた。
俺と澪奈は側転で炎を回避。
直前まで澪奈の拳を浴びせられていたチーターに回避運動など望むべくもなく、炎に巻かれた猛獣は、HPバーに残った最後の一ドットを失った。
俺の目の前にウィンドウが開いて、多額の経験値とマネーが入る。でもそれだけだ。ボスを倒した以上はレアスキルが手に入るはずなのだが……
「やっりー! お兄ちゃんあたしレアスキル手に入れたよ♪」
上機嫌な声で笑顔を浮かべるのは和美だった。
虚空に浮かぶウィンドウを俺らにも見えるよう可視化する。
「えーっと、バーストマジック。攻撃魔法使用時、三倍のMPを消費することで相手に与えるダメージを二倍にする。へぇ、これなどの技も必殺技みたいに使えるじゃない」
レアスキルを手に入れたことで、一人子供っぽく喜ぶ和美。
そんな和美を眺めながら、俺は澪奈に小声で話しかけた。
「なぁ澪奈。もしかしてトドメを和美に譲ったのって」
「ええ、ボスを倒した倒した時のレアスキルやレアアビリティはパーティーの中で適正のある人一人だけがもらえるわ。でも、適正以上に優先されるのはトドメを刺した人だから。あたしは一人でボス四体倒したし、刀利君は刀道スキルもう持っているでしょ? だから和美ちゃんに貰って欲しかったの」
「…………なんていうかお前……イイ女だな」
「!?」
澪奈の目がまんまるになって、頬がみるみる紅潮していくのが解る。
あ、しまった。
今のって全然違う意味にも捉えられ、
「もうやだ刀利君てばっ♪」
俺がフォローする前に、澪奈の平手が俺の頬を襲った。
「うごぺっ!」
もちろん痛みはないが、首の骨が捻じズレるような感触が不気味だった。
「あ、そうだ。ねぇ刀利君、一回リアルで会わない? 和美ちゃんの病院の場所教えてよ」
◆
とある酒場のVIPルームで、その密談は行われていた。
「おい、六界のボスもやられちまったぞ」
「それにこの名前、またあいつらか」
「このままではレアスキルを独占されてしまう!」
憎らしげに、あるいは腹立たしげにテーブルを叩く男達。
次の声は酷く落ち着いていて、重みがあった。
「ふむ、どうやら計画を急ぐ必要があるらしいな」
また新しい声がする。
「最初のスキルなんて大したことはないさ。ゲームで生計を立てているプロゲーマー達は上界のボスを倒すべく、今は爪を研いでいる。あんなガキ共よりも、そちらの動きを警戒すべきだ」
男は宣言する。
「案ずるな計画は完璧だ。見せてやろうじゃないか、二流でもカードの切り方で一流に、いや、超一流に勝てるということをな」
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