第24話 トリオでボスに勝利


「サンダー!」


 うろこに覆われた背中に槍を突き刺し、零距離で雷撃を撃ちこむ和美。

 和美は振り落とされる前に自ら跳躍して、カメレオンレックスの背中から退いた。

 今度の体色は青。


「よし、今ならあたしの打撃が」


 サンダーでしびれ、クラッシュ状態になったカメレオンレックスの眼前に澪奈がいた。


「弱点よ!」


 澪奈の飛び蹴りが炸裂。


 カメレオンレックスは大きく後ろへのけぞりながらHPバーを減らした。

 カメレオンレックスは本来、ボスモンスターにも匹敵する強敵らしい。


 でも、体色が緑の時は斬撃、赤の時は魔法、青の時は打撃に極端に弱くなるらしい。


 澪奈が俺らに協力を求めたのは、これが理由だった。


 俺らは三人でカメレオンレックスを取り囲み、緑の時は俺が攻撃して他の二人が陽動。


 赤の時の和美が攻撃して俺と澪奈が陽動。

 青の時は澪奈が攻撃して俺と和美が陽動。


 これの繰り返しで、カメレオンレックスのHPバーは簡単にレッドゾーンへと突入した。


「よし、これなら」


 その時、カメレオンレックスの口から、五枚の舌が飛び出した。


「嘘だろ!?」


 これは流石にかわせない。

 俺はダメージ覚悟でガード体勢に入った、直後。


「ほいっと」


 澪奈が俺の前に割り込んできて……舌を全て拳で弾いた。


 パリング。

 敵の攻撃を引きつけ、正しい角度で打ちこむと、九〇パーセントの確率で攻撃を無効にして、残り一〇パーセントでもダメージを半減できるという超高等技術だ。


 ただしこれは、例えるなら2D格闘ゲームの一フレームを見切るような動体視力と繊細さが必要だ。狙って、しかも連続して出せるしろものではない。


 でも五枚の舌はなおも連続的に襲い掛かってきて、怜奈はその全てを常にパリングし続けた。


 ゲームというよりも本物の格闘家でもここまでの成功率は有り得ないだろう。

 なのに、あろうことか澪奈はパリングしながら……走った。


「なぁッ!?」


 自分の速度も加わって、相対速度で舌の動きはさらに加速する。


 なのに澪奈は舌の鞭を全てパリングしながら、時には一割の失敗率に入ってしまうが、体をわずかに逸らすだけで回避。


 回避スキルでも持っているのだろうか?


 まるで同じ極の磁石同士のように、澪奈はカメレオンレックスの舌を避けることができた。


 パリングと神回避。


 その繰り返しで敵のふところに潜り込んだ澪奈は真上に跳び、サッカーのオーバーヘッドキックのように右足を掲げた。


 振りあげたつま先が、カメレオンレックスの眼球を直撃。


 ウィークポイントアタック。


 モンスターには全て、弱所が設定されている。


 目など、実際の生物の弱点は当然なのだが、でも真下から跳躍して、あんな曲芸みたいな動きで正確に眼球を捉えるなんて、どうやったらそんな芸当が……


 カメレオンレックスが、その巨体を地面に横たえ、HPバーが消滅した。


 これが四体のボスを倒した恩恵。


 俺の刀道スキルみたいな、レアスキルを一人で四つも持つプレイヤーの実力なのか……


 俺は澪奈の実力に驚嘆させられてから、素直に彼女の実力を認めた。


「良かったな澪奈。これでレイズドールが手に入るぞ」

「え? 何の話?」


 澪奈はくるりと振り返って、感情エフェクトで頭上に疑問符を浮かべる。


「レイズドールが欲しかったんだろ?」

「そういやレイズドール貰えるんだっけ? でもあたしの本命は……あ、あったあった♪」


 澪奈は、空中を指先でタッチしている。

 自分のメニューウィンドウを操作しているのだろう。

 澪奈の手に光が湧きあがり、巨大な肉の塊へと姿を変えた。


「カメレオンレックスのお肉、ゲットよ♪」


 俺と和美は、ぽかーんと口を開けた。


「「へ?」」

   

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