第22話 新メンバー
「君らが最初にボスを倒したあの。すごいじゃない」
街の酒場に戻った俺らは、丸テーブルの上で料理を食べながら三人で情報交換をしていた。
酒場はNPC意外にもプレイヤーの客が多くて、今も羽扉を押し開けて新しい客がバーカウンターへと座った。
ハーフ・ハンドレッドにおける食事は、ただの楽しみではなく、ゲームのお約束通り、HPとMPが回復する。
ポーションのほうが時間はかからないが、俺らのように味を楽しみたいプレイヤーは、あえて食事だけで回復したりする。
俺はウェイトレスからキノコと山菜のパスタを受け取りながら、ミルクを吞んだ。
「君達の状況は解ったよ。じゃあさ、これはあたしからの提案ね。三人でパーティー組まない?」
思いがけない提案に、俺はミルクを吞むのを止めた。
「お前ソロプレイヤーじゃないのか?」
俺が眉根を寄せると、澪奈はスプーンをスープに戻して、ひじをついた手に顎を乗せる。
「はは、さっきも言ったけど、好きでソロプレイしているわけじゃないんだってば」
愛嬌のある苦笑に、俺は口の中で舌を噛んだ。
そうでもしなければ、顔がにやけてしまう。
「あたしも流石に、ソロプレイで優勝できるなんて思ってないわ。でも君達と組めば、ね」
偉そうな事を言わせてもらうと、ソロプレイヤーにとって弱い仲間は邪魔でしか無い。
かつて俺も体験したが、強力なソロプレイヤーが中途半端な仲間を持つと、そいつらを守るのに手を取られて、むしろ足手まといになる。
でも俺と和美は最初にボスを倒したわけだし、俺も、一人でボスを四体も倒した澪奈となら組んでもいいと思う。
「どうする和美? 三人なら賞金を山分けしても六億円もらえるし」
「借金返済には問題ないわね。賞金山分けしないといけないから、仲間はあまり増やしたくないけど、まぁ澪奈の実力なら、でも」
和美の視線が、澪奈の胸にちらっと落ちた。
「どったの?」
澪奈が和美の顔を覗き込む。
澪奈の無邪気な瞳と、和美の濁った瞳が見つめ合う。
「まっ、いいけど。こいつのせいで誰かさんの集中力がなくならなければっ!」
和美のジト目に、俺が映る。
「おい、それはどういう意味だよ」
「別に」
素晴らしくスレンダーで、細身で、華奢で、抱き締めれば折れてしまいそうな和美は、不機嫌そうにそっぽを向いた。
「和美ちゃんに何したの刀利君? こんな可愛い妹さんなんだから、もっと大事にしてあげなきゃ」
「え、可愛い♪」
和美の耳がぴくんと反応して、急に上機嫌になった。
「うん、可愛いよ。だって和美ちゃんて本当にスレンダーで細身で華奢で抱き締めたら折れちゃいそうで、見ているだけで守ってあげたくなるもん。あたしには和美ちゃんみたいな魅力がないからうらやましいなぁ」
『■■■■■■■~~‼』
和美がモザイクを要する表情でグランガチのような声を上げ、背後には悪魔のアバターが表示されている。
これはプレイヤーの憎しみが測定不能になった時、一パーセントの確率で出現するレア感情エフェクトだ。
流石は和美、一パーセントの確率を引き寄せやがった。
「そうだ二人とも、パーティー組んで早速で悪いんだけどさ。ちょっと頼みごとしてもいいかな?」
澪奈は顔の前で手を合わせ、片目をつぶってお願いしてくる。
「頼みごと? なんだよ、まさかいきなり金やアイテムを都合してくれとか言わないだろうな?」
「そうじゃなくってさ、手伝って欲しいクエストがあるの♪」
お前程のプレイヤーがか?
と俺は首をひねった。
「これよこれ」
澪奈がウィンドウを開いて、受けている最中のクエストを見せてくれる。
「カメレオンレックス退治? 報酬はレイズドール三つ」
レイズドール。確か装備していたら死んでもHP五〇パーセントの状態で復活できる奴だよな。
確かに、これはおいしいな。まして澪奈は回復してくれる仲間がいないソロプレイヤー。
パーティーを組んだ今でも、俺らの中に回復に特化した奴はいない。
数もちょうど三個、これはいいクエストかもな。
「六界のボスは強いらしいから、このクエストクリアしたら三人でボス倒しに行こ♪」
澪奈の笑顔に、俺はただ頷いた。
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