第21話 巨乳ソロプレイヤー


「HPバーが!」


 グランガチのHPバーを見て、俺はハッとした。今の攻撃で、HPバーが一〇分の一以下になって赤くなる。

 それがローリング攻撃の呼び動作なのか、グランガチは長い尾を伸ばして、右足を地面にめり込ませた。

 だが、


「爆殺獣王拳!」


 巨大な、少女自身よりも大きな赤い光の獅子が炎のようにして湧きあがる。

 獅子は少女の拳と一緒に、グランガチの左アゴを直撃。

 少女自身も巻き込む巨大な爆炎を巻き上げた。

 爬虫類が最後の悲鳴を上げて、ガラスの巨象となって砕け散る。

 爆煙が晴れると、そこにはもう、謎の少女だけが残されていた。


「って、何人の獲物横取りしてんのよあんた!」


 叫びながら、和美が大股でずかずかと少女の背中に歩み寄る。


「え? あたし?」


 くるりと振り返った少女を見て、俺は思わず息を吞んだ。


 顔の雰囲気から、それが人工的なアバターではなく、素顔である事が解る。

 僅かに青みがかった濡れ羽色の黒髪は肩口で切りそろえられ、風でやわらかくなびく。


 大きな瞳は綺麗で、でもまた少女らしい、可愛らしさを残す魅力を持っていた。

 年は解らないけど、身長は女子にしてはやや高めで、その身長を考慮してもスラリと長い手足をしている。


 そして青い短パンに、白いチューブトップという、露出度の高い格好のおかげで可愛いおへそが丸見えだが、自己主張の激しい胸がそれ以上に目立った。

 それに、自分でも下世話だと思うが彼女の後姿は、短パンを押し上げるヒップラインが魅力的だった。


 何この娘?

 何この美少女?

 何このエロい体?

 これアバターだよね?

 絶対これ外見いじっているよね?

 じゃないとこんな出来すぎた姿にならないよね?


「そうよあんたよ。このクエストはせっかくあたし達がクリアしようと思ってたのに横から来てぇ~」


 和美が犬歯を剥き出しにして、手をわなわなさせる。


「あーごめーん♪ どうりで。腐った肉も使ってないのに主がいるから変だと思ったんだけど、主がいなかったら使えって意味なのかと思ったわ、あはは」


 少女は快活に笑いながら、自分の後頭部を手でかいた。


「でもじゃあ君達どこにいたの? 全然戦っていなかったじゃない?」

「そ、それは」


 口ごもる和美に代わって、俺が前に進み出る。


「木の影に隠れて様子を見ていたんだよ。突然あんなでかいワニが出て来たからさ、スキャンスコープで情報確認したり」

「そっか、そりゃ悪いことしたわね。う~ん、でもあたしもこのクエストやる予定だったし、悪いけど報酬のアクセサリーはあげないわよ」

「それは気にしないでくれ。クエストを横取りされたのは悔しいけど、オンラインRPGやっていればある事だよ」


 和美には悪いが、こんなトップレベルの美少女が相手だと心にゆとりもできるというものだ。

 ムサい野郎だったら、シバき倒すけど。


「それよりお前、ソロプレイヤーか?」


 彼女が戦闘を始めてからそれなりに時間が経つけど、仲間が現れる様子は無かった。

 俺は目の上に手でひさしを作り、わざとらしく首を回す。


「ええ、君の言う通りソロよ。他にやる人いなかったし。でも一人でも結構やれるものね。この前もボスモンスター倒してまたレアスキル手に入れちゃったわ♪」


 ちょっと自慢げに笑いながら、おっきな胸を張る少女。豊かな胸が、複雑な演算処理によって大きく揺れた。


「え? ボ、ボス? じゃあもしかしてあんた!?」


 俺と違い、胸に心を奪われなかった和美がいち早く気付いた。

 俺も和美に言われてから気付いたけど、今ボスを倒した事があるのは俺らと、あとはまだ一人だけだ。


「な、なあ、そういえばあんた名前は?」

「あたし? あたしは桐生澪奈(きりゅうれな)。本名よ。ちなみに素顔プレイヤーね♪ よろしくぅ♪」


 澪奈ははじけるような笑みを浮かべながら、両手を顔の横に上げてひらひらさせた。

 と、いうことは……

 俺と和美の絶叫が、シンクロした。


「「お前かぁああああああああああああああああああああああああ‼」」


 澪奈の目が点になる。


「へ? どゆこと?」

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