第20話 最強プレイヤー登場!
クエスト、沼地の魔獣退治。
俺と和美は六界のとある森の奥へと足を運んでいた。
うっそうと生い茂る木々が太陽光を遮り、どこも暗くて、少し不気味だ。
時々大きな蛾が飛んでいたり、ヤモリのような爬虫類が木を登っている。
遭遇するモンスターも、気持ち悪い見た目の奴が多かった気がする。
「なんか陰湿な場所ねぇ、テンション下がっちゃう」
「そう言うなよ。沼地の魔獣を倒せば、敏捷率が一〇パーセントも上がるアクセサリーもらえるんだからさ。ほら、着いたぞ」
深い森の中に、ぽっかりと空いた空間。そこを大きな沼が支配している。
緑色の水面からはねじくれた草が生え、周囲には苔の生えた岩が散乱している。
苔の匂いまで再現されたフィールドを見ると、H2の作り出す仮想世界の精巧さに驚かされた。
しかしこの匂いを再現するためのプログラミングを組む必要があるわけだが、開発メンバーは必死に苔の匂いの研究でもしたのだろうか?
ゲームクリエイターではない俺には解らないが、なんとなく開発陣の苦労を想像してしまった。
「えーっと、魔獣に会うには」
俺はクエストを受けた時にもらったアイテム『腐った肉』をアイテムボックスから出して、オブジェクト化する。
俺の手に光が湧き上がり、色の悪くなった骨付き肉の骨の部分が握られる。
「ほい」
それを沼に投げ捨てると、ゾブン、と音を立てて水面に波紋が広がり、肉は沈んだ。
「…………」
「…………」
何も起こらなかった。
「おっかしいわねぇ……沼に魔法でも撃ちこんでみる?」
と、和美は俺の顔を覗き込んで来る。
「う~ん、クエストが間違っているはずはな」
言い切る前に、巨大な口が水面を突き破った。
水しぶきのカーテンをまといながら、巨大なワニが腐った肉をくわえていた。
その迫力に目を丸くすると、ワニの黄色い瞳が俺の瞳を捕える。
ワニは低く唸ってから肉を吞みこんで、水面に腹を叩きつけてから、猛然と泳ぎ始める。
太く長い尻尾をうねうねと動かして、沼をかきわけトビウオのように水面から俺らの立つ地面めがけて跳んだ。
「お兄ちゃん!」
「後ろだ!」
俺と和美は大きくバックステップ。
森の木々に身を隠して様子を見る。
よく見るとただのワニではない。
全長は約二〇メートル。
背中は亀のような甲羅に覆われていて、しかもロングソードの刀身と見間違うような刃がが無数に生えている。
敵のバトルエリアに入った事で、剣山を背負った巨大ワニ、その頭上にHPバーと『グランガチ』の文字が表示された。
俺はアイテムやで買ったスキャンスコープを使用。小型望遠鏡のようなそれでグランガチを見ると、グランガチのデータが色々と視界に表示される。
「レベルは二〇。弱点は雷と氷。炎は効果が薄い。HPがレッドゾーンに入るとローリング攻撃をしてくるらしい」
「解ったわ。ならあたしの氷魔法で」
「でりゃあああああああああああああ!」
和美の声を斬り裂いて、空から人影がグランガチ目がけて飛来。
落雷のような勢いでグランガチの額に飛び蹴りを叩き込んだ。落雷のような、というよりも、事実その人影、いや彼女の足は雷を纏っていた。
「しゅっ!」
彼女は地面に着地すると同時に短く息を吐く。
目にも映らない素早い身のこなしでグランガチの横へ回り込むと、稲妻を纏った右拳のアッパーがグランガチの横っ腹を突き上げる。
獣の咆哮を無視して少女は殴る。
かち上げられ無防備に晒されたグランガチのどてっ腹を殴る、殴る、殴る、そして蹴る。
マシンガンのように放たれる拳と脚は、全て雷の光をまとって電撃を叩き込んでいる。
だがそれも長くは続かない。
グランガチの瞳が小癪な生き物を見下ろして、鋼の尾が少女に降り注ぐ。
それでも少女の拳は止まらない、いや、止めなかった。
少女が雷をまとわない正拳突きを叩きこむと、その衝撃を利用して後ろへ跳んだ。
一瞬前まで少女のいた地面に、長大な尾がめりこむ。
相手を殴った反動でバックステップ。
攻撃と回避を一つにした攻防一体の技だった。
「HPバーが!」
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