第19話 新クエスト


 五界、ボスダンジョン内、ボス部屋へ向かって全力疾走中。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」

『新着情報』


 門を蹴り破ると、ボス部屋は空っぽだった。


『五界ボス撃破。六界へのゲートが開きました』


「「えええええええええええええええええええええええ!?」」


   ◆


 俺は六界の酒場で、一杯五メルの果実酒を飲み干し、ジョッキの底を木製テーブルに叩きつけた。


「ちくしょう! どういう事だよこれはよー!」

「プハッ! ほんと、信じらんないわよね! お姉さんもう一杯」

「俺もだ」


 俺は酒好きじゃないけど、なんだか今は酒を飲みたい気分だった。


 新しいお酒を注いでもらうと、俺と和美はまた一気に吞んだ。


 口いっぱいにジュースとは違う果物の酸味と甘みが広がり、喉が熱くなる。


 当然、本当に飲んでいるわけじゃない。


 ただH2が俺らの脳味噌の、味覚と触角を司っている部分を刺激しているだけだ。


 味覚と触角を騙すのは、ダイエット用の技術としてH2開発以前からあったらしく、今では太らずおいしいものが食べたいという理由でネトゲをする人もいるぐらいだ。


 酔うこともなく、純粋に味を楽しむための酒を飲み干して、俺は舌打ちをした。


「そりゃあ俺だってよ。四九界までの全部のボススキルをゲットできるなんて思ってねぇよ。でも俺らは一界のボスを倒したんだぜ? なのに四回連続で逃すって」

「しかも、全部同じプレイヤーにね! 誰よこのレナって」


 大神殿の掲示板や記録室では、今まで倒されたボスの情報や、倒したパーティーの名前が見られる。


 それによると、二界から五界までのボスを倒したのはパーティーではなくレナというソロプレイヤーらしい。


「一ケタ界は、一気に攻略する予定だったのになぁ……」


 ハーフ・ハンドレッドのボスは、界の番号+二〇のレベルを持つ。

 つまり、一界のボスは二一レベル。

 二界のボスは二二レベル。

 一レベルしか変わらない。


 だから前の界のボスを倒せたなら、すぐ次の界のボスも頑張れば倒せる、と思ってよい。


 それに一界のボスを倒した事で、俺と和美のレベルは上がったし、俺に至っては刀というレア武器を手に入れている。


 五界まで一気に俺らが制覇してやる、なんて意気込んでしまっても仕方ないだろう。


「でもよ、この界のボスはまだ倒されてないんだな」

「あー、レナも警戒しているんじゃない? ほら、六界に来て速攻でボスダンジョンに行ったらパーティー、みんな全滅して帰ってきたらしいし。きっとキリ良く五の倍数の次の界は、難易度が一気に上がるんじゃない?」

「かもな、じゃあクエストをちょっと見てから」


 俺と和美は席を立って、お勘定を済ませた。二人合わせて一〇〇メル。

 メルはこの世界の通貨単位だ。


 銅貨は一枚一メル。

 大銅貨は一枚一〇メル。

 銀貨は一枚一〇〇メル。

 大銀貨は一枚一〇〇〇メル。

 金貨は一枚一〇〇〇〇メル。

 大金貨は一枚一〇〇〇〇〇メルだ。


 先にクエスト依頼版を見上げていた和美が、小さく飛び跳ねた。


「ねぇ兄さん見てこれ♪」

「おっ、いいじゃん」


 俺は口笛を吹いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る